第43話『新たな脅威』
PRESIDENT WOMANの表紙を飾ってから一週間が経った。
会社への問い合わせは増え続け、採用応募も前月比で三倍に達していた。
私は次世代のリーダーとして注目を集め、複数のメディアから取材依頼が続いていた。
すべてが順調に見えた。
しかし、その日の午前十時、状況は一変した。
本間常務が、深刻な表情で副社長室に入ってきた。
「副社長、緊急の報告があります」
私は顔を上げる。
「どうしたんですか?」
本間常務はタブレットを差し出す。
「競合他社のテクノロジア・インダストリーズが、当社と同じ環境配慮型製品を発表しました。しかも、価格は当社の製品より二十パーセント安く設定されています」
私は驚いてタブレットを見る。
画面には、テクノロジア社のプレスリリースが表示されていた。
『テクノロジア・インダストリーズ、環境配慮型製品ラインを発表 業界最安値で市場参入』
記事を読み進めると、製品のスペックも当社とほぼ同じだった。
材料費削減率、環境負荷低減率、すべてが酷似している。
私は唇を噛む。
「これは……」
本間常務は深刻な表情で言う。
「おそらく、当社の情報が漏れたのでしょう。テクノロジア社は、業界でも有数の大企業です。資金力も製造力も、当社を上回ります」
私は立ち上がる。
「すぐに緊急会議を招集してください。父、柊さん、そして全部長を集めてください」
「承知しました」
三十分後、会議室に全員が集まった。
父が深刻な表情で言う。
「皆さん、テクノロジア社の動きはすでにご存知だと思います。これは、当社にとって重大な脅威です」
山田部長が発言する。
「テクノロジア社は、当社の十倍の製造能力を持っています。価格競争になれば、当社は勝てません」
佐藤部長も頷く。
「しかも、製品のスペックが酷似している。これは偶然ではありません。誰かが情報を漏らした可能性があります」
会議室がざわつく。
私は深呼吸をして、冷静に考える。
「まず、情報漏洩の経路を調査する必要があります。柊さん、お願いできますか?」
柊は頷く。
「承知しました。すぐに調査を開始します」
私は続ける。
「次に、当社の強みを再確認します。テクノロジア社は価格では勝っているかもしれません。しかし、当社には何があるでしょうか?」
田中部長が手を挙げる。
「当社には、長年の取引先との信頼関係があります。山本物産、神谷グループ、そして多くの取引先が、当社を支持してくれています」
私は頷く。
「その通りです。価格だけが競争力ではありません。信頼、品質、そして顧客サービス、すべてが競争力です」
父が言う。
「莉央の言う通りだ。私たちは、価格競争に巻き込まれるべきではない。当社の強みを活かして、戦うべきだ」
私は資料を広げる。
「具体的な戦略を立てましょう。まず、既存の取引先を訪問し、当社の製品の優位性を説明します。価格は高いかもしれませんが、品質とサービスで勝ります」
佐藤部長が言う。
「さらに、次世代製品の開発を加速させます。テクノロジア社が追いつけない技術で、差別化を図ります」
山田部長も続ける。
「製造プロセスも見直します。コストを削減しながら、品質を維持する方法を探ります」
私は全員を見回す。
「皆さん、これは大きな挑戦です。しかし、私たちなら乗り越えられます。一緒に頑張りましょう」
全員が頷く。
「はい、副社長!」
会議が終わり、私は柊と二人で残った。
柊が真剣な表情で言う。
「莉央さん、情報漏洩の可能性は高いです。社内に、内通者がいるかもしれません」
私は驚く。
「内通者……ですか?」
柊は頷く。
「テクノロジア社が、ここまで詳細な情報を持っているのは不自然です。誰かが、意図的に情報を流した可能性があります」
私は少し考える。
「でも、誰が……」
柊は慎重に言う。
「今は特定できません。しかし、新規事業の情報にアクセスできる人物は限られています。開発部、製造部、そして経営陣です」
私は唇を噛む。
「まさか、身内に裏切り者がいるなんて……」
柊は私の肩に手を置く。
「莉央さん、今は冷静に対応しましょう。まず、証拠を集めます。そして、犯人を特定します」
私は頷く。
「わかりました。柊さん、お願いします」
柊は微笑む。
「任せてください」
その夜、自宅で母と食事をしていた。
母が心配そうに言う。
「莉央、大丈夫? 今日は元気がないわね」
