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第2話「目が覚めたら、あの記者会見の三日前」

目が覚めた。


天井が、見える。


白い天井。見慣れた照明。私の部屋の、天井だ。


私は、ベッドの上にいた。


体を起こし、周囲を見回す。


私の部屋。間違いない。クローゼット、デスク、窓際の観葉植物。すべて、いつもの配置。


でも、おかしい。


私は、あの記者会見の後、ホテルのエレベーターで倒れたはずだ。


それなのに、なぜ自宅のベッドにいるのか。


スマホを手に取った。


画面を見た瞬間、息が止まった。


日付が、違う。


——三ヶ月前。


いや、正確には、あの記者会見の三日前だ。


私は立ち上がり、鏡の前に立った。


映っているのは、間違いなく私。水瀬莉央。二十七歳。髪も、顔も、すべて同じ。


でも、この日付は何だ。


スマホのカレンダーを何度も確認する。ニュースアプリを開く。SNSを見る。


すべてが、三ヶ月前の情報だ。


心臓が、激しく鳴っている。


私は、ベッドの端に座り込んだ。


深呼吸。


整理しよう。


私は、あの記者会見で婚約を破棄された。SNSで炎上し、会社での立場を失い、すべてが崩れ去った。


そして——倒れた。


次に目覚めたら、記者会見の三日前だった。


これは、夢?


いや、違う。


あまりにもリアルすぎる。部屋の匂い、シーツの感触、窓から差し込む朝の光。すべてが本物だ。


ならば、これは——。


「……戻ってきた」


私は、小さく呟いた。


タイムスリップ。やり直し。二周目。


どんな言葉で表現すればいいのかわからないけれど、私は確かに、過去に戻ってきた。


スマホが震えた。


メッセージの通知。


画面を見ると、婚約者——桐生蓮からのメッセージだった。


『今日の夜、時間ある?ちょっと話したいことがあるんだ』


私は、このメッセージを知っている。


前回——いや、一周目の時も、同じメッセージが来た。


そして私は、彼と会った。


彼は優しく笑いながら、記者会見の段取りについて説明してくれた。「形式的なものだから」と言いながら。


私は何も疑わずに、彼の言葉を信じた。


結果は、あの通りだ。


私は、スマホを握りしめた。


今回は、違う。


今回は、何も知らないふりをする必要はない。


私は、すべてを知っている。


彼が誰と組んでいるのか。


誰が私を陥れようとしているのか。


どのタイミングで、どんな嘘が仕込まれるのか。


証拠がどこで消されるのかも。


私は立ち上がり、デスクの引き出しを開けた。


中には、ノートとペンが入っている。


白紙のページを開き、私はペンを走らせた。


【一周目で起きたこと】


記者会見当日、桐生が婚約破棄を宣言

「婚約者側の問題行動」として曖昧に私を非難

私の用意していた証拠データが消失

SNS炎上、社会的信用の崩壊

父の会社への取引停止通告

元秘書・本間が突然退職

次に、人物リストを書き出した。


【敵リスト】


桐生蓮(婚約者)

桐生家の顧問弁護士・滝川

元秘書・本間(裏切り者)

週刊誌記者・南條(仕込み記事を書いた人物)

【中立または味方の可能性】


父・水瀬隆一郎(社長)

広報担当・鏑木(記者会見の設営担当)

弁護士・柊(父の旧友)

リストを見つめながら、私は考えた。


一周目で失敗したのは、準備が足りなかったからだ。


証拠を集めていたつもりだったけれど、それはすべて彼らの手の届く場所にあった。


今回は、違う場所に保管する。


今回は、誰にも気づかれないように動く。


今回は——感情的にならない。


スマホを再び手に取り、桐生へのメッセージに返信した。


『ごめん、今日は予定があるの。また明日でもいい?』


送信ボタンを押す。


一周目では、すぐに会いに行った。


でも今回は、少しずつ距離を取る。


彼を疑っているとは気づかれないように。


でも、確実に、彼の計画を狂わせていく。


窓の外を見た。


青空が広がっている。


三日後、あの記者会見が開かれる。


でも今回は、私が黙って座っているだけの会見にはしない。


私は、準備する。


静かに、確実に。


そして——勝つ。


「二周目は、泣かない」


私は、鏡の中の自分に向かって言った。


もう、守られる側じゃない。


もう、騙される側じゃない。


記者会見は、三日後。


時間は、まだある。

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