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第3話「私、二周目なので全部知ってます」

桐生からの返信は、すぐに来た。


『そっか。じゃあ明日、ランチでもどう?』


私は、画面を見つめた。


一周目では、この誘いも受けていた。高級イタリアンで、彼は優しく微笑みながら「君のことを守りたい」と言った。


嘘だった。


守りたかったのは、自分の立場だけ。


私は、短く返信した。


『明日は仕事が立て込んでるの。会見の準備もあるし』


送信。


彼がどう反応するか、わかっている。


一周目では、私が「会見の準備」と言った時、彼は「大丈夫、形式的なものだから」と軽く流した。


でも今回は、その言葉を引き出すつもりはない。


私は、自分で準備する。


スマホをポケットに入れ、デスクの前に座った。


ノートパソコンを開き、メールソフトを立ち上げる。


一周目で消されたデータ。


それは、私が桐生とのやり取りを記録していたメールと、会社間取引の証拠資料だった。


消されたのは、記者会見の前日。


つまり、今はまだ、存在している。


私は、すぐに行動を開始した。


まず、メールボックスから桐生とのやり取りをすべて選択し、PDFに変換。それを外部のクラウドストレージにアップロードする。


次に、会社の共有フォルダにアクセスし、取引先との契約書類をダウンロード。これも別のクラウドに保存。


さらに、私は一周目では気づかなかった「ある事実」を思い出した。


本間——私の元秘書が、記者会見の二日前に突然退職した理由。


一周目では、彼女が「家庭の事情」と言っていたのを信じていた。


でも、炎上後にSNSで彼女の投稿を見た時、私は気づいた。


彼女は、桐生側に買収されていた。


具体的には、週刊誌記者の南條に情報を流していた。


私のスケジュール、私的なメール、会社内での発言。


すべてが、記事のネタになった。


私は、本間の連絡先を開いた。


まだ、彼女は退職していない。


今日も、普通に出社しているはずだ。


でも、今は何もしない。


下手に問い詰めれば、計画が狂う。


今は、泳がせる。


そして、彼女が何を流すのか、すべて把握する。


私は、別のノートを取り出した。


タイトルを書く。


【二周目でやるべきこと】


1. 証拠の確保(完了)


メールデータのバックアップ

契約書類の保存

クラウドに分散保管

2. 本間の監視


彼女が誰と接触するか把握

流される情報を逆手に取る

3. 味方の確保


弁護士・柊への相談

父との関係修復

信頼できる記者の確保

4. 記者会見当日の準備


反論資料の作成

証拠映像の編集

発言内容の精査

5. 桐生の裏を取る


彼の浮気相手の特定

取引先への根回しの証拠

顧問弁護士・滝川との関係

リストを見つめながら、私は深呼吸した。


やることは、山ほどある。


でも、時間は三日しかない。


いや——三日も、ある。


一周目では、何も知らないまま会見に臨んだ。


今回は、すべてを知っている。


この差は、大きい。


スマホが再び震えた。


今度は、父からの着信だった。


私は、少し躊躇した。


一周目で、私は父に何も相談しなかった。


「自分で解決できる」と思っていたから。


でも、それは間違いだった。


父は、私の味方だった。


ただ、私が何も言わなかったから、動けなかっただけ。


私は、通話ボタンを押した。


「もしもし、お父さん」


『莉央か。今、時間あるか?』


父の声は、いつも通り低く、落ち着いていた。


「うん、大丈夫」


『記者会見の件なんだが……本当に大丈夫なのか?』


私は、目を閉じた。


一周目では、この質問に「大丈夫」と答えた。


父を心配させたくなかったから。


でも今回は、違う。


「……お父さん、実は相談したいことがあるの」


『なんだ?』


「今日、会社に行ってもいい? 少し、話がしたい」


沈黙。


数秒の後、父が言った。


『わかった。午後なら時間を取れる。三時に来い』


「ありがとう」


通話を切った。


私は、立ち上がった。


父に、すべてを話すわけにはいかない。


「二周目」なんて言っても、信じてもらえるはずがない。


でも、桐生が信用できないこと。


記者会見に不安があること。


それくらいは、伝えられる。


そして——弁護士の柊を、会見に同席させる許可をもらう。


一周目では、私一人で会見に臨んだ。


今回は、味方を連れていく。


窓の外を見た。


空は、まだ青い。


三日後の記者会見まで、時間はある。


でも、ゆっくりしている暇はない。


私は、クローゼットを開き、スーツを取り出した。


今日から、戦いが始まる。


静かな、でも確実な、逆転劇が。


「二周目は、全部知ってる」


私は、鏡に映る自分に向かって微笑んだ。


今回は、負けない。

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