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森の少女  作者: 猫柳 星
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第2話 死者の国



森を抜けた少女と少年は、果てしない荒野を歩いていた。

陽は昇らず、影だけが地を覆う。

どれほど進んでも、風は冷たく、命の匂いがなかった。


やがて二人は気づく。

そこは「死者の国」への入口だった。

生き残った者しか辿り着けぬ場所――

森に縛られていた少女が解き放たれた今、

その道は自然に開かれたのだ。


死者の国は、静かな都のように広がっていた。

石の街路、ひとり歩く影たち。

彼らはかつての人々の姿をしていたが、瞳は空洞で、誰も言葉を持たなかった。


少女は震えた。

その中に、見覚えのある顔を見つけてしまったから。

――父。母。幼い友だち。

皆、ただ黙って通り過ぎてゆく。


「どうして……私を見てくれないの?」

問いかけても、影たちは振り向かない。


少年は彼女の手を強く握った。

「ここは、生者が踏み込んではならない場所だ。

 けれど君は“最後の生き残り”だから、呼ばれてしまったんだ」


国の奥に、ひとつの大きな門があった。

黒い石で作られたその門は、まるで夜を固めたように冷たい。


そこから声が響く。

「生き残りの少女よ」


姿を現したのは、巨大な影の王。

顔は定まらず、無数の人々の面影が折り重なっていた。


「お前はわたしたちを忘れない器。

 ここに留まり、永遠に歌え。

 そうすれば死者は安らぎ、世界は沈黙のうちに満たされる」


少女は足を震わせた。

それはかつて森で聞いた囁きと同じ――

けれどもっと深く、抗えないほど甘やかだった。



少年が剣を抜いた。

「彼女を囚わせはしない!」


だが影の王の笑いが響く。

「生き残りよ。選ぶのはお前自身だ。

 愛する者と共に去るか。

 それとも、死者すべてを慰めるためにここへ残るか」


少女は胸の奥で揺れた。

この国に留まれば、村の人々に寄り添える。

だが生きる意味を探す旅は、そこで終わってしまう。


涙の中で、彼女は思い出す。

――湖のほとりで祈ったことを。

「もう一度、歌える日が来ますように」


それは死者のための歌ではなかった。

生きている誰かと、未来のために歌う祈りだった。


少女は少年の手を握り返し、影の王に告げた。

「私はここには留まらない。

 でも、あなたたちを忘れはしない。

 歌は、死者を鎮めるためではなく、生者のために響かせる。

 だから――どうか道を開いて」


影の王の瞳に、一瞬だけ光が宿った。

それは悲しみか、あるいは安堵だったのか。


やがて門は静かに開かれた。

黒の彼方に、かすかな光が差している。





━━━━━━━━結末━━━━━━━━━━━━━


二人は門を越えた。

振り返ると、死者の国の街は霧のように溶け、見えなくなっていった。


少女の胸にはまだ痛みが残っている。

けれどその痛みこそが、生きている証だった。


歌は、まだ途切れていない。

彼女は心の中で旋律を紡ぎながら、少年と共に光の方へと歩き続けた

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― 新着の感想 ―
すごく面白いです。続きが楽しみ☺️
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