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忘れ物


「あれ?皆いるじゃん」


「つっきー!元気そうだねっ」


「綾ーー!赤ちゃん産まれてる!可愛いー」


「遥、ちょっと太ったんじゃない?」


「あれ!クミボンその髪、何色よー」


「陽菜!無事だったのね!ケツメ歌いにこ〜」


「え?悟までいるの? まっいっか、もう許してやるよ!」


「森さん!会社の人まで一杯いる〜」


何か全員集合してない?ウケるんですけど。皆それぞれ楽しそうに喋っていて、和気あいあいとして心地よい空間である。そんな中、一際背筋を伸ばしいる黒服の人が遠くに目に入った。彼は白い手袋をして畏まった体制で、一礼深く頭を下げた。


「美月様、そろそろ棺桶に入って頂くお時間です」


「そっかぁ。もうそんな時間なんだ。。。」


皆、私の雰囲気を悟り談笑をやめて目線をこちらに向けている。


「美月、また来世で会おうね!」


「いってらっしゃい!」


結婚式の花道かと思えるほど、ピンクに染まった空間を私は火葬場へと案内されている。


不思議な光景だ。


何か色々やりたかったことあったと思うのに、皆の楽しそうな雰囲気で吹っ飛んでしまった。


皆、何か口々に私に声をかけてくれているが、どれも楽しく聞こえる。


なんだろう、この達成感は。


歩みを進めると、皆の姿は見えなくなり、黒服の人と2人になった。長い長い廊下をゆっくり進んでいく。廊下を抜けた先に開けた部屋があった。部屋の中央には大きめの台がある。


収骨室。。


記憶にある。おばあちゃんが亡くなった時に、皆で骨を拾った場所だ。喪主は父親で、待つ間父はずっと会話はするも心、此処にあらずといった感じであった。私は物子心ついてから初めての親族のお葬式で、火葬場に来たのも初めての経験であった。勝手がわからないまま、言われるがままに失礼のないよう振る舞っていた。式場で沢山のお花と、生前好きだった物品を詰めて行った。一つ一つにおばあちゃんの思い出があり、おばあちゃんが生きた証になっていた。おばあちゃんは89歳と長生きだったが、年々弱くなり亡くなった。化粧された祖母の顔は肌のハリがまだ感じとれるくらい綺麗で、触っても冷たいがまだ生きてるのでないかと思えるくらい潤っていた。祖母は食事にも気を遣っていたし、装飾品が好きで、お洒落にも気を遣っていた。その中でもネックレスの金と変形真珠は印象に残っている。バロック真珠というもので、子供ながらに歪な真珠に魅力を感じなかったが、葬儀のあと形見分けで1番に手にとったのを覚えている。祖母はいつも孫の私と兄に優しく、遊びに行く度に沢山のお菓子を準備してくれていた。孫目線ではいい祖母だったが、大人になってからは色々祖母関連で嫌な話もあった。それを聞いても、孫の前では嫌な顔をしなかった祖母を誇りに思う。祖母の死のキッカケで、宗教や宗派に触れたが、浄土真宗では阿弥陀如来のもと仏弟子になるといい、極楽浄土から私達を見守ってくれるという。お経もしっかり聞いたら、ちゃんと内容があったことを知った。かといって、何か宗派に入りたいという気持ちは無かったが、祖母が見守ってくれていると思うと悲しいだけではないなと前向きになったことも覚えている。


さて、収骨室を抜けると刺繍が織りなされた様な白い棺が用意されていた。黒服は特に喋りもしないが、私が入る棺であることは直ぐに悟った。友人達との別れから、あっという間の時間であった。


「檜の香り。。」


棺の蓋は空いており、私は足から棺に入る。


思ったより深いんだ。。もうすでに沢山の花が添えられており、ゆっくりと仰向けに寝転ぶと視界には白い天井しか見えなくなった。


「こんなものか。。」


あっさりと死んでしまう自分が、あまりにもさっぱりしていて自分で自分のことを誉めたくなった。


「皆。。私と携わってくれて有難う。」


「いい人生だったよ。」


ゆっくりと蓋が閉められ、これから身体が無くなるとは思うと流石に寂しい気持ちがこみ上げてきた。ジェットコースターでいえば、カタカタと上昇にいざ降りる時の不安な気持ちに似ている気がする。降りてしまえば、慣れてしまえば勝ち。


「一瞬だよ。大丈夫だよ、私。」


「?」


そーいえば、誰が点火スイッチ押すの?

祖母の時は喪主の父親だった。


私の喪主。。。


私の喪主!


「そうだった!私の家族!」


将大。。美雪。。要。。!


何で今の今まで忘れていたんだろう!?


そーじゃん、テニス会で参加してた家族!あれは私の子供達の小さい頃の姿だ。一瞬にテニスをプレイしていたヒロさんは私の主人!沖縄も。。陽菜は悟のこと知らないし、あの時の若い2人組は大きくなった美雪だった!


そうだ!全部思い出した。。。


私は。


私は。。。訪問先の患者宅で頭をぶつけたんだった。でも、皆の声所々で聞こえてた。


遥『要くん、大きくなってたよ』


美雪『でね〜、優美と深いとこまで潜ったんだ〜』


要『陸のサイドからシュートに繋がったんだよ』


綾『予定日、もうすぐなんだよ』


森『信号が弱いですね。。』


将大『美月は生前、臓器提供を希望していました。』


そうか。。私はきっと駄目になったんだな。皆の声暫く聞いて無かったかも知れない。


でも。もう、思い残す事無いな。要には私よりも大きく育って欲しかったのも叶った。美雪も友人と充実した生活を送れている。将大のお陰で、私が動けなくなったあとも色々やってくれたんだな。なんだかんだで、やらないだけで、やり出したら拘る奴だったから大丈夫だ。


『皆、私と関わってくれて有難う。


 皆が私の一部だった。


 本当に私は幸せ者だ。


 有難う!私は先に逝くとするよ。


 それじゃあね。


 また、あとで。。。』

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