表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/68

第52話『黒崎の最後の賭け』



EcoMartとの契約交渉準備が本格化してから一週間が経った。


柊の法律事務所では契約書の最終調整が進み、製造部では製造ライン増設の計画が固まりつつあった。


すべてが順調に見えた。


しかし、その日の午前、状況は急変した。


午前十時、本間常務が深刻な表情で副社長室に入ってきた。


「副社長、緊急の報告があります」


私は顔を上げる。


「どうしたんですか?」


本間常務はタブレットを差し出す。


「東和トレーディングから連絡がありました。取引条件の見直しを求めてきています」


私は驚く。


「東和トレーディングが? あの会社は、黒崎の圧力を退けて、当社との取引を続けてくれたはずです」


本間常務は頷く。


「はい。しかし、今回は別の理由のようです。『より有利な条件を提示する企業が現れた』とのことです」


私は唇を噛む。


「誰ですか? その企業は」


本間常務は慎重に答える。


「詳細は明かされていませんが、おそらく……黒崎氏が関与していると思われます」


私は立ち上がる。


「黒崎が……まだ諦めていなかったんですね」


本間常務は続ける。


「さらに、山本物産からも同様の連絡がありました。こちらも、取引条件の見直しを求めています」


私は深く息を吸う。


「すぐに父と柊さんを呼んでください。緊急会議を開きます」


三十分後、父、柊、本間常務が副社長室に集まった。


私は状況を説明する。


「東和トレーディングと山本物産から、取引条件の見直しを求められています。おそらく、黒崎が裏で動いています」


父が深刻な表情で言う。


「黒崎め……まだ諦めていなかったか」


柊が冷静に分析する。


「黒崎氏は、当社が国際展開で忙しい今を狙っているのでしょう。主要取引先を揺さぶり、当社の経営基盤を弱めようとしています」


私は窓の外を見つめる。


「黒崎は、『いつか戻ってくる』と言っていました。その時が来たということですね」


父が言う。


「莉央、どうする?」


私は振り返る。


「取引先を訪問します。東和トレーディングと山本物産、両方に直接会って、説得します」


柊が心配そうに言う。


「莉央さん、EcoMartとの契約交渉の準備もあります。大丈夫ですか?」


私は頷く。


「大丈夫です。仲間に任せることも覚えました。EcoMartの準備は柊さんと佐藤部長、田中部長に任せます。私は、取引先を守ります」


父は微笑む。


「わかった。莉央、お前に任せる」


午後二時、私は東和トレーディング本社を訪れた。


東和社長が応接室で待っていた。


「水瀬副社長、お忙しい中ありがとうございます」


私は一礼する。


「東和社長、お時間をいただき、ありがとうございます」


東和社長は少し申し訳なさそうな表情で言う。


「副社長、単刀直入に申し上げます。当社は、より有利な条件を提示する企業との取引を検討しています」


私は冷静に答える。


「東和社長、その企業というのは、黒崎氏が関与している企業ではありませんか?」


東和社長は少し驚く。


「……なぜ、それを?」


私は真剣な表情で言う。


「黒崎氏は、以前にも同じ手法で当社の取引先を揺さぶりました。しかし、結局は約束を守らず、多くの企業が損害を受けました」


東和社長は黙る。


私は続ける。


「東和社長、当社は十五年以上、御社と取引をしてきました。一度も約束を破ったことはありません。品質、納期、すべてを守ってきました」


東和社長は頷く。


「それは、認めています」


私は資料を差し出す。


「これをご覧ください。当社の新規事業は、ヨーロッパでも高い評価を受けています。EcoMartという大手小売チェーンとの契約も間近です。当社は、今後さらに成長します」


