第44話『協力か、対決か』
鈴木主任の解雇から三日が経った。
社内は緊張した空気に包まれ、開発部では情報管理の徹底が図られていた。
一方、テクノロジア社の環境配慮型製品は着々と市場に浸透し始めていた。
午前十時、本間常務が副社長室に入ってきた。
「副社長、テクノロジア社から連絡がありました」
私は顔を上げる。
「テクノロジア社から?」
本間常務は頷く。
「はい。代表取締役の北条社長が、直接お会いしたいとのことです」
私は驚く。
「北条社長が?」
「はい。『ビジネスについて、重要な提案がある』とのことです」
私は少し考える。
テクノロジア社は、当社の情報を不正に入手して製品を開発した。
その代表が、今更何を話したいというのだろう。
「本間常務、父と柊さんを呼んでください。相談してから返答します」
「承知しました」
三十分後、父と柊が副社長室に集まった。
私は北条社長からの申し出を説明する。
父が深刻な表情で言う。
「北条か……あの男は、業界では有名な野心家だ。何を企んでいるのか、わからない」
柊が冷静に分析する。
「おそらく、二つの可能性があります。一つは、当社との提携を持ちかけること。もう一つは、買収の提案です」
私は驚く。
「買収ですか?」
柊は頷く。
「テクノロジア社は、当社の技術と市場シェアを手に入れたいはずです。価格競争で市場を獲得した後、当社を買収すれば、業界での支配力を一気に高められます」
父が言う。
「しかし、当社は買収される気など、まったくない」
私は少し考える。
「会ってみるべきでしょうか?」
柊が言う。
「会うべきです。敵の意図を知ることは重要です。ただし、一人では行かないでください。私も同席します」
父も頷く。
「そうだな。莉央、お前一人では危険だ。柊と一緒に行きなさい」
私は頷く。
「わかりました」
翌日、私と柊はテクノロジア社の本社を訪れた。
高層ビルの最上階に位置する社長室は、豪華な内装で飾られていた。
北条社長は、五十代半ばの精悍な顔立ちの男性だった。
「水瀬副社長、ようこそいらっしゃいました。そして、柊弁護士もお見えですね」
北条社長は笑顔で握手を求めてくる。
私は冷静に握手を返す。
「北条社長、お時間をいただき、ありがとうございます」
北条社長は席を勧める。
「どうぞ、お座りください」
私たちが座ると、北条社長は単刀直入に言う。
「水瀬副社長、私は提携を提案したいと思っています」
私は驚く。
「提携ですか?」
北条社長は頷く。
「はい。当社と水瀬コーポレーションが提携すれば、業界でのシェアは圧倒的なものになります。環境配慮型製品市場を、私たちで独占できます」
柊が冷静に質問する。
「具体的には、どのような提携でしょうか?」
北条社長は資料を差し出す。
「当社が製造と販売を担当し、水瀬コーポレーションは技術開発を担当します。利益は、六対四で分配します。もちろん、当社が六です」
私は資料を見る。
確かに、提携すれば市場シェアは拡大する。
しかし、利益配分は明らかに不公平だった。
私は冷静に答える。
「北条社長、ご提案ありがとうございます。しかし、利益配分が六対四というのは、受け入れられません」
北条社長は笑う。
「水瀬副社長、当社は製造力と販売力で御社を上回っています。六対四は、妥当な配分です」
柊が割って入る。
「北条社長、技術開発なくして製品は生まれません。水瀬コーポレーションの技術があってこそ、御社の製品も存在します」
北条社長は少し表情を変える。
「柊弁護士、それは違います。当社は、独自に技術開発を行いました」
柊は冷静に反論する。
「独自に、ですか? 水瀬コーポレーションの元従業員を通じて情報を入手したことは、証拠があります」
北条社長の顔が一瞬強張る。
「……それは、誤解です」
私は立ち上がる。
「北条社長、私たちは提携には興味がありません。当社は、独自に事業を展開します」
北条社長も立ち上がる。
「水瀬副社長、よく考えてください。提携を拒否すれば、私たちは競争相手です。当社の製造力と販売力を前に、御社は勝てません」
