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第58話『報道の衝撃』

黒崎への情報提供と、鏑木記者への取材協力から、一週間が経過した。


国税局の強制調査は継続しており、黒崎のグローバル・キャピタルには、連日のように調査官が出入りしていた。


そして、月曜日の朝、鏑木記者の詳細な調査報道が、大手新聞の一面を飾った。


私は、朝のニュースを見ながら、朝食を取っていた。


テレビ画面には、大きな見出しが映し出されている。


『黒崎康介、脱税疑惑で国税局が調査開始 十億円超の所得隠しか』


アナウンサーが、深刻な表情で読み上げる。


「著名投資家の黒崎康介氏が率いるグローバル・キャピタルに対し、国税局が強制調査に入りました。関係者によると、海外取引を通じた所得隠しにより、十億円を超える脱税が行われていた疑いがあるとのことです」


画面が切り替わり、鏑木記者が登場する。


「私たちの取材によると、グローバル・キャピタルは、複数の海外ペーパーカンパニーを経由して、本来日本で課税されるべき所得を、タックスヘイブンに移転していた疑いがあります」


鏑木記者の説明に合わせて、資金の流れを示す図が表示される。


「また、黒崎氏は過去にも、企業買収時に不透明な資金移動を行っていたとの証言もあり、今回の脱税疑惑は、氷山の一角である可能性があります」


母が、心配そうに私を見る。


「莉央、大丈夫なの? あなたが情報提供したことが、バレたりしないかしら」


私は母を安心させるように微笑む。


「大丈夫よ、お母さん。柊さんが、全て慎重に手配してくれたから」


会社に着くと、社員たちが黒崎の報道について話していた。


「副社長、おはようございます!」


「おはようございます」


本間常務が、新聞を持って近づいてくる。


「副社長、ご覧になりましたか? 鏑木記者の記事です」


私は新聞を受け取る。


一面には、黒崎の写真と共に、詳細な調査報道が掲載されていた。


『黒崎康介の闇 投資家から"ハゲタカ"と恐れられた男の転落』


記事は、黒崎の過去の企業買収での不正疑惑から、今回の脱税疑惑まで、詳しく報じていた。


「本間常務、これは……かなり詳しいですね」


「はい。鏑木記者は、相当な取材をしたようです。複数の証言も掲載されています」


私は記事を読み進める。


そこには、黒崎の元社員や、被害を受けた企業の経営者たちの証言が記載されていた。


「黒崎氏は、常に法の抜け穴を探していました。儲かるためなら、何でもするという人でした」


「彼の企業買収は、常に攻撃的で、多くの企業が被害を受けました」


証言は、黒崎の冷酷さと貪欲さを明らかにしていた。


午前十時、私は副社長室でテレビのニュースを見ていた。


画面には、グローバル・キャピタルの本社前に集まった報道陣が映し出されている。


「グローバル・キャピタルの株価は、今朝の取引開始直後から急落し、一時は前日比三十パーセント安まで下落しました」


経済アナウンサーが説明する。


「市場関係者は、『黒崎氏の信用失墜により、投資家が一斉に資金を引き揚げている』と分析しています」


画面が切り替わり、経済評論家が登場する。


「黒崎氏は、長年にわたり金融業界で影響力を持っていましたが、今回の脱税疑惑により、その影響力は急速に低下するでしょう。投資家の信頼を失った以上、グローバル・キャピタルの経営は厳しくなると思われます」


