第48話『柊との関係、進展』
母の助言を受けてから一週間が経った。
私は以前よりも早く帰宅するようになり、週末は仕事を持ち帰らないことを心がけていた。
仲間に業務を任せることで、私自身の負担は大幅に軽減された。
そして何より、柊と過ごす時間が増えた。
土曜日の午後二時、私は柊とデートをしていた。
都内の美術館を訪れ、ゆっくりと絵画を鑑賞する。
「この絵、素敵ですね」
柊が静かに言う。
「はい、色使いが繊細で美しいです」
私たちは並んで絵画を見つめる。
柊の隣にいると、心が落ち着く。
仕事のことを忘れて、ただ二人の時間を楽しむことができる。
美術館を出た後、私たちは公園のベンチに座った。
秋の陽射しが心地よく、木々の葉が色づき始めていた。
柊が私の手を取る。
「莉央さん、最近、表情が柔らかくなりましたね」
私は微笑む。
「そうですか?」
柊は頷く。
「はい。以前は、いつも緊張した表情をしていました。でも、最近は笑顔が増えました」
私は柊を見つめる。
「それは、あなたがいてくれるからです」
柊は優しく微笑む。
「僕も、あなたといると幸せです」
私たちはしばらく黙って、秋の風景を眺める。
そして、柊が静かに言う。
「莉央さん、僕たちの関係を、来週の経営会議で発表しますね」
私は頷く。
「はい。もう隠す必要はありませんね」
柊は真剣な表情で言う。
「莉央さん、社内の反応が気になりますか?」
私は少し考える。
「少しは気になります。でも、私たちは何も間違ったことをしていません。堂々としていればいいと思います」
柊は私の手を強く握る。
「その通りです。僕は、あなたを愛しています。それを隠す必要はありません」
私は顔が赤くなる。
「柊さん……」
柊は少し照れた表情で笑う。
「さあ、お腹が空きましたね。夕食に行きましょう」
私たちはレストランへ向かう。
落ち着いた雰囲気のイタリアンレストランで、ワインと料理を楽しむ。
食事をしながら、柊が言う。
「莉央さん、国際展開のプロジェクトは順調ですか?」
「はい、田中部長と佐藤部長が素晴らしい働きをしてくれています。シンガポールのパートナー企業との契約は、来月締結予定です」
柊は頷く。
「それは素晴らしい。香港の方はどうですか?」
「香港も、順調に交渉が進んでいます。ただし、現地の法規制が複雑で、少し時間がかかりそうです」
柊は微笑む。
「僕の事務所で、現地の法律事務所と連携してサポートします」
私は感謝の気持ちで柊を見つめる。
「ありがとう、柊さん。あなたがいてくれて、本当に心強いです」
柊は優しく言う。
「僕は、あなたのために何でもします」
食事が終わり、柊が私を車で送ってくれる。
自宅の前に着くと、柊が静かに言う。
「莉央さん、今日は楽しかったです」
「私も、とても楽しかったです」
柊は私を見つめる。
「莉央さん、僕は……あなたと、ずっと一緒にいたいです」
私の心臓が早鐘を打つ。
「柊さん……」
柊は続ける。
「まだ早いかもしれません。でも、僕はあなたと将来を考えています。結婚も、視野に入れています」
私は涙が出そうになる。
「柊さん、私も……同じです」
柊は私を抱きしめる。
「莉央さん、ありがとう」
私たちは抱き合い、しばらく黙っている。
そして、柊が私の顔を優しく持ち上げる。
「莉央さん、キスしてもいいですか?」
私は頷く。
「はい……」
柊は優しく私にキスをする。
温かく、優しいキス。
私の心は、幸福感で満たされる。
キスが終わり、柊が微笑む。
「おやすみなさい、莉央さん」
「おやすみなさい、柊さん」
私は車を降り、家に入る。
母が笑顔で迎えてくれる。
「お帰りなさい、莉央。楽しかった?」
私は顔が赤いまま頷く。
「うん、とても楽しかった」
母は私を見て、微笑む。
「莉央、顔が真っ赤よ。何かあった?」
私は恥ずかしそうに言う。
「柊さんと……キスしました」
母は嬉しそうに私を抱きしめる。
「莉央、それは素敵ね! お母さん、嬉しいわ」