私は北条社長を真っ直ぐ見つめる。
「北条社長、私たちは価格競争ではなく、品質とサービスで勝負します。当社には、長年の信頼関係があります。それは、お金では買えません」
北条社長は薄く笑う。
「……なるほど。では、市場で決着をつけましょう」
私は一礼する。
「お時間をいただき、ありがとうございました」
私たちはテクノロジア社を後にする。
エレベーターの中で、柊が言う。
「莉央さん、よく断りました。あの提携は、罠でした」
私は柊を見る。
「罠、ですか?」
柊は頷く。
「はい。提携すれば、当社の技術はすべて北条社長の手に渡ります。そして、いずれ当社は不要になり、切り捨てられるでしょう」
私は唇を噛む。
「やはり、そうですか」
柊は私の肩に手を置く。
「莉央さん、あなたは正しい判断をしました。これからは、真っ向勝負です」
私は頷く。
「はい、全力で戦います」
会社に戻ると、すぐに緊急会議を招集した。
父、柊、本間常務、そして全部長が集まる。
私は北条社長との面談内容を報告する。
「テクノロジア社は、提携を持ちかけてきました。しかし、条件は不公平で、私たちにとって不利なものでした。私は、提携を断りました」
父が頷く。
「よくやった、莉央。あの提携は、罠だ」
山田部長が言う。
「では、これからは本格的な競争ですね」
私は頷く。
「はい。私たちは、品質とサービスで勝負します。具体的な戦略を立てましょう」
田中部長が発言する。
「まず、既存の取引先を訪問し、当社の製品の優位性を説明します。テクノロジア社の製品は安いですが、品質とアフターサービスでは当社が上です」
佐藤部長も続ける。
「さらに、次世代製品の開発を加速させます。テクノロジア社が模倣できない技術で、差別化を図ります」
私は全員を見回す。
「皆さん、これは大きな戦いです。しかし、私たちには強みがあります。信頼、品質、そしてチームワーク。これらを武器に、必ず勝ちます」
全員が頷く。
「はい、副社長!」
会議が終わり、私は柊と二人で残った。
柊が言う。
「莉央さん、これから厳しい戦いになります。覚悟はできていますか?」
私は柊を見つめる。
「はい。黒崎を退けたように、テクノロジア社にも勝ちます」
柊は微笑む。
「それなら、安心です。僕は、あなたを全力で支えます」
私は胸が温かくなる。
「ありがとう、柊さん。あなたがいてくれるから、私は頑張れます」
柊は少し照れた表情で言う。
「莉央さん、僕もあなたがいるから、頑張れます」
私たちは見つめ合う。
そして、柊が静かに言う。
「莉央さん、この戦いが終わったら、あなたの答えを聞かせてください」
私は頷く。
「はい、必ず」
その夜、自宅で母と食事をしていた。
母が心配そうに言う。
「莉央、テクノロジア社との競争、大丈夫?」
私は頷く。
「うん、大丈夫。私たちには、強みがあるから」
母は微笑む。
「そう。莉央なら、きっと勝てるわ」
「ありがとう、お母さん」
母は私の手を握る。
「莉央、無理はしないでね。あなたには、たくさんの仲間がいるんだから」
「うん、わかってる」
ベッドに横になり、天井を見つめる。
テクノロジア社との戦いが、本格的に始まる。
協力ではなく、対決を選んだ。
それは、困難な道かもしれない。
しかし、私は信じている。
仲間と一緒なら、必ず勝てると。
そして、この戦いの先には、柊との未来がある。
私は、その未来を手に入れるために、全力で戦うのだ。
スマートフォンが振動する。
柊からのメッセージだ。
『お疲れ様でした。明日から、本格的な戦いが始まります。一緒に頑張りましょう。僕は、いつもあなたのそばにいます』
私は微笑み、返信する。
『はい、一緒に頑張りましょう。柊さん、いつもありがとうございます』
メッセージを送信し、私はスマートフォンを置く。
そして、祖母のペンダントを手に取る。
「おばあちゃん、新しい戦いが始まるよ。でも、私は負けない。仲間と一緒に、必ず勝つから」
ペンダントが、月明かりに輝く。
私は目を閉じ、深く眠りについた。
明日から、新しい戦いが始まる。
私は、全力で戦うのだ。




