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第21話「父と真正面から向き合う」

翌日、テレビ局の取材は無事に終わった。


インタビュアーの質問に、私は正直に答えた。


働き方改革について。


従業員を大切にする理念について。


そして——会社の未来について。


カメラが回っている間、緊張はあった。


でも——嘘はつかなかった。


だから——自信を持って話せた。


「ありがとうございました、水瀬さん」


ディレクターが、頭を下げた。


「素晴らしいインタビューでした。来週の経済番組で放送させていただきます」


「こちらこそ、ありがとうございました」


撮影クルーが帰った後、私は一人で会議室に残っていた。


窓の外を見ながら、深呼吸する。


これで——また一歩、前に進めた。


コンコン。


ドアがノックされた。


「どうぞ」


入ってきたのは——父だった。


「莉央、少しいいか?」


「お父さん」


私は、驚いた。


父が、わざわざ会議室まで来るなんて。


「取材、見ていたぞ」


父は、椅子に座った。


「立派だった」


「ありがとう」


私も、座った。


「でも——まだまだです」


「そうか」


父は、私を見つめた。


その目には——何か、言いたいことがあるようだった。


「お父さん、何か?」


「実は——話がある」


父は、デスクに手を置いた。


「俺も、もう歳だ」


「何を言ってるの? まだまだ現役じゃない」


「ああ。でも——いつまでも社長でいるわけにはいかない」


私の心臓が、早く鼓動し始めた。


「それって——」


「後継者の話だ」


父は、真剣な顔で言った。


「莉央、お前に——副社長になってほしい」


私は、息を呑んだ。


副社長——。


「でも、私はまだ——」


「まだ若い、と言いたいのか?」


父は、首を振った。


「年齢は関係ない。お前には、能力がある」


「能力——」


「桐生との戦いで、会社を守った。黒崎との戦いでも、見事な戦略を立てている」


父は、立ち上がった。


窓の外を見ながら、続けた。


「そして——従業員の心を掴んだ。これは、経営者として最も重要な資質だ」


私は、父の背中を見つめた。


「でも——」


「迷っているのか?」


「いえ。ただ——」


私は、正直に言った。


「お父さんの期待に、応えられるか不安です」


父は、振り返った。


「期待?」


「はい。お父さんは、何十年もこの会社を守ってきました」


私は、立ち上がった。


「私が、同じように守れるか——」


「莉央」


父は、私の前に立った。


「俺は、お前に同じことを求めていない」


「え?」


「俺のやり方を、そのまま継承する必要はない」


父は、私の肩に手を置いた。


「お前には、お前のやり方がある」


「私の——やり方」


「そうだ。働き方改革、従業員との対話、世論の活用——」


父は、微笑んだ。


「それは、俺にはできなかったことだ」


「でも——」


「でも、お前にはできる」


父の目は、優しかった。


「だから——お前に任せたい」


私の目に、涙がにじんだ。


「お父さん——」


「泣くな」


父は、ハンカチを差し出した。


「副社長が泣いていたら、従業員が心配する」


私は、笑いながら涙を拭いた。


「まだ、副社長になったわけじゃないのに」


「いや——もう決めた」


父は、デスクに戻った。


「来月の株主総会で、正式に任命する」


「来月——」


私は、驚いた。


「そんなに早く?」


「早い方がいい」


父は、椅子に座った。


「黒崎との戦いは、長期戦になる。その前に、お前の立場を確固たるものにしておく必要がある」


私は、頷いた。


「わかりました」


「ただし——」


父の表情が、厳しくなった。


「条件がある」


「条件?」


「黒崎を、退けろ」


父は、私を見た。


「副社長になる前に、黒崎との戦いに決着をつける」


私は、息を呑んだ。


「それは——試練、ですか?」


「試練——と言えるかもしれん」


父は、腕を組んだ。


「経営者は、常に戦いの連続だ。敵対的買収、市場の変化、内部の問題——」


父は、窓の外を見た。


「その中で、会社を守り続けなければならない」


「……」


「お前が、本当にその覚悟があるか——黒崎との戦いで、見せてくれ」


私は、深呼吸した。


そして——答えた。


「わかりました。必ず——黒崎を退けます」


父は、微笑んだ。


「その言葉を聞きたかった」


父との面談後、私は屋上にいた。


東京の街並みが、眼下に広がっている。


風が、髪を揺らす。


副社長——。