午後、柊が副社長室を訪れた。


「莉央さん、報道の影響は予想以上です」


柊が資料を広げる。


「グローバル・キャピタルの主要な投資家が、相次いで資金の引き揚げを表明しています。また、取引先の金融機関も、融資の見直しを検討し始めています」


「つまり……」


「黒崎氏の会社は、資金繰りが急速に悪化しています。このままでは、倒産の可能性もあります」


柊の説明に、私は複雑な表情を浮かべる。


「柊さん、私たちがしたことは……正しかったんですよね?」


柊は私の手を握る。


「もちろんです。莉央さん、黒崎氏は脱税という犯罪を犯していた。それを明らかにすることは、社会正義です」


「でも……」


「莉央さん、あなたは優しすぎます。黒崎氏は、自分の行いの結果を受けているだけです」


柊の言葉に、私は静かに頷く。


その日の夕方、鏑木記者から連絡があった。


「水瀬副社長、続報です。検察が、黒崎氏の立件に向けて動き始めました」


「立件……ですか」


「はい。国税局の調査で、十分な証拠が揃ったようです。早ければ、今週中にも逮捕される可能性があります」


「今週中……」


私は驚く。


「水瀬副社長、これは、社会正義が実現される瞬間です」


鏑木記者の声は、興奮を帯びていた。


電話を切った後、私はすぐに父と本間常務に報告した。


「お父さん、本間常務、黒崎さんが今週中にも逮捕される可能性があるそうです」


父は深く息を吸う。


「ついに……そこまで来たか」


本間常務も真剣な表情で言う。


「副社長、これで当社への脅威は、完全になくなります」


「はい……でも、まだ油断はできません」


私の言葉に、二人は頷く。


その夜、私は柊と夕食を取った。


「柊さん、黒崎さんが逮捕されるかもしれないそうです」


「そうですか……」


柊は少し考えた後、言う。


「莉央さん、まだ心が晴れませんか?」


私は正直に答える。


「はい……黒崎さんは確かに悪いことをしました。でも、彼の人生が崩壊していくのを見るのは、辛いです」


柊は優しく微笑む。


「それが、あなたの優しさです。でも、莉央さん、忘れないでください。黒崎氏は、多くの企業と人々を傷つけてきました」


「わかっています……」


翌日、テレビのワイドショーは、黒崎の脱税疑惑を大きく取り上げていた。


コメンテーターたちが、次々と厳しい意見を述べる。


「黒崎氏は、長年にわたり『ハゲタカ投資家』として、多くの企業を食い物にしてきました。今回の脱税疑惑は、彼の本性を示すものです」


「投資家の信頼を裏切り、国民の税金を逃れていた。許されることではありません」


メディアは、容赦なく黒崎を批判していた。


午後、佐藤部長が報告に来た。


「副社長、業界内でも、黒崎氏への批判が高まっています」


「具体的には?」


「黒崎氏の会社と取引のあった企業が、次々と関係を断ち始めています。また、業界団体も、黒崎氏の会員資格を停止する方向で検討しているそうです」


「そうですか……」


私は窓の外を見つめる。


その夜、私は一人で副社長室に残っていた。


窓の外には、東京の夜景が広がっている。


黒崎の転落を、メディアは連日報じている。


彼の会社は崩壊しつつあり、逮捕も間近だという。


私は、胸元の祖母のペンダントを握りしめる。


「おばあちゃん、これで良かったんだよね?」


ペンダントは、静かに輝いている。


私は、深呼吸をする。


正義のために戦うこと。


それは、時に辛い決断を伴う。


しかし、それでも、私は前を向いて進まなければならない。


社会正義のために。


会社のために。


そして、全ての人のために。


スマートフォンが振動した。


柊からのメッセージだ。


『莉央さん、今夜はゆっくり休んでください。あなたは、正しいことをしました。自信を持ってください。愛しています』


私は微笑み、返信する。


『ありがとう、柊さん。あなたの言葉に、いつも救われます。愛しています』


私は、オフィスの明かりを消し、帰宅した。


明日、黒崎がどうなるかはわからない。


しかし、私は、自分の判断を信じる。


正義のために戦った。


その選択を、後悔はしない。


私は、前を向いて進む。


どんな結果が待っていても、恐れない。


それが、私の覚悟だ。


翌朝、会社に着くと、社員たちが真剣な表情で集まっていた。


「副社長、おはようございます」


「おはようございます。どうかしましたか?」


本間常務が近づいてくる。


「副社長、黒崎氏の会社が、今朝、臨時株主総会を開くと発表しました」


「臨時株主総会……何のためですか?」


「おそらく、経営陣の刷新と、資金繰りの対策でしょう。会社を守るための最後の手段だと思われます」


私は頷く。


「わかりました。引き続き、状況を注視してください」


「承知しました」


午前中、私は父と今後の対応について協議した。


「莉央、黒崎の会社は、もう持たないだろう」


父が言う。


「はい……報道の影響が、予想以上に大きいです」


「お前が情報提供をしたことは、正しかった。これで、当社は完全に守られる」


父の言葉に、私は深く頷く。


その日の午後、テレビのニュース速報が流れた。


「速報です。検察が、グローバル・キャピタルの黒崎康介氏を、脱税容疑で明日にも逮捕する方針を固めたことがわかりました」


私は、テレビを見つめる。


ついに……


明日、黒崎が逮捕される。


長い戦いが、ついに終わろうとしている。


私は、静かに深呼吸をする。


これで、本当に終わる。


黒崎との戦いが。


そして、新しい時代が始まる。


私は、前を向いて進む。


未来へ。



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