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俺が強すぎて人生ハードモード  作者: 雨宮悠理
Phase1 目覚めの轟
3/76

ヤバい奴が寄ってきた

 昼休み。淡海マヒロは、できるだけ目立たないよう机に突っ伏していた。


「ああ、今日こそ平穏に過ごせますように……」


 そんな祈りもむなしく、教室の扉が勢いよく開く音がした。


「淡海君!」


 元気な声が教室に響き渡る。


 マヒロは顔を上げた。


「うわ、マジか……あいつは」


 そこにいたのは、別のクラスの女子、芹沢せりざわサクラ。当然にこれまで話したことはない。クラスは違うし、接点もない。だが、先日コンビニ強盗に出くわした時に一緒にいた。なるべく顔は見られないように気をつけてはいたが、流石にバレたか。


 教室中がざわつく。


「お、芹沢じゃん。かわいい」


「芹沢サクラって、たしかE組の――」


 マヒロは頭を抱えた。


「頼むから、目立たせないでくれ……」


「淡海君、昨日のコンビニの件だけど!」


 サクラがズカズカと教室に入り、近づいてくる。


「オイ、ちょっと待て!」


 慌てたマヒロは彼女を遮り、そのまま教室の外に連れ出した。


 校舎の奥、人目の少ない場所まで来ると、ようやく彼女を振り返る。


「……いきなりやってきて、一体なんなんだ!」


「昨日、コンビニで見たよ!強盗やっつけたよね!あれ、すっごかった!」


 キラキラと輝く目で言うサクラに、マヒロはたじろぐ。


「え、なんの話だ?人違いじゃないのか?」


「いやいや、ナイフが折れたとことか、すごい迫力だったよ!」


 しらばっくれてはみるが、流石に無理がある。サクラはあれが俺のことだと完全に確信を持っているらしい。


「あれは、その……偶然だって。たまたま強盗が持っていたナイフがボロかっただけで」


 適当にごまかそうとするが、流石に無理があるし、サクラは全く気にしている様子がない。


「淡海君、絶対ただ者じゃないよね!ちょっとさ、その力見せてよ!」


「いや、そういうのは……」


 次の瞬間、サクラはカバンからフライパンを取り出した。


「これ、曲げてみて!」


「……お前、なんで学校にフライパン持ってきてんだ?」


「だって、淡海君に頼もうと思って!すごい力ならこういうの簡単でしょ?」


「簡単とかそういう問題じゃない!やらないからな!」


「うーん。じゃあ、こっちはどう!」


今度はレンガを取り出すサクラ。


「いやいやいや、学校にレンガとか普通持ち込むか、お前頭おかしいだろ?」


 マヒロはツッコミを入れるが、サクラは全く動じない。


「淡海君が触ったらどんな感じになるか見たくてさ!」


「嫌だよ!マジで意味わからんって!」


「えいやぁっ!」


 掛け声と同時に芹沢がレンガを投げつけてきた。マヒロはとっさの反射でそれを手で掴もうとする。


 パゴンッ!