その言葉の重さを、今、実感している。


一周目では——。


私は、ただの社長令嬢だった。


父の娘というだけで、誰も私を見てくれなかった。


でも今は——違う。


取締役として。


そして——副社長候補として。


私は、認められている。


スマホが震えた。


柊からのメッセージだった。


『取材、お疲れ様。テレビ局からの評判、上々だったらしい』


私は、微笑んだ。


返信する。


『ありがとうございます。実は——今、父から副社長の話がありました』


すぐに返事が来た。


『副社長? おめでとう!』


『ありがとうございます。でも——条件付きです』


『条件?』


『黒崎を退けること』


数秒の沈黙。


そして——返信が来た。


『なるほど。試練だな』


『はい』


『でも、君なら大丈夫だ。俺が全力でサポートする』


その言葉に、胸が温かくなった。


『ありがとうございます。柊さんがいてくれて——本当に良かった』


送信後、私は少し恥ずかしくなった。


感情的すぎただろうか。


でも——返信が来た。


『俺も、君と一緒に戦えて光栄だ』


私の頬が、熱くなった。


これは——。


仕事のパートナーとしての言葉?


それとも——。


考えすぎだ。


私は、スマホをポケットにしまった。


今は——仕事に集中する。


その日の夕方、私は本間と食事をしていた。


会社近くのカフェ。


静かな個室で、彼女はサラダを食べながら話していた。


「副社長——すごいですね」


「まだ、決まったわけじゃないよ」


私は、パスタをフォークで巻いた。


「黒崎を退けるという条件がある」


「でも、水瀬さんなら——」


本間は、微笑んだ。


「絶対にできます」


「どうして、そう思うの?」


「だって——」


本間は、私を見た。


「あの記者会見の時、私は見ました」


「見た?」


「水瀬さんが、どれだけ準備をして、どれだけ冷静に戦ったか」


本間の目は、真剣だった。


「あの時の水瀬さんは——本当に強かった」


「本間さん——」


「だから、今回も大丈夫です」


本間は、グラスを持ち上げた。


「副社長就任、祝杯をあげさせてください」


私も、グラスを持ち上げた。


「まだ早いよ」


「いえ。もう決まったようなものです」


グラスが、カチンと音を立てた。


私は、微笑んだ。


本間の信頼。


父の期待。


柊のサポート。


そして——従業員たちの応援。


私には——守るべきものがある。


だから——負けられない。


その夜、私は自宅で資料を見ていた。


黒崎についての情報。


グローバル・キャピタルの戦略。


過去の買収事例。


すべてを、もう一度確認する。


敵を知らなければ——戦えない。


ノートに、リストを書く。


【黒崎を退ける戦略】


1. 株主の説得(継続中)


大口株主との面談

配当の安定性アピール

長期的な成長戦略の提示

2. 企業価値の向上


働き方改革の実行

新規事業の立ち上げ

メディア露出の増加

3. 世論の支持獲得


SNSでのポジティブな発信

従業員との対話継続

社会貢献活動の実施

4. 内部の結束強化


吉田の監視継続

各部署との連携

情報漏洩の防止

リストを見つめながら、私は深呼吸した。


やることは、山ほどある。


でも——一つ一つ、確実に。


スマホが震えた。


今度は、父からだった。


『莉央、今日の話——母にも伝えた。母も喜んでいる』


私は、微笑んだ。


母——。


最近、母とも関係が良くなってきた。


一周目では——母は、世間体を気にして私を避けた。


でも今は——違う。


返信する。


『ありがとう。お母さんにも、よろしく伝えてください』


送信後、私は窓の外を見た。


夜空には、星が輝いている。


一周目では——家族とも、こんな風に話せなかった。


でも今は——。


家族が、私を支えてくれている。


それが——何よりも心強い。


「父と真正面から向き合う」


私は、小さく呟いた。


「そして——父の期待に応える」


ノートを閉じた。


ベッドに横たわり、目を閉じた。


明日からも——戦いは続く。


黒崎との戦い。


副社長への道。


でも——私は、一人じゃない。


父も。


母も。


柊も。


本間も。


従業員たちも。


みんなが——私を支えてくれている。


「おやすみなさい」


私は、小さく呟いた。


そして——深い眠りについた。


夢の中では——。


私は、副社長として。


会社を、従業員を、家族を——。


すべてを守っていた。

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