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エピローグ

「本日、2030年9月13日をもちまして、高橋美月さんの人工呼吸器を止めさせて頂きます。またご家族承認のもと、装置停止後は臓器提供とさせて頂き、美月さんの心臓・肺・肝臓・腎臓・膵臓・小腸・眼球は新しい患者さんへ送り届けます。」


美月の命日となる日は、前もって知らされていたので、連絡が渡っていた友人達も駆けつけてくれた。皆思い思いに美月に声をかけてくれている。妻は感受性が強かったようで、周りが楽しいと楽しくなるし、悲しい時は人一倍泣いていた。人への感謝も大事にしていて、大昔に友人から貰ったカード入れを穴が開くまで愛用していた。僕は見かねて新しいカード入れを妻にプレゼントしたが、直ぐには捨てられていないようだった。妻とはテニスサークルで知り合い、趣味が似ていたことからすぐに仲良くなった。お互い家族への憧れも強かったことから、結婚に至るまではあっという間であった。妻は結婚後も度々、友人と出掛けたりして毎日忙しいそうにしていた。子供を授かってからは、子供中心となり流石に疲れもあったのか、口喧嘩が増えてしまった。職場でもバリバリ働いていた妻だったので、自分のことはよく後回しにしていた。初めての子育てということもあり、キャパを超えてしまったのだろう。ようやく僕は不器用にも家事、育児をするようになってからは、陰から見守る妻がいて、その顔がニヤけていたのを覚えている。不甲斐ない僕にも沢山愛情をくれていたことに、ようやく気づくことができた。妻が手掛けていた健康管理機器の動作環境も問題無いことから、今や1人住まいの高齢者のもと活用されているようだ。森さんからは装置名は「美月Call」も候補に上がったと言っていた。結局却下されたが、何とか美月の頑張りを認めて貰おうと上に掛け合ってくれたようだ。どうあれ、妻の頑張りが世の中で生きているのが嬉しい。集まってくれたメンバーからも、妻の存在意義を重々感じる事ができた。妻の身体は呼吸を止めてからも人々の身体の中で生き続ける。僕の中にも、妻の心が生き続ける。生活の節々に彼女の愛が満ちている。勿論、子供達からも妻の愛が溢れている。姿こそ見れないが、彼女が伝えてくれた愛は消える事はない。


クミボンの子

「あれ〜?おばちゃんわらってる〜?」


クミボン

「本当だね〜。なんか嬉しそうだね~」


「美月。。

 僕の人生の中にいてくれて有難う。

 ゆっくり休んでね。」


美月の移植も無事に終わり、葬儀もあっさり済んでしまった。森さんが集めていた脳波信号データのエビデンスも取れ、実用化が進んでいる。美月のように意志疎通が取れない状態でも、口や手も使わず意思を伝達できるようになってきているらしい。美月の存在は、美月の事を知らない人達にもこれからも繋がっていくんだと実感が湧いてくる。ヒュ〜っと窓から少し冷たい風が入ってきた。季節は冬を終え、ピンクに色づき始めていた。美月を失ったが、不思議と春の匂いが心地よい。前を向けている自分が誇らしい。家ではバタバタと娘が身支度に追われ、息子は朝から山盛りご飯だ。忙しい中でも平穏な日々であることが有り難い。


「さて、そろそろ仕事行くかな!」

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