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第38話『株主の選択』

黒崎からの電話から三日が経った。


会社は通常業務に戻り、新規事業の準備も順調に進んでいる。


しかし、私の心のどこかに、黒崎の最後の言葉が引っかかっていた。


「一周目のあなたとは、まるで別人です」


あれは、何を意味していたのだろう。


単なる比喩なのか、それとも……。


私は首を振り、考えを打ち消す。


今は、そんなことを考えている場合ではない。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


午前十時、副社長室に本間常務が入ってきた。


「副社長、株主の皆様から、お礼の訪問を希望される方々がいらっしゃいます」


「お礼の訪問?」


本間常務は頷く。


「はい、株主総会での対応に感銘を受けたとのことで、直接お会いしてお話ししたいとのことです」


私は少し驚く。


株主総会の後、多くの株主から祝福のメッセージをいただいていた。


しかし、直接訪問を希望されるとは思っていなかった。


「どなたですか?」


「神谷グループの神谷社長、そして山本物産の山本社長です」


私は頷く。


「わかりました。お時間を調整してください」


本間常務は一礼して、部屋を出る。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


午後二時、神谷社長が副社長室を訪れた。


「水瀬副社長、お忙しいところありがとうございます」


「いいえ、こちらこそお時間をいただき、ありがとうございます」


神谷社長は席に着き、穏やかに微笑む。


「株主総会、本当に素晴らしかった。あなたの覚悟と、水瀬コーポレーションの誠実さを改めて感じました」


「ありがとうございます」


神谷社長は真剣な表情になる。


「実は、私には一つ懸念がありました。副社長は若く、経営経験も浅い。本当に会社を支えられるのか、と」


私は静かに聞く。


神谷社長が続ける。


「しかし、あの株主総会で、その懸念は完全に消えました。あなたは、単なる社長の娘ではない。真のリーダーです」


私は胸が熱くなる。


「神谷社長……」


神谷社長は微笑む。


「私は、長年ビジネスの世界で生きてきました。多くのリーダーを見てきました。しかし、あなたのような覚悟を持った若いリーダーは、なかなかいません」


「ありがとうございます。でも、私はまだまだ未熟です」


神谷社長は首を横に振る。


「謙虚なのは良いことです。しかし、あなたには自信を持っていい。あなたは、すでに多くの人の信頼を得ています」


神谷社長は立ち上がる。


「水瀬副社長、神谷グループは、これからも水瀬コーポレーションを全力で支援します。何かあれば、いつでもご連絡ください」


「ありがとうございます、神谷社長」


神谷社長と握手を交わし、見送る。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


部屋に戻ると、柊が待っていた。


「神谷社長との面談、どうでしたか?」


「素晴らしかったです。神谷社長は、私たちを全面的に支援してくださるそうです」


柊は微笑む。


「それは良かった。神谷グループは、業界でも影響力のある企業です。彼らの支援は、大きな力になります」


私は頷く。


「はい。でも、これで満足してはいけませんね」


柊は真剣な表情で言う。


「その通りです。黒崎は負けを認めましたが、油断はできません。彼は『いつか戻ってくる』と言っていました」


私は窓の外を見つめる。


「柊さん、黒崎の最後の言葉、覚えていますか?」


「『一周目のあなたとは、まるで別人です』ですね」


私は頷く。


「あれは、何を意味していたんでしょうか」


柊は少し考える。


「おそらく、比喩でしょう。以前のあなたと今のあなたが、まるで別人のように成長したという意味だと思います」


私は柊を見つめる。


「……そうですね。きっと、そうですね」


しかし、心のどこかで、違和感が残る。


黒崎は、本当に何も知らないのだろうか。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


午後四時、山本物産の山本社長が訪れた。


「水瀬副社長、お久しぶりです」


「山本社長、ようこそいらっしゃいました」


山本社長は席に着き、力強く言う。


「株主総会、見事でした。黒崎の攻撃を完璧に退けましたね」


「ありがとうございます。山本社長のご支援のおかげです」


山本社長は笑う。


「いやいや、あれはあなた方の実力です。私は、ただ信頼に応えただけです」


山本社長は真剣な表情になる。


「実は、今日来たのは、お礼だけではありません。一つ、提案があります」


「提案ですか?」


山本社長は頷く。


「はい。新規事業の環境配慮型製品ですが、山本物産でも取り扱いたいと考えています。欧州市場だけでなく、国内市場でも展開しませんか?」


私は驚く。


「国内市場でも?」


「そうです。日本でも、環境配慮への関心は高まっています。特に若い世代を中心に、環境に優しい製品への需要が増えています。山本物産の販売網を使えば、全国展開も可能です」


