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Side: キミトフ グラーツェル治安維持作戦の裏で

 臨時特殊部隊での任務を終え、報告書や記録、様々な物を押し込んだ軍用鞄を肩にかけ、館へ戻ったキミトフ。

 その姿は、長い行軍を終えた兵そのものだった。

 階段を上ろうとしたその時、見慣れぬ新人メイドがトレーを手にふらつきながら下っていくのが目に入った。

 その上のポットには紅茶が満たされ、揺れるたびに危うい。


 次の瞬間――。

 長いスカートの裾を自ら踏みつけ、短い悲鳴と共に、メイドは階段から転げ落ちた。


 「……っ!」


 咄嗟に駆け寄ったものの、間に合わない。

 転がるトレーと散らばる茶器。慌てて身を起こそうとするメイドに、キミトフは膝をついた。


 「大丈夫か」


 「……あっ! キミトフ様、申し訳ございません。今すぐ片付けます……!」


 震える声でそう言う彼女の膝は擦りむけ、手からは血がにじんでいた。

 さらに制服の一部は熱い紅茶で染まり、赤みを帯びている。


 「落ち着け。動かなくていい」


 低く重い声だったが、怒気はなく、濁流をせき止めるような静けさがあった。


 「やけどをしている箇所はあるか」


 「紅茶が……少しかかったかもしれません」


 「服の上からだが、すまん」


 キミトフは無骨な手で鞄を探り、水筒を取り出すと、染みた布地に水を流した。


 「しみるぞ。我慢できるな」


 短く告げてから、擦り傷や血のにじむ手に水をかけ、素早く包帯を巻いていく。


 「……ありがとうございます」


 か細い声に、キミトフはぶっきらぼうに答えた。


 「マイルズなら、もっと上手くやれただろうがな。……とりあえず救護室で見てもらえ。立てるか」


 彼は差し伸べた手を握らせ、ゆっくりと立ち上がらせる。だがメイドは小さく悲鳴を上げ、足首をかばった。


 「痛っ……」


 捻ったらしく、まともに歩けそうにない。


 「ここから歩くのは無理だな……手を貸そう」


 彼は腕を差し伸べると、羽のように軽々と抱き上げた。

 驚く彼女の小さな声を無視し、ゆったりと足を運んでいく。


 やがて救護室にたどり着くと、キミトフは静かにメイドを下ろし、椅子に座らせた。


 「……あ、あの……キミトフ様、ありがとうございます」


 「礼を言われるほどじゃない。失敗は誰にでもある」


 キミトフは短く新人メイドにそう告げると、彼はもう用は済んだとばかりに背を向け、足音も立てずに救護室を後にした。


 ――その後。

 医師に手当てを受け、痛みが和らいだメイドが現場に戻ると、階段にはもう割れたポットの破片も、紅茶の染み一つも残っていなかった。


 「……あの、ここを掃除したのは……」


 通りかかった先輩メイドに尋ねると、軽い口調で答えが返ってきた。


 「ああ、さっきキミトフ様がね。クラウディア様にお茶を持っていく途中で転んで割ったんだって言って、掃除されてたわよ」


 「えっ……?」


 「それより、あんたも転んで怪我したんだって? 大丈夫なの?」


 「えっ……あ、あぁ……はい……」


 先輩の言葉は耳に入っているはずなのに、頭にはまるで届いてこなかった。

 メイドはただ、先程の大きな背中を思い出していた――。

あまり活躍の場がなかったキミトフくんの人気を上げるためのプロパガンダです。

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