東和社長は資料を見る。


「EcoMart……それは大きいですね」


私は真剣に言う。


「東和社長、当社は長期的なパートナーシップを大切にします。短期的な利益ではなく、共に成長することを目指しています」


東和社長はしばらく考える。


そして、深く息を吐く。


「……わかりました、副社長。当社は、水瀬コーポレーションとの取引を継続します」


私は安堵の息を吐く。


「ありがとうございます、東和社長」


東和社長は微笑む。


「副社長、あなたの誠意が伝わりました。これからも、よろしくお願いします」


東和トレーディングを後にして、私はすぐに山本物産へ向かった。


山本社長が笑顔で迎えてくれる。


「水瀬副社長、わざわざお越しいただきありがとうございます」


私は一礼する。


「山本社長、お時間をいただき、ありがとうございます」


山本社長は席に着き、率直に言う。


「副社長、実は当社に、黒崎氏の関連企業から接触がありました」


私は頷く。


「存じています」


山本社長は続ける。


「彼らは、非常に有利な条件を提示してきました。正直、魅力的です」


私は山本社長を見つめる。


「山本社長、黒崎氏は以前、同じ手法で多くの企業を騙しました。最初は有利な条件を提示しますが、後で約束を破ります」


山本社長は頷く。


「それは聞いています」


私は資料を差し出す。


「山本社長、当社はベルリンの展示会で大きな成果を上げました。EcoMartとの契約も間近です。当社の製品は、世界中で認められています」


山本社長は資料を見る。


「素晴らしい成果ですね」


私は真剣に言う。


「山本社長、当社は山本物産様との関係を大切にしています。国内市場での展開も、山本物産様のおかげで成功しました。これからも、共に成長したいと考えています」


山本社長はしばらく考える。


そして、笑顔で言う。


「副社長、わかりました。山本物産は、水瀬コーポレーションとの取引を継続します」


私は深く一礼する。


「ありがとうございます、山本社長」


山本社長は立ち上がり、私の肩に手を置く。


「副社長、あなたは本当に立派なリーダーです。私は、あなたを信じています」


会社に戻ると、すぐに父に報告した。


「お父さん、東和トレーディングも山本物産も、取引継続を決めてくれました」


父は嬉しそうに微笑む。


「よくやった、莉央。お前の誠意が、相手に伝わったんだ」


私は少し疲れた表情で席に着く。


「でも、黒崎はまだ諦めていません。また何か仕掛けてくるかもしれません」


父は頷く。


「その通りだ。油断してはいけない」


そのとき、柊が部屋に入ってきた。


「莉央さん、お疲れ様です。取引先を守れたそうですね」


私は微笑む。


「はい、何とか」


柊は真剣な表情で言う。


「実は、重要な情報があります。黒崎氏が動いているのは、取引先だけではありません」


私は驚く。


「他にも?」


柊はタブレットを示す。


「黒崎氏は、当社の株式を再び買い集めています。現在、約三パーセントを保有しているようです」


私は唇を噛む。


「株主総会で敗北したのに、まだ諦めていないんですね」


柊は頷く。


「おそらく、彼は長期戦を覚悟しています。少しずつ株式を買い集め、再び影響力を持とうとしています」


父が言う。


「黒崎は、本当にしつこい男だ」


私は立ち上がる。


「わかりました。株式については、本間常務と相談して対策を立てます。黒崎には、二度と会社を揺さぶらせません」


柊が私の手を取る。


「莉央さん、一人で抱え込まないでください。僕たちがいます」


私は柊を見つめる。


「ありがとう、柊さん」


その夜、自宅で母と食事をしていた。


「莉央、今日も大変だったわね」


私はため息をつく。


「うん、黒崎がまた動き始めたの」


母は心配そうに言う。


「莉央、大丈夫?」


私は微笑む。


「大丈夫だよ、お母さん。今日は、取引先を守れたから」


母は私の手を握る。


「莉央、あなたは本当に強くなったわね。でも、無理はしないでね」


「うん、わかってる」


ベッドに横になり、天井を見つめる。


黒崎が、また動き始めた。


取引先への接触、株式の買い集め。


彼は、本当に諦めていない。


しかし、私も負けない。


これまでも、黒崎の攻撃を退けてきた。


今回も、必ず守り抜く。


会社を、従業員を、家族を、そして柊との未来を。


スマートフォンが振動する。


柊からのメッセージだ。


『今日も、お疲れ様でした。黒崎の動きは警戒が必要ですが、あなたなら大丈夫です。僕は、いつもあなたのそばにいます。愛しています』


私は微笑み、返信する。


『ありがとう、柊さん。あなたがいてくれるから、私は頑張れます。愛しています』


メッセージを送信し、私はスマートフォンを置く。


そして、祖母のペンダントを手に取る。


「おばあちゃん、黒崎がまた動き始めたよ。でも、私は負けない。みんなと一緒に、必ず守り抜くから」


ペンダントが、月明かりに輝く。


私は目を閉じ、深く眠りについた。


明日も、戦いは続く。


しかし、私には仲間がいる。


家族がいる。


柊がいる。


だから、私は負けない。


どんな困難も、必ず乗り越えるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