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REPAIR  作者: 明星
大晦日
24/33

第5話

「さて、と」

六條はカップを置き、有坂を見据えた。

「君の腹も満たされたところで、今後の話をしようか。有坂君」

「え……」

不意に振られた話題に、有坂は言葉を詰まらせた。

「君にはしばらく生活できるだけの金を渡していたはずだ。にもかかわらず、炊き出しの列に並んでいたと、君は言う」

相変わらずガードが甘いな、と内心思いながら、片桐はコーヒーを啜る。

有坂という男は言ったほうがいいことと、言わないほうがいいことの区別がどうにも下手らしい。

「あ、あの……実は、お金は使い切ってしまって、財布もカードもないですし……スマホも、六條さんに渡してしまっているからなくて……」

「当たり前だろう。今の君は『死人』だ。カードが使えるはずはないし、スマホなんて持たせていたら直ぐに存在がバレてしまう。新しいスマホを契約しようにも、今の君には身分証になるものが何もない。それが『死人』だ」

六條は淡々と事実を列挙し、「だから」と当然のような顔で、視線を片桐に向けた。

「……なんだ」

嫌な予感を察知した片桐が、眉間の皺を深くする。

「片桐。お前の事務所、空き部屋があったよな」

「おい。冗談だろ」

片桐は即座に拒絶した。

「俺は何でも屋だがな、こんなのは仕事のうちに入らないぞ?」

片桐の言葉を受け、六條は「んー」とわざとらしく唸る。

「そういえば今回の薬代、結構な金額が足りなかった、な?」

その六條の一言が、片桐の反論を塞いだ。

「……だから、薬代は返すよ」

「今すぐに、か?」

片桐は心の中で悪態をつきながら歯噛みした。

無理だと分かっていて、六條はわざと言ってきている。

「借りは返してもらわないとな。それに、俺はその方が安全だと思ってる。お前の下にいるなら訳ありの彼も安心して暮らせるだろう」

六條は悪びれもせず、ニヤリと笑った。

片桐は忌々しげに溜息をつき、頭をガシガシと掻いた。

なにも、反論できない。

問題の根源はかねではないのだ。

あの薬の安定した供給ルートを握っているのは、目の前にいるこの男だけだ。

ここで突っぱねてそのことを人質にされれば、どのみち従う他ない。

今後も薬の手配を六條に依存している以上、交渉において片桐に決定権はないのだ。

「……いつからこんなことを企てていた?始めから、なんて言わないよな?」

「まさか。今二人が一緒にいるのを見て、思い付いただけだ」

片桐は深く息を吐き出し、有坂を一瞥した。

「あ、あの、待ってください!」

たまらず、蚊帳の外に置かれていた有坂が身を乗り出した。

「これ以上、片桐さんに迷惑をかけるわけには……僕ならなんとかしますから!」

「なんとかする? 帰る場所も、身分証も、金もない君が?」

六條が、ひんやりとした声で有坂の勢いを削ぐ。

「真冬の夜に、どうやって生き延びるつもりだ?」

「それは……」

言葉に詰まる有坂へ、片桐が冷酷な事実を突きつける。

「お前みたいな無防備な奴が路地裏で夜を明かしてみろ。朝までに身ぐるみ剥がされて、凍えて野垂れ死ぬのがオチだぞ」

「っ……」

確かに最低限の治安は維持されている。

とはいえ『死人』である有坂が、何かあったからと警察を頼るわけにもいかないだろう。

その生々しい現実を突きつけられ、有坂はすっかり青ざめて口を噤んだ。

その様子を見て、片桐は大きくため息をつく。

「……分かった。だが、俺の仕事には関わらせないし、生活は自力でしてもらうぞ。あくまでも、屋根を貸すだけだ」

「交渉成立、だな」

六條は満足げに頷き、再び有坂に向き直った。

「よかったな、引き受け手が見つかって。だが有坂君、一つだけ忠告だ」

六條の声色が、先程の脅しとはまた違う、冷ややかな質を帯びた。

「君のその『身体能力』だが……アビスの領域以外では絶対に、表には出すなよ」

「え……?」

「俺や君のような異能力者がいる以上、当然それを取り締まる法律というものも存在する。異能力の行使が許されているのは、等活からアビスの内部だけだ。仮に街の中で無闇に力を使えば、君は即、捕縛対象となる」

六條は人差し指を立て、唇に当てた。

「目立つな。騒ぐな。そして、決して『普通』からはみ出すな。それが君が、ここで生き延びるためのルールだ」

有坂はその剣幕に呑まれ、コクコクと頷くことしかできなかった。

片桐もまた、無言でそのやり取りを聞いていた。

六條がなぜ、こんなただのボンボンにそんな忠告をするのか。

僅かな違和感を覚えたが、深く追求することはせず、伝票を

手に取った。

「素直に礼を言いたくはないが、今回は助かった。また、な」

「ああ、また」

六條に見送られ、二人は店を出た。

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