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強すぎるのも困りもの

 淡海おうみマヒロは、心底「普通」に憧れていた。ただ、平穏無事な日常を送りたい。それだけだった。


 しかし、現実は無慈悲だ。彼は生まれつき「最強」という名の呪いを背負っていた。その力は、持つだけで世界と不和を起こす。モノを破壊し、人を傷つける。ほんの些細な日常でさえ、彼にとっては綱渡りだった。


 たとえば、小学生時代のバレンタインデー。


「マヒロ君、これ……受け取って!」


 初めて想いを寄せる女の子が、少し赤くなった顔で差し出してきた手作りチョコ。ドキリとする心臓の鼓動を抑え、そっと受け取ろうとしたその瞬間――。


 手のひらに乗る前に、チョコは粉々に砕け散った。


「あ……」


 女の子の目から大粒の涙があふれた。好きだった相手の目の前で、自分の気持ちが無残に壊れた。泣きじゃくる彼女に、マヒロはただ何も言えず立ち尽くすしかなかった。


「こんな力なんか……いらないのに」


 彼は悔しさと自己嫌悪で胸がいっぱいになり、握りしめた拳を見つめた。だが、その拳さえ恐ろしい力の象徴だった。


 中学時代。廊下で不良の矢口が、肩を軽く押してきた時も同じだった。咄嗟に反射した腕。その結果、矢口の腕は――粉砕骨折。無意識だったとはいえ、マヒロの力の暴走に周囲は怯えた。それ以来、矢口だけでなく、誰も彼に近づかなくなった。


 時が経ち、高校生になったマヒロ。力の制御は、ほんの少しだけマシになったが、日常は相変わらずだった。


 今日も教室の窓際で机に突っ伏しながら、彼は自分の手を握りしめた。力が暴発しないようにと、神に祈るような気持ちで。


「頼む……今日は何も起きないでくれ」


 静まり返った教室の中、彼の心はいつもと同じ孤独に包まれていた。


◇◆◇◆◇


 昼休み。教室にはいつも通りのざわめきと笑い声が満ちていた。


「あはは、やめろって!」「お前、この間他校の女の子と遊んでただろ!」


 賑やかなグループが軽口を叩き合い、笑い声を響かせる。だが、その騒がしさが届かない教室の隅――淡海おうみマヒロは窓際の席で雑誌をめくっていた。


 彼が座る席だけ、まるで異次元のように静かだった。誰も近づこうとしないし、彼自身も人の輪に入ろうとしない。いや、むしろそれを拒んでいるようにすら見える。


「なあ、やっぱ淡海ってさ……なんか怖いよな」


「分かる。話しかけても全然相手してくれないし、いつも一人でいるし」


 クラスの一角では、数人の生徒が小声で囁き合っている。その視線はたびたびマヒロに向けられていた。


「でも、なんであんなツンケンしてるんだろうね――」


「いや、それがさ……淡海、裏ではめっちゃ暴力沙汰起こしてるって噂だぜ」


「えっ、マジで?」


「聞いた話だと、中学でヤバい事件を起こしたとか。あ、あとこの前、他校のヤンキー数人を一人で病院送りにしたとかも……」


「ええ……でもそんな風に見えなくない? 割と普通っぽいっていうか……」


「だから怖いんだよ。見た目が普通っぽい奴が一番ヤバいんだって」


 生徒たちのささやきは次第に熱を帯びていく。しかし――。


「……」


 マヒロがちらりと視線を向けた瞬間、彼らは一斉に黙り込んだ。その鋭い目線に、囁いていた生徒たちは怯えたように目をそらす。


 それを見たマヒロは特に何も言わず、再び雑誌に目を落とした。


(またかよ……)


 心の中で重いため息をつく。雑誌のページをめくる手も、いつしか止まっていた。


 彼は目立ちたくない。ただ普通に過ごしたいだけだった。クラスメイトと仲良くしたいわけではないが、冷たくあしらうのも望んでいない。けれど、どんなに平穏を望んでも、周りの視線はいつも彼を"異物"として扱う。


 その時、不意に頭上から声が降ってきた。


「……淡海君?」


 顔を上げると、そこにはクラスの女子が立っていた。彼女は興味を惹かれたような表情でマヒロを見ている。


「それ、何の雑誌読んでるの?」


 一瞬、マヒロの目がわずかに見開かれたが、すぐに無表情に戻る。そして雑誌に目を戻し、冷たく言い放った。


「暇つぶしだよ」


 それだけ言うと、彼は雑誌を閉じて立ち上がり、教室の出口へと向かった。


 彼の背中を見送る女子生徒は、少し困ったように苦笑し、小さなため息をつく。


「やっぱり淡海君、何考えてるか分からないよね……」


 教室は再びざわつき始めた。しかし、片隅の空席だけが、ぽつんと静けさを取り戻していた――。



■淡海マヒロ(00001)

挿絵(By みてみん)


みなさん、こんにちは!いつも読んでいただきありがとうございます!


こうして皆さんに物語をお届けできるのは、本当に幸せなことだと感じています。感謝の気持ちでいっぱいです!

この物語は定期的に更新を目指しており、皆さんと一緒に成長していきたいと考えています。少しでも続きが気になるような展開をお届けできたら嬉しいです!


ちなみに、途中で「あれ?前に読んだ内容がちょっと変わってる?」と感じることがあるかもしれません。それは物語の本筋を変えない範囲で、文章や展開をブラッシュアップしているからです。より楽しんでいただけるよう、細かい部分をちょこちょこ改稿するのが作者の趣味なんです(笑)。


そして最後に……

いいねやコメント、本当に励みになります!

いただけると「次の更新もがんばるぞー!」ってやる気がグンとアップします。どんな感想でもいいので、気軽にひとことでも残してもらえると嬉しいです!


それでは、今日も物語の世界へどうぞ!

お楽しみいただけますように!

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