第46話『国際展開の提案』
テクノロジア社のリコール騒動から一ヶ月が経った。
業界では当社の評判がさらに高まり、新規取引の問い合わせは前月比で五倍に達していた。
環境配慮型製品は山本物産を通じて国内市場でも順調に展開され、売上は計画を大きく上回っていた。
そして、私と柊の関係も、新しい段階に入っていた。
あの夜、私たちは互いの気持ちを確認し合った。
しかし、社内ではまだ公表していない。
今は、副社長と顧問弁護士という関係を保ちながら、私的な時間を大切にしていた。
午前十時、副社長室で佐藤部長からプレゼンテーションを受けていた。
「副社長、開発部から重要な提案があります」
私は資料を見る。
「どんな提案ですか?」
佐藤部長は真剣な表情で言う。
「国際展開です。当社の環境配慮型製品を、欧州市場だけでなく、アジア、北米にも展開する提案です」
私は驚く。
「アジアと北米にも?」
佐藤部長は頷く。
「はい。欧州市場での評価は非常に高く、複数の企業から『他の地域でも展開してほしい』という要望が寄せられています。特に、シンガポール、香港、そしてアメリカの企業が強い関心を示しています」
私は資料を詳しく見る。
そこには、各地域の市場規模、競合状況、そして予想される利益が詳細に記載されていた。
「佐藤部長、これは大きな挑戦ですね」
佐藤部長は微笑む。
「はい、しかし当社にはそのチャンスがあります。国内とヨーロッパで実績を積み、ブランド価値も高まっています。今が、国際展開の絶好のタイミングです」
私は少し考える。
国際展開は、確かに魅力的だ。
しかし、リスクも大きい。
各国の法規制、文化の違い、そして為替リスク。
すべてを考慮しなければならない。
「佐藤部長、この提案を父と柊さんにも共有してください。明日、経営会議で議論しましょう」
佐藤部長は一礼する。
「承知しました」
佐藤部長が部屋を出た後、私は窓の外を見つめる。
国際展開。
それは、水瀬コーポレーションを次のレベルへ引き上げる可能性がある。
しかし、慎重に判断しなければならない。
午後三時、柊が副社長室に来た。
「お疲れ様です。国際展開の提案、見ました」
私は柊を見る。
「どう思いますか?」
柊は席に着き、資料を開く。
「非常に魅力的な提案です。しかし、リスクも大きい。特に、法務面での準備が必要です」
「具体的には?」
柊は説明を始める。
「各国の製品規制、知的財産権の保護、契約書の作成、すべてが国によって異なります。さらに、現地でのパートナー企業の選定も重要です」
私は頷く。
「つまり、慎重に進める必要があるということですね」
柊は微笑む。
「はい。しかし、準備を整えれば、成功の可能性は高いです。私は、この提案を支持します」
私は柊を見つめる。
「柊さん、もし国際展開を進めるなら、あなたにも協力してほしいです」
柊は頷く。
「もちろんです。僕は、あなたと一緒に未来を創りたい。それが、仕事でもプライベートでも」
私は顔が少し赤くなる。
「柊さん……」
柊は少し照れた表情で笑う。
「さあ、仕事に戻りましょう」
翌日、経営会議が開催された。
父、柊、本間常務、そして全部長が集まる。
佐藤部長が国際展開の提案をプレゼンテーションする。
「当社の環境配慮型製品を、アジアと北米市場に展開する提案です。シンガポール、香港、そしてアメリカの企業が強い関心を示しています」
父が質問する。
「具体的なスケジュールは?」
佐藤部長は答える。
「まず、シンガポールと香港でテスト販売を行います。六ヶ月後に結果を評価し、成功すれば本格展開へ移行します。アメリカは、アジアでの実績を見てから判断します」
田中部長が手を挙げる。
「販売体制はどうしますか? 当社には、海外営業の経験がほとんどありません」
佐藤部長は答える。
「現地のパートナー企業と提携します。すでに、シンガポールと香港で信頼できる企業をリストアップしています」
柊が発言する。
「法務面では、各国の規制に対応する必要があります。私の事務所で、現地の法律事務所と連携して対応します」
本間常務が言う。
「資金面はどうでしょうか? 国際展開には、かなりの投資が必要です」
佐藤部長は資料を示す。