私はため息をつく。
「お母さん、競合他社が当社と同じ製品を発表したの。しかも、価格は当社より安い」
母は驚く。
「それは大変ね」
「うん、しかも情報漏洩の可能性もあるの」
母は私の手を握る。
「莉央、あなたなら大丈夫よ。あなたには、仲間がいるんだから」
私は母を見つめる。
「お母さん……」
母は優しく微笑む。
「莉央、困難は必ず乗り越えられるわ。あなたは、もう十分に強いんだから」
私は涙が出そうになる。
「ありがとう、お母さん」
ベッドに横になり、天井を見つめる。
テクノロジア社の参入、情報漏洩の可能性、すべてが重くのしかかる。
しかし、私は負けない。
黒崎を退けたように、この困難も乗り越える。
スマートフォンが振動する。
柊からのメッセージだ。
『お疲れ様でした。情報漏洩の調査を進めています。何かわかったら、すぐに報告します。今夜は、ゆっくり休んでください』
私は微笑み、返信する。
『ありがとうございます。柊さんも、無理しないでくださいね』
すぐに返信が来る。
『大丈夫です。あなたのために、全力を尽くします』
私は胸が温かくなる。
柊は、いつも私を支えてくれる。
どんなときも、そばにいてくれる。
私は、この人と一緒なら、どんな困難も乗り越えられる。
翌朝、会社に着くと、柊が深刻な表情で待っていた。
「おはようございます。少し、お話があります」
「何ですか?」
柊は資料を差し出す。
「情報漏洩の経路を特定しました」
私は驚く。
「本当ですか?」
柊は頷く。
「はい。開発部の一人が、テクノロジア社にヘッドハンティングされていました。その際、当社の技術情報を持ち出したようです」
私は唇を噛む。
「誰ですか?」
柊は名前を告げる。
「開発部の鈴木主任です」
私は驚く。
鈴木主任は、新規事業の開発に深く関わっていた人物だ。
「鈴木さんが……」
柊は真剣な表情で言う。
「証拠は揃っています。彼は、三ヶ月前からテクノロジア社と接触していました。そして、先月、正式に転職の契約を結んでいます」
私は深く息を吸う。
「わかりました。すぐに対応します」
午前十時、私は鈴木主任を副社長室に呼んだ。
鈴木主任は、少し緊張した表情で入ってくる。
「副社長、お呼びでしょうか」
私は冷静に言う。
「鈴木さん、あなたがテクノロジア社に情報を漏らしたこと、すべて把握しています」
鈴木主任の顔が蒼白になる。
「副社長……」
私は資料を示す。
「証拠もあります。あなたは、三ヶ月前からテクノロジア社と接触し、当社の技術情報を提供していました」
鈴木主任は黙る。
私は続ける。
「なぜですか? なぜ、当社を裏切ったんですか?」
鈴木主任は下を向く。
「……すみません。テクノロジア社から、高額の報酬を提示されました。私には、家族がいます。子供の教育費、住宅ローン、すべてが重くのしかかっていました」
私は鈴木主任を見つめる。
「だからといって、会社を裏切っていいんですか? あなたには、仲間がいたはずです」
鈴木主任は涙を流す。
「すみません……本当に、すみません」
私は深く息を吐く。
「鈴木さん、あなたは即日解雇です。さらに、法的措置も検討します」
鈴木主任は頭を下げる。
「申し訳ありませんでした」
鈴木主任が部屋を出た後、私は窓の外を見つめる。
裏切り。
信じていた仲間に、裏切られた。
それは、とても辛いことだった。
柊が部屋に入ってくる。
「お疲れ様でした。辛い決断でしたね」
私は頷く。
「はい……でも、やるべきことでした」
柊は私の隣に立つ。
「莉央さん、あなたは正しい判断をしました。会社を守るために、必要な決断でした」
私は柊を見つめる。
「柊さん、これからどうすればいいでしょうか?」
柊は真剣な表情で答える。
「まず、テクノロジア社との競争に勝つことです。価格では負けても、品質とサービスで勝ちます。そして、次世代製品を開発し、彼らが追いつけない技術で差別化します」
私は頷く。
「わかりました。そうします」
柊は微笑む。
「莉央さん、あなたなら大丈夫です。これまでも、どんな困難も乗り越えてきました。今回も、必ず乗り越えられます」
私は柊の言葉に、力をもらう。
「ありがとう、柊さん」
新たな脅威が現れた。
しかし、私は負けない。
仲間と一緒に、この困難を乗り越える。
そして、会社を守り抜くのだ。