私は少し考える。


新規事業は、まず欧州市場で実績を作る計画だった。


しかし、国内市場でも同時に展開できれば、事業の成長速度は大幅に上がる。


「山本社長、具体的にはどのような提案でしょうか?」


山本社長は資料を取り出す。


「山本物産の全国二百店舗で、御社の環境配慮型製品を取り扱います。初回ロットは一万個、三ヶ月以内に納品していただきたい」


私は資料を見る。


一万個、三ヶ月以内。


製造部に確認する必要があるが、おそらく可能だろう。


「山本社長、非常に魅力的な提案です。製造部と相談して、明日までに返答させていただけますか?」


山本社長は頷く。


「もちろんです。ご検討ください」


山本社長と握手を交わし、見送る。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


部屋に戻ると、すぐに製造部長の山田に電話をかける。


「山田部長、お時間ありますか? 今すぐ副社長室に来ていただけますか?」


十分後、山田部長が到着する。


私は山本社長の提案を説明する。


「一万個、三ヶ月以内……可能でしょうか?」


山田部長は少し考える。


「現在の製造ラインをフル稼働すれば、可能です。ただし、従業員の残業が増えますので、待遇改善の予算が必要になります」


私は頷く。


「予算は確保します。従業員の皆さんには、適切な報酬をお支払いします」


山田部長は微笑む。


「それなら、問題ありません。三ヶ月以内に一万個、必ず納品します」


「ありがとうございます、山田部長」


山田部長が部屋を出た後、私は柊に報告する。


「柊さん、山本物産の提案を受けることにしました」


柊は頷く。


「素晴らしい判断です。国内市場での実績ができれば、欧州市場での交渉も有利になります」


私は微笑む。


「はい、そう思います」


柊は真剣な表情で言う。


「莉央さん、あなたは本当に素晴らしい副社長です。株主総会での勝利、神谷社長や山本社長からの信頼、新規事業の拡大、すべてがあなたの実力です」


私は少し照れる。


「柊さん、それはあなたや皆さんのおかげです」


柊は首を横に振る。


「いいえ、あなた自身の力です。自信を持ってください」


私は柊を見つめる。


この人は、いつも私を信じてくれる。


どんなときも、そばにいてくれる。


「柊さん、ありがとう」


柊は微笑む。


「さあ、山本社長に返答しましょう」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


私は頷き、山本社長に電話をかける。


「山本社長、ご提案をお受けします。三ヶ月以内に一万個、必ず納品いたします」


山本社長は喜ぶ。


「素晴らしい! それでは、契約書を準備します。来週、正式に契約を結びましょう」


「はい、よろしくお願いいたします」


電話を切った後、私は深く息を吐く。


新規事業が、いよいよ本格的に動き出す。


国内市場と欧州市場、両方で展開する。


これは、大きな挑戦だ。


しかし、私には仲間がいる。


父、柊、本間常務、山田部長、佐藤部長、田中部長、そして従業員のみんな。


みんなと一緒なら、どんな困難も乗り越えられる。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


その夜、自宅で母と食事をしていた。


母が嬉しそうに言う。


「莉央、山本社長からの提案を受けたんですってね。お父さんから聞いたわ」


「うん、国内市場でも展開することになったの」


母は微笑む。


「莉央、あなたは本当に素晴らしいわ。お母さん、誇りに思うわ」


「ありがとう、お母さん」


母は私の手を握る。


「莉央、あなたはもう、立派な副社長よ。でも、無理はしないでね」


「うん、わかってる」


母の温もりが、私の力になる。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


ベッドに横になり、天井を見つめる。


株主総会での勝利、神谷社長や山本社長からの信頼、新規事業の拡大。


すべてが、順調に進んでいる。


しかし、黒崎の言葉が、まだ心に引っかかっている。


「一周目のあなたとは、まるで別人です」


彼は、何かを知っているのだろうか。


私は首を振る。


今は、前を向くだけだ。


過去のことは、もう関係ない。


私は、未来を創るのだ。


そして、柊と一緒に、幸せな未来を築くのだ。


私は目を閉じ、深く眠りについた。

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