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第39話『勝利の代償』

午後三時、会議室に全役員と部長クラスが集まった。


父が立ち上がり、宣言する。


「皆さん、株主総会での勝利、そして山本物産との契約締結、本当にお疲れ様でした。今日は、ささやかですが祝賀会を開きます」


会議室に拍手が起こる。


テーブルには、軽食とシャンパンが用意されていた。


父がグラスを掲げる。


「水瀬コーポレーションの未来に、乾杯!」


「乾杯!」


全員がグラスを合わせ、笑顔で祝う。


本間常務が私のもとに来る。


「副社長、本当にお疲れ様でした。あなたの活躍がなければ、ここまで来られませんでした」


「いいえ、皆さんのおかげです」


山田部長も笑顔で言う。


「副社長、製造部は全力で頑張ります。三ヶ月以内に一万個、必ず納品します」


佐藤部長も頷く。


「開発部も、次世代製品の開発を進めています。副社長のビジョンを、形にします」


私は胸が熱くなる。


この人たちと一緒に働けることが、本当に幸せだ。


柊が私の隣に立つ。


「お疲れ様です。今日は、ゆっくり休んでください」


「ありがとう、柊さん」


柊は少し真剣な表情で言う。


「莉央さん、あなたは本当によくやっています。でも、少し疲れているように見えます」


私は微笑む。


「大丈夫です。まだまだ頑張れます」


柊は私の目を見つめる。


「無理をしないでください。あなたが倒れたら、会社はどうなりますか?」


私は少しドキリとする。


確かに、この一ヶ月間、休む暇もなく働いていた。


株主総会の準備、取引先訪問、新規事業の立ち上げ、すべてに全力で取り組んできた。


しかし、それは私の役目だと思っていた。


「柊さん、私は大丈夫です」


柊は優しく微笑む。


「わかっています。でも、たまには休んでください。あなたは、一人で全てを背負う必要はないんです」


私は柊の言葉に、少し涙が出そうになる。


「……ありがとう」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


祝賀会が終わり、私は副社長室に戻る。


デスクの上には、まだ山積みの書類が残っていた。


私はため息をつき、椅子に座る。


疲れている。


柊の言う通り、私は疲れていた。


しかし、休むわけにはいかない。


まだ、やるべきことがたくさんある。


私は書類に目を通し始める。


そのとき、ノックの音がした。


「どうぞ」


父が入ってくる。


「莉央、まだ仕事をしているのか」


「はい、まだ終わっていない書類があって」


父は私の隣に座る。


「莉央、お前は十分に頑張った。今日は、もう帰りなさい」


「でも、お父さん……」


父は私の肩に手を置く。


「莉央、リーダーの仕事は、全てを自分でやることではない。仲間を信じて、任せることだ」


私は父を見つめる。


「でも、私が副社長として……」


父は首を横に振る。


「お前は、すでに副社長として十分な仕事をしている。株主総会を勝ち抜き、神谷社長や山本社長の信頼を得た。これ以上、何を求めるんだ?」


私は黙る。


父が続ける。


「莉央、お前は完璧である必要はない。失敗してもいい、弱さを見せてもいい。それが、人間だ」


私の目から、涙がこぼれる。


「お父さん……」


父は私を抱きしめる。


「莉央、お前は本当によく頑張った。だから、今日は休みなさい。明日からまた、一緒に頑張ろう」


私は父の胸で泣く。


この一ヶ月間、ずっと張り詰めていた糸が、ようやく緩んだ。


疲れていた。


怖かった。


黒崎との戦い、株主総会、新規事業、すべてが重圧だった。


しかし、父や柊、みんながいたから、乗り越えられた。


私は、一人じゃない。


父が優しく言う。


「さあ、帰りなさい。お母さんも、心配しているぞ」


私は涙を拭き、頷く。


「はい」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


会社を出ると、柊が駐車場で待っていた。


「お疲れ様です。送っていきます」


「ありがとう、柊さん」


車の中で、柊が静かに言う。


「莉央さん、今日は泣いていましたね」


私は驚く。


「……見ていたんですか?」


柊は微笑む。


「いいえ、でも、わかります。あなたの表情を見れば」


私は窓の外を見つめる。


「柊さん、私……疲れていました」


「当然です。この一ヶ月間、あなたは誰よりも働きました」


「でも、副社長として……」


柊は私の言葉を遮る。


「莉央さん、副社長だからこそ、休むべきです。あなたが倒れたら、会社はどうなりますか?」


私は柊を見る。


「……そうですね」