 一瞬で粉々に砕けた。


「うおっ!」


 飛び散る破片に思わず後ずさるマヒロ。しかし、そんな事態にもサクラは目を輝かせて大興奮。


「すっごーい!本当に粉々だよ!」


「お前、まじでヤバい。いきなりレンガを人に投げつける奴がいるかよ!」


「だって淡海君なら絶対大丈夫って確信してたから!」


 喜びながら粉々になったレンガの欠片を拾い上げるサクラを見て、マヒロは心底ため息をついた。


 平穏に生きたいだけのマヒロと、彼の強さに興味津々のサクラ。


 平和な日常は遠のくばかりだった。


◇◆◇◆◇


「ねぇねぇ、今からちょっと付き合って!」


 昇降口でサクラに呼び止められたマヒロは、面倒くさそうに吐き捨てる。


「……なんで?」


「それはね……」


 サクラは意味深に笑いながら、スカートのポケットから何かを取り出した。それは――スマホ。


「ほら、これ」


 マヒロは眉を寄せて画面を覗き込む。そこには、マヒロがレンガを握り潰す瞬間の写真が映っていた。


「……は?」


「もし淡海君が断ったら、この写真、クラスのグループチャットに送っちゃうよー(淡海君いないけど笑)」


「お前、それ脅迫だろ!」


「うん、そうだね!」


 悪びれる様子もなく笑うサクラに、マヒロは頭を抱えた。


◇◆◇◆◇


 フライパンを突きつけられ、レンガを投げつけられるという非常識な出来事の後――マヒロは深いため息をつきながら、サクラの背中を見つめていた。


「で、これからどこ行くんだよ」


「いいから、ついてきて!」


 サクラは無邪気な笑顔を見せながら、マヒロを街の中心に向かって引っ張っていく。その手には、なぜか手書きの地図が握られていた。


「なあ、お前。これ、何の地図だ?」


「ふふん、目的地への案内図だよ!」


「……雑だな。線歪んでるし、これ文字?読めないんだけど」


「大丈夫、気にしないで。行けばわかるから!」


「いや、気にしないでって――そもそもこれ、本当に正しい地図なのか?目的地もよくわからないんだけど」


「もちろん!淡海君って、細かいこと気にするタイプだねえ」


「細かいこととかのレベルじゃねえよ……」


 途中、サクラがふと立ち止まり、雑貨屋のショーウィンドウを眺める。


「……ねえ、淡海君」


「今度はなんだよ」


「クラスメイト達に、どうしてそんな冷たいの?」


 マヒロは一瞬表情を曇らせたが、すぐにそっけなく答えた。


「冷たいとかじゃなくて、別に関わる必要がないだけ」


「でも、噂聞いたよ。淡海君の評判、あんまり良くないみたい」


「ほっとけよ」


「淡海君って、本当は優しい人、だと思うんだけど」


「……意味わかんねえこと言ってんな」


 マヒロはサクラを突き放すように言い放ち、歩き出した。その背中を見つめながら、サクラは少しだけ困ったように笑った。


 三十分ほど歩いたところで、マヒロが唐突に言った。


「……なあ、そろそろ教えろよ。この地図、どこに向かってるんだ?」


 サクラは少し気まずそうに目をそらし、しばらく黙っていた。そしてぽつりと言った。


「実は、これ……適当に描いただけなんだよね」


「……はあ?」


 マヒロは立ち止まり、じっとサクラを見た。その視線に、サクラはヘラッと笑いながら肩をすくめる。


「だって、淡海君がついてきてくれる理由が必要だったんだもん!」


「お前な……こんなガタガタの線と読めない文字を俺に信じさせたのかよ!」


「うん!」


「開き直るな!」


 マヒロは頭を抱えたが、サクラは全く悪びれる様子がない。


 その後、適当に入った公園のベンチで二人が座っている時、サクラがぽつりと言った。


「でもさ、本当にどうしてそんなに周りと距離を取るの?」


 マヒロは少し黙ってから、不機嫌そうに答えた。


「しつけえな、お前」


「だって気になるんだもん。淡海君って、なんか抱え込んでる感じがするから」


「……くだらねえことに首突っ込むな」


「くだらなくなんかないよ!」


 サクラは声を張り上げたが、すぐにトーンを落とした。


「淡海君、本当は誰かと話したいんじゃないの?そうじゃなきゃ、私なんかに付き合わないでしょ」


「写真で脅してきたくせによく言うな」


「でも周りの人達に本当に興味がないんだったら、別にスルーしたって良かったはずだよ」


 その言葉に、マヒロは視線を逸らしながら静かに呟いた。


「……俺みたいなのが、他人と関わってもロクなことにならねえんだよ」


「どうして?」


「意味わかんねえ力で、これ以上誰かを傷つけたくないからだよ」


 その一言に、サクラは少し寂しい表情を浮かべた。


「わぁっ!大変だ!」


 その時、近くで遊んでいた子供たちが突然声を上げた。

 見ると公園の噴水の近くを子供たちが囲んでいる。どうやら噴水の蛇口が壊れていて、水が出っ放しになっているらしい。


「おや、これは淡海くんの出番かも知れんね!」


「いやいや、これ完全に業者案件だろ……」


「いいからやってみて!淡海君なら絶対直せるって!」


 仕方なく、マヒロは蛇口を掴んで力を入れた。


 バキィッ!


 次の瞬間、蛇口が根元から粉々に折れ、勢いよく水が噴き出した。


「うおっ!」


 マヒロが慌てて飛び退く中、サクラは笑いを堪えきれず大爆笑していた。


「淡海君、やっぱりすごい!普通に直すんじゃなくて、完全に壊しちゃうんだもん!」


「笑い事じゃねえよ!俺、ほんとに普通に直そうとしただけだって!」


 子供たちも一緒になって大はしゃぎし、水浸しになったマヒロは頭を抱える。


「もう、つくづくお前といるとロクなことにならねえ……」


「でもさ、淡海君。私、今めっちゃ楽しいよ」


 ふとサクラが言ったその言葉に、マヒロは少しだけ目を見開いた。


「キミが思っているより、キミは周りの人たちと変わらないんじゃないかな?」


「……なんでだよ」


「だって、今こうして子供たちが笑ってるでしょ?」


 サクラは噴き出す水の中でキャッキャと遊ぶ子供たちを指差した。


「淡海君が、むやみやたらに人を傷付けてしまうんだったら、こんな風にはならないと思うな」


 マヒロは子供たちを一瞥し、ため息をつきながら頭をかいた。


「……お前、言うことが的外れなのか、ズレてんのかよくわかんねえ」


 サクラはケラケラと笑いながら立ち上がった。


「じゃあ、私の言うことも半分くらい信じてみてよ。ほら、元気出たでしょ?」


「……どこがだよ」


 マヒロはぼそりと返したが、その表情はどこか力が抜けたように見えた。


 二人がそんなやりとりをしていると、子供たちの親が駆け寄り、慌てて噴水の蛇口を見て騒ぎ始める。


「……やっぱり業者呼ぶべきだったな」


 マヒロは小さくそう呟いた。


◇◆◇◆◇


 その後、サクラがどこかへ電話をしたと思うと、あっという間に業者らしき人物たちが現れて、とんでもない手際の良さで水道を修繕し、そそくさと去っていった。

 もしかするとサクラは実は只者ではないのかもしれない。まあ知る由も無いのだが。


■芹沢サクラ(00001)

挿絵(By みてみん)


みなさん、こんにちは!いつも読んでいただきありがとうございます!


こうして皆さんに物語をお届けできるのは、本当に幸せなことだと感じています。感謝の気持ちでいっぱいです!

この物語は定期的に更新を目指しており、皆さんと一緒に成長していきたいと考えています。少しでも続きが気になるような展開をお届けできたら嬉しいです!


ちなみに、途中で「あれ?前に読んだ内容がちょっと変わってる?」と感じることがあるかもしれません。それは物語の本筋を変えない範囲で、文章や展開をブラッシュアップしているからです。より楽しんでいただけるよう、細かい部分をちょこちょこ改稿するのが作者の趣味なんです(笑)。


そして最後に……

いいねやコメント、本当に励みになります!

いただけると「次の更新もがんばるぞー!」ってやる気がグンとアップします。どんな感想でもいいので、気軽にひとことでも残してもらえると嬉しいです!


それでは、今日も物語の世界へどうぞ!

お楽しみいただけますように!

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