第66話『結婚式』
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婚約発表から三ヶ月後、春が訪れた。
桜の花が満開に咲き誇る、穏やかな日曜日。
私、水瀬莉央と柊慎一郎の結婚式が執り行われた。
会場は、都内の由緒あるホテルの庭園。
ガーデンウェディングを選んだのは、自然の中で温かな式を挙げたいという、二人の願いからだった。
「莉央、準備はいい?」
控室で、母が優しく声をかけてくれた。
「うん、大丈夫」
私は純白のウェディングドレスに身を包み、鏡の前に立っていた。
シンプルで上品なデザインのドレス。
胸元には、祖母のペンダントを着けている。
「莉央、本当に綺麗よ」
母が涙ぐみながら言った。
「お母さん、まだ泣かないで。式が始まっちゃうよ」
「ごめんね。でも、嬉しくて……」
母は涙を拭いながら、私を抱きしめてくれた。
「莉央、幸せになってね」
「うん。絶対に幸せになるよ」
私も母を強く抱きしめた。
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午後2時、式が始まった。
参列者は、両家の親族と親しい友人、そして会社の社員代表たち。
佐藤部長、田中部長、鈴木主任、中村顧問、本間常務、そして鏑木記者も来てくれていた。
総勢約80名ほどの、温かな式だ。
庭園には白い椅子が並べられ、中央には花のアーチで飾られたバージンロードが続いている。
桜の花びらが風に舞い、まるで祝福しているかのようだった。
「莉央、行こう」
父が私の腕を取った。
「うん」
私は父と腕を組み、バージンロードを歩き始めた。
参列者たちが立ち上がり、拍手で迎えてくれる。
その先には、タキシード姿の柊が立っていた。
柊は優しく微笑みながら、私を見つめている。
「莉央……」
父が小さく呟いた。
「お父さん?」
「幸せになれよ」
父の声が少し震えていた。
「うん。ありがとう、お父さん」
私は涙をこらえながら、頷いた。
バージンロードの終点に着くと、父は私の手を柊に渡した。
「柊君、莉央を頼んだよ」
「はい。必ず幸せにします」
柊が深く頭を下げた。
父は涙を拭いながら、席に戻った。
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司会者が式の進行を始めた。
「それでは、新郎新婦による誓いの言葉を述べていただきます。まず、新郎からお願いします」
柊が一歩前に出て、参列者を見渡した。
そして、私の目を真っ直ぐに見つめて、言った。
「水瀬莉央さん。僕は今日、あなたと結婚できることを、心から幸せに思います」
柊の声が、庭園に響く。
「あなたと出会い、共に過ごした時間は、僕の人生で最も大切なものです。あなたの強さ、優しさ、そして誰よりも真摯に生きる姿に、僕は何度も励まされました」
涙が溢れそうになった。
「これから先、どんな困難が待っていても、僕はあなたと共に乗り越えます。あなたを支え、守り、そして共に笑い合える未来を作ります」
柊が私の手を握った。
「莉央さん、僕と一緒に、幸せな未来を歩んでください」
「はい」
私は涙を流しながら、頷いた。
参列者たちから、温かな拍手が起こった。
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「それでは、新婦からお願いします」
司会者に促され、私は深呼吸をした。
そして、柊を見つめて、言葉を紡いだ。
「柊慎一郎さん。私は今日、あなたと結婚できることを、何よりも幸せに思います」
声が少し震えた。
「私は、一度失敗した人生を経験しました。大切なものを失い、絶望の中にいました」
参列者たちが静かに聞いている。
「でも、二度目の人生で、あなたと出会えたことが、私の全てを変えてくれました」
柊が優しく微笑んだ。
「あなたは、どんな時も私を信じてくれました。支えてくれました。そして、共に未来を築こうと言ってくれました」
涙が頬を伝った。
「私は、あなたと共に、幸せな未来を作ります。どんな困難があっても、あなたと一緒なら乗り越えられると信じています」
私は柊の手を強く握った。