「初期投資は約五億円を見込んでいます。しかし、成功すれば、三年以内に回収可能です」
父が全員を見回す。
「皆さん、意見を聞かせてください」
山田部長が発言する。
「製造部としては、国際展開を支持します。製造能力は十分にあります」
田中部長も頷く。
「営業部も支持します。ただし、現地パートナーの選定は慎重に行うべきです」
本間常務が言う。
「財務的にも、問題ありません。当社には十分な資金があります」
父が私を見る。
「莉央、お前の意見は?」
私は立ち上がる。
「私は、国際展開を進めるべきだと考えます。当社には、その準備が整っています。国内とヨーロッパで実績を積み、ブランド価値も高まっています。今が、次のステップへ進む絶好のタイミングです」
父は微笑む。
「わかった。それでは、国際展開を承認する。佐藤部長、準備を進めてくれ」
佐藤部長は一礼する。
「ありがとうございます!」
会議室に拍手が起こる。
私は胸が高鳴る。
水瀬コーポレーションが、世界へ羽ばたく。
それは、夢のような話だった。
会議が終わり、私は柊と二人で廊下を歩いていた。
柊が言う。
「莉央さん、素晴らしい決断でした」
「ありがとうございます。でも、これからが本当の勝負ですね」
柊は頷く。
「その通りです。でも、あなたなら大丈夫です」
私たちは副社長室に戻る。
柊が静かに言う。
「莉央さん、国際展開が始まれば、さらに忙しくなります。でも、僕は変わらずあなたのそばにいます」
私は柊を見つめる。
「柊さん、ありがとう。あなたがいてくれるから、私は頑張れます」
柊は優しく微笑む。
「莉央さん、僕たちの関係を、そろそろ社内に公表しませんか?」
私は少し驚く。
「公表、ですか?」
柊は頷く。
「はい。僕は、あなたとの関係を隠したくありません。堂々と、あなたの恋人でありたいです」
私は顔が赤くなる。
「柊さん……でも、社内の反応が……」
柊は私の手を取る。
「大丈夫です。あなたは副社長として、十分な実績を積んでいます。誰も、反対しないでしょう」
私は少し考える。
確かに、柊の言う通りだ。
私たちの関係を隠し続ける必要はない。
「わかりました。でも、まずは父と母に報告してからにしましょう」
柊は微笑む。
「もちろんです」
その夜、自宅で両親と食事をしていた。
私は深呼吸をして、二人に言う。
「お父さん、お母さん、報告があります」
父と母が私を見る。
「何だい、莉央?」
私は正直に言う。
「私、柊さんとお付き合いしています」
父と母は一瞬驚いた表情を見せるが、すぐに笑顔になる。
母が嬉しそうに言う。
「莉央、それは素敵ね! お母さん、知っていたわよ」
父も微笑む。
「柊君は良い男だ。お前を大切にしてくれるだろう」
私は涙が出そうになる。
「お父さん、お母さん、ありがとう」
母が私の手を握る。
「莉央、幸せになってね」
「うん、絶対に」
父が言う。
「莉央、国際展開も、恋愛も、両方大切にしなさい。お前なら、できるはずだ」
私は頷く。
「はい、頑張ります」
ベッドに横になり、天井を見つめる。
国際展開という新しい挑戦。
そして、柊との恋愛。
すべてが、順調に進んでいる。
一周目の私には、想像もできなかった未来だ。
婚約破棄、黒崎との戦い、テクノロジア社との対決。
すべてを乗り越えて、私はここにいる。
そして、これからも、前を向いて進むのだ。
スマートフォンが振動する。
柊からのメッセージだ。
『今日は、お疲れ様でした。ご両親への報告、どうでしたか?』
私は微笑み、返信する。
『とても喜んでくれました。明日、話しましょう』
すぐに返信が来る。
『それは良かった。おやすみなさい、莉央さん。愛しています』
私は胸が温かくなる。
『私も愛しています。おやすみなさい』
メッセージを送信し、私はスマートフォンを置く。
そして、祖母のペンダントを手に取る。
「おばあちゃん、私、幸せだよ。会社も順調だし、柊さんという素敵な人と出会えた。これからも、頑張るね」
ペンダントが、月明かりに輝く。
私は目を閉じ、深く眠りについた。
明日から、また新しい挑戦が始まる。
国際展開という大きな夢に向かって。
そして、柊と一緒に、幸せな未来を創るのだ。