柊は優しく言う。


「莉央さん、あなたは十分に強いです。でも、強いからこそ、弱さを見せることも大切です」


私は涙が出そうになる。


「柊さん……」


柊は微笑む。


「さあ、家に着きましたよ」


私は車を降り、柊に一礼する。


「今日は、ありがとうございました」


柊は頷く。


「おやすみなさい。明日、また」


車が走り去るのを見送り、私は家に入る。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


母が笑顔で迎えてくれる。


「お帰りなさい、莉央。今日は早いのね」


「うん、お父さんに帰りなさいって言われて」


母は私を見つめる。


「莉央、泣いていたの?」


私は少し驚く。


母には、何も隠せない。


「……少し」


母は私を抱きしめる。


「莉央、頑張りすぎないでね。あなたは、一人じゃないんだから」


私は母の胸で、また涙がこぼれる。


「お母さん……」


母は優しく背中を撫でる。


「莉央、あなたは本当によく頑張っているわ。でも、たまには弱さを見せてもいいのよ」


私は母の温もりに包まれ、安心する。


「ありがとう、お母さん」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


その夜、ベッドに横になり、天井を見つめる。


株主総会での勝利、山本物産との契約、すべてが順調に進んでいる。


しかし、その代償として、私は疲れ果てていた。


柊の言う通り、私は無理をしていた。


全てを自分で背負おうとしていた。


しかし、それは間違っていた。


私には、家族がいる。


仲間がいる。


柊がいる。


私は、一人で戦っているわけではない。


みんなと一緒に、戦っているのだ。


私は深く息を吸い、ゆっくりと吐く。


明日からは、もっと仲間を信じよう。


もっと、自分を大切にしよう。


そして、柊との時間も、大切にしよう。


スマートフォンが振動する。


柊からのメッセージだ。


『今日は、お疲れ様でした。ゆっくり休んでください。明日、また一緒に頑張りましょう』


私は微笑み、返信する。


『ありがとう、柊さん。明日、よろしくお願いします』


メッセージを送信し、私はスマートフォンを置く。


そして、祖母のペンダントを手に取る。


「おばあちゃん、私、頑張っているよ。でも、たまには弱音を吐いてもいいよね」


ペンダントが、月明かりに輝く。


私は目を閉じ、深く眠りについた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


翌朝、いつもより少し遅く起きた。


午前七時。


私は窓を開け、新鮮な空気を吸い込む。


今日は、新しい一日だ。


昨日の疲れは、もうない。


私は、また前を向いて進むのだ。


ただし、今度は一人ではない。


みんなと一緒に。


リビングに行くと、父と母が朝食を用意していた。


「おはよう、莉央。よく眠れた?」


「うん、ぐっすり眠れたよ」


父が微笑む。


「それはよかった。さあ、朝食を食べなさい」


私たちは一緒に朝食を取る。


温かいスープ、焼きたてのパン、そして家族の笑顔。


すべてが、私の力になる。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


会社に着くと、柊が入口で待っていた。


「おはようございます。今日は、顔色がいいですね」


「おはようございます。昨日は、よく休めました」


柊は微笑む。


「それはよかった。さあ、今日も一緒に頑張りましょう」


私は頷く。


「はい、一緒に」


副社長室に入ると、デスクの上には新しい資料が置かれていた。


しかし、昨日までの山積みの書類は、整理されていた。


本間常務が入ってくる。


「副社長、おはようございます。書類は、各部長に振り分けました。副社長が全てを見る必要はありません」


私は驚く。


「本間常務……」


本間常務は微笑む。


「社長からのご指示です。副社長は、全体の方向性を決めることに専念してください。細かい実務は、私たちが担当します」


私は胸が熱くなる。


「ありがとうございます」


本間常務は一礼して、部屋を出る。


私は窓の外を見つめる。


勝利には、代償があった。


私は、疲れ果てていた。


しかし、その代償を乗り越えて、私は学んだ。


一人で戦う必要はない。


仲間を信じて、任せればいい。


そして、自分を大切にすればいい。


私は、もう一人じゃない。


家族、仲間、そして柊と一緒に、未来を創るのだ。


私は深呼吸をして、新しい一日を始める。

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