私は母の胸で、幸せを噛みしめる。
「お母さん、私、本当に幸せです」
母は優しく背中を撫でる。
「莉央、あなたは幸せになる権利があるのよ。柊さんを大切にしてね」
「うん、大切にするよ」
その夜、ベッドに横になり、天井を見つめる。
柊とのキス。
温かくて、優しくて、幸せだった。
一周目の私には、想像もできなかった未来だ。
婚約破棄の後、私は蓮を恨み、世界を恨んでいた。
しかし、二周目の私は違う。
柊という素晴らしい人と出会い、愛し合っている。
すべては、あの記者会見から始まった。
婚約破棄を受け入れ、前を向いて進むと決めた日から。
私の人生は、大きく変わったのだ。
スマートフォンが振動する。
柊からのメッセージだ。
『今日は、本当にありがとうございました。あなたとキスできて、幸せです。愛しています』
私は微笑み、返信する。
『こちらこそ、ありがとうございました。私も幸せです。愛しています』
メッセージを送信し、私はスマートフォンを置く。
そして、祖母のペンダントを手に取る。
「おばあちゃん、私、柊さんと結婚を考えているよ。きっと、おばあちゃんも喜んでくれるよね」
ペンダントが、月明かりに輝く。
私は目を閉じ、深く眠りについた。
月曜日、私は会社に着くと、すぐに父の部屋へ向かった。
「お父さん、少し話があります」
父は資料から顔を上げる。
「何だい、莉央?」
私は席に着き、正直に言う。
「今週の経営会議で、柊さんとの関係を発表したいと思います」
父は少し驚いた表情を見せるが、すぐに微笑む。
「そうか。いいだろう。柊君は良い男だ。私も賛成だ」
私は安堵する。
「ありがとうございます、お父さん」
父は真剣な表情で言う。
「莉央、一つだけ忠告がある。仕事と恋愛を、しっかり区別しなさい。感情に流されて、判断を誤ることがないように」
私は頷く。
「はい、わかっています。仕事では副社長として、プライベートでは柊さんの恋人として。両方をしっかりと務めます」
父は満足そうに頷く。
「それでいい。頑張りなさい」
金曜日、経営会議が開催された。
父、柊、本間常務、そして全部長が集まる。
国際展開の進捗報告が終わり、父が私を見る。
「莉央、何か報告があるそうだな」
私は立ち上がり、深呼吸をする。
「皆さん、私から重要な報告があります」
会議室が静まり返る。
私は柊を見る。
柊も立ち上がり、私の隣に並ぶ。
「私、水瀬莉央は、柊弁護士とお付き合いしています」
会議室がざわつく。
しかし、すぐに本間常務が拍手を始める。
「おめでとうございます!」
他の部長たちも拍手をする。
「副社長、おめでとうございます!」
「柊さん、おめでとうございます!」
私は涙が出そうになる。
みんなが、祝福してくれている。
柊が私の手を握る。
「ありがとうございます。私は、莉央さんを愛しています。そして、仕事でも変わらず全力でサポートします」
父が立ち上がる。
「皆さん、水瀬コーポレーションは家族のような会社です。莉央と柊君の幸せを、みんなで祝福しましょう」
会議室に盛大な拍手が起こる。
私は柊を見つめ、微笑む。
柊も微笑み返す。
私たちの関係は、公になった。
そして、みんなが祝福してくれた。
もう、何も恐れることはない。
堂々と、柊を愛し、仕事も全力で頑張る。
それが、私の生き方だ。
会議が終わり、柊と二人で副社長室に戻る。
柊が私を抱きしめる。
「莉央さん、ありがとう。あなたと一緒にいられて、本当に幸せです」
私は柊の胸に顔を埋める。
「私も、幸せです」
柊が優しく言う。
「莉央さん、これから先、どんな困難があっても、僕はあなたのそばにいます」
私は涙がこぼれる。
「柊さん、私も、ずっとあなたのそばにいます」
私たちは抱き合い、幸せを噛みしめる。
仕事も、恋愛も、すべてが順調だ。
国際展開という大きな挑戦。
そして、柊との愛。
すべてを手に入れた私は、もう迷わない。
前を向いて、堂々と進むのだ。