「柊さん、これから先も、ずっと一緒にいてください」
「ええ。ずっと一緒にいます」
柊がそっと涙を拭ってくれた。
参列者たちから、大きな拍手が起こった。
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「それでは、指輪の交換をお願いします」
司会者の声に導かれ、私たちは指輪を交換した。
柊が私の左手薬指に、婚約指輪と重ねて結婚指輪をはめてくれる。
そして、私も柊の左手薬指に、結婚指輪をはめた。
「誓いのキスをどうぞ」
柊が私の頬に手を添えて、優しくキスをしてくれた。
参列者たちから、祝福の拍手と歓声が上がった。
桜の花びらが風に舞い、二人を包み込む。
まるで、祖母が祝福してくれているかのようだった。
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式の後は、同じ庭園でガーデンパーティーが開かれた。
参列者たちが次々と祝福の言葉をかけてくれる。
「莉央社長、本当におめでとうございます!」
佐藤部長が満面の笑みで握手を求めてきた。
「ありがとうございます、佐藤部長」
「柊さんも、莉央社長をよろしくお願いしますね」
「はい。必ず幸せにします」
柊が深く頭を下げた。
田中部長、鈴木主任、中村顧問も次々と祝福してくれた。
「莉央社長、末永くお幸せに」
「ありがとうございます」
本間常務が、少し涙ぐみながら言った。
「莉央社長が社長に就任されてから、会社は本当に良い方向に進んでいます。これからも、柊さんと二人三脚で頑張ってください」
「はい。ありがとうございます」
鏑木記者も来てくれていた。
「莉央さん、おめでとう。本当に良かったね」
「鏑木さん、ありがとうございます。鏑木さんがいなければ、黒崎を止めることはできませんでした」
「いや、僕は記事を書いただけだよ。全部、莉央さんの勇気と行動力のおかげだ」
鏑木記者が優しく微笑んだ。
「これからも、いい記事を書いてくださいね」
「ああ、もちろんだよ」
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夕方、パーティーも終わりに近づいた頃。
私は両親と三人で、少し離れた場所に立っていた。
「莉央、本当におめでとう」
父が私の肩を抱いてくれた。
「ありがとう、お父さん」
「柊君は、本当にいい青年だ。莉央を大切にしてくれるだろう」
「うん」
母も涙を流しながら、私を抱きしめてくれた。
「莉央、幸せになってね」
「うん。絶対に幸せになるよ」
三人で抱き合いながら、涙を流した。
「お父さん、お母さん、本当にありがとう。二人がいてくれたから、私はここまで来られた」
「莉央……」
「私、頑張るよ。社長としても、妻としても」
「ああ、頑張れ。でも、無理はするなよ」
「うん」
私は両親に深く頭を下げた。
「ありがとうございました」
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日が沈み始め、庭園には柔らかな夕日が差し込んでいた。
私と柊は、参列者たちに見送られながら、会場を後にした。
「莉央さん、今日は本当に素敵な式でしたね」
「うん。みんなが祝福してくれて、本当に幸せだった」
「これから先も、ずっと一緒に幸せを作っていきましょう」
「ええ。ずっと一緒に」
私たちは手を繋ぎながら、車に乗り込んだ。
車が動き出すと、参列者たちが手を振ってくれている。
私も窓から手を振り返した。
「みんな、ありがとう」
心の中で、静かに呟いた。
そして、胸に手を当てた。
そこには、祖母のペンダントがある。
「おばあちゃん、見てる? 私、幸せになったよ」
涙が溢れてきた。
「ありがとう、おばあちゃん」
柊が優しく私の手を握ってくれた。
「莉央さん、大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫。ただ、嬉しくて……」
「そうですか。よかった」
柊が微笑んだ。
車は夕日に照らされた街を走り続けた。
新しい未来へと、二人で歩き出す。
その第一歩を、今日踏み出したのだ。




