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やりたかったこと

青い海!

見る限りのオーシャンビュー!

待ちにまった沖縄!


友達に声かけまくって、やっと中学時代の友人と休みの都合があって、念願の沖縄へ到達したのだ。ずっとスキューバダイビングをしたかったのだ。母親も興味を持っていたようだが、どうやら年齢制限というものがあるらしい。教育機関上は制限がされていないようだが、やはり健康面でのリスクがあることから、ダイバーショップの方で断わられる場合が多いようだ。その事を聞いてから、絶対60歳までにはと思っていたが、死ぬ事が分かってからは絶対に行くと決めていた。陽菜とは中学時代、とっても仲が良かった訳ではない。お互い別々のグループに所属していたし、部活も一緒では無かった。でも、社会見学活動では同じコーヒーショップを選択し、環境活動でも川沿いのゴミ拾いを選択するなど、話す時間こそ短かったが、趣旨は似てると勝手に思っていた。それでも同じクラスになったことは1年の時だけで、卒業までの間は特にプライベートな付き合いは無かった。別の高校に進学したが、SNSの普及もあり連絡手段は辛うじて繋がっていた。それでも特別会う用事もないし、お互いマメに投稿するタイプでも無かったから、今何してるとかさっぱりであった。高校を卒業してから、陽菜は大学へ通っていることが風の噂で流れてきた。私は大阪の短期大学で1人暮らしを始めており、居酒屋でバイトしながらお金をやりくりしていた。地方から集まった短大の子たちは、1個や2個違いの子もいたが、高校までの先輩後輩の関係が崩れ、対等な関係での付き合いだった。同じ出身で固まるかと思われたが、金銭面での価値観や、時間の使い方が合う子でグループが出来ていったように思う。親の収入差だろうか、月の仕送りの額だったり着ている服のブランドだったりと、話の流れから深入りするのを辞めたのは自分だったかもしれない。中学時代は、1人になるのが嫌で、好きでもない音楽や流行り言葉に追いつくので大変だった。皆どこから情報を得てるのかいつも不思議だった。早い子からお洒落に目覚めていってたが、兄兄弟だっためか、その手の話は苦手だった。好きな男の子だっていたが、バレンタインにチョコを上げたりする女子を応援しつつも、どこか遠い目で見てた。中学では一方的に好意を持たれ、仕方なく付き合うって決めた途端、鳴りやまない携帯に嫌気がさした。高校デビューで1人2人彼氏はいたが、長くは続かなかった。興味を持たれることは嬉しかったが、2人よりも友人と悪ふざけしてる時間の方が楽しかった。オンナとして扱われるのが歯がゆくて、オトコに対して甘えたい気持ちもまだ芽生えてなかった。ただ、周りの皆が彼氏の話が多くなり、友達と話を合わせる為だっただけかもしれない。付き合う前はいい人だからと思っているのに、いざ付き合いだすと疲れている自分がいた。今になってだが、ずっと気を張っていた。格好悪いところを見せたくないからと相手に合わせるばかりで、我儘も言わなかった。もっと相手に委ねていたら、もっと違う結末になっていたかもしれない。私はいつから三人称視点になったのだろうか。子供の頃はずっと無邪気で、伝わってなかったら嫌だから、相手の反応が悪いと2度同じ事を言う癖があった。自分中心が当たり前だった。ふとビデオを回したときに、相手の話を全く聞いていない自分がいて、過去の自分がとても恥ずかしくなったのを覚えている。見てきた世界が、一転してかなり反省すべきシーンが思い返された。そんな自分勝手な自分だったのに、こうして連絡をとってくれている友人達には頭が上がらない。陽菜とは私の悪しき時代からも、変わらず接してくれて有り難かった。大阪という共通点から連絡をとりあい、日が合えばご飯を行くようになり、ノリで弾丸旅行にまで行く仲に発展した。親から譲って貰った軽自動車で、2泊4日で九州まで行ったのは今でも覚えてる。車の免許をとってからは、いくらでも運転できる気でいた。目的無く、ただ海を見るだけに何時間と運転した。グルメでも堪能すれば良かったなぁとか今更に思う。でも流石に九州は大きかった。本当は鹿児島まで行って、九州を巡ったことにしたかったが、帰り道のことを考えると帰路方向へ向うことを決断した。走っても走っても県境を越えれないと気付いたとき、下道の大変さを痛感した。2人とも2日間に渡る車中泊で、心身疲れていた。来るは易しで、この距離を運転して帰らないと気付いたときはどうにか車ごと帰れないものかと自暴自棄になりかけていた。その日の夜、かなりの眠気に襲われ、運転を陽菜に預けて仮眠させてもらった。ふと目が覚めたとき、車を停めて陽菜も横になろうとしていた。


「ごめん、かなり寝ちゃった。今どこ?」


「熊本抜けて、福岡に入ったかな?」


「うそ!だいぶ走ってくれたんや」


もう帰れないかもって思ってけど、陽菜が頑張ってくれて希望が湧いた。本州が見えてきて、気持ちの負担がかなり減った。このときほど、陽菜を誇りに思い感謝したことを忘れない。この時もまだ後先考えていない甘い自分だったにも関わらず、寛大に接してくれたこと嬉しい限りだ。彼女のことを自分より大人だと思ったのも、弾丸旅行で知れて事だ。


さて、そんな陽菜との沖縄!最後の旅行になるだろうから、あの時の感謝の想いを伝えたい。あの時の若気の至りとは違い、きっちり旅行計画は立ててきた。空港に着いてから、真っ赤なレンタカーを借りて、目指すはソーキそば!目指すはるるぶで調べたやんばるにある食堂。肉肉しい大きいお肉にそそられたのと、昔ながらのおばあちゃんが営む雰囲気あるお店。北へ向う道入、九州旅行の想い出話で盛り上がった。


「あの時の道のりに比べたら、やんばるまで楽勝だね。本当あのとき、挫けてたから陽菜の存在が有難かったよ。」


「なんでよ〜美月は朝強かったからね。朝の運転はかなり任せてたよ。」


思い出した。陽菜は夜型で私は朝型だった。貧乏旅行だったから、道の駅で車を停めて朝ご飯を求めて起き次第、勝手に走り出してたなぁ。あの頃は目覚めもよく、何か急かせかしてた自分だったなぁ。そうか。私ばっかり迷惑かけたと思っていたから、少しでも陽菜の役に立つシーンがあって良かった。天気もよくドライブ日和である。那覇市内を抜けるとあっという間に右手に海が見え、最高のドライブルートである。音楽が流れてる。ケツメイシのケツノポリスだ。当時はケツノポリス5までが流行っていて、よくカラオケで歌ったっけ。


「よるのかぜ〜」


「あ〜びながら〜」


「車で〜♪」


「懐かしー。ケツノポリス3だっけ?」


「2じゃない? よるかぜだよね。」


陽菜との会話は楽しい。ずっとお喋りするのではなく、まったりする時間も多い。でも何か目に止まったり、急に思い出したりで話込んだりして、話のネタをやさがしすることは無い。当時流行ってた人間観察。お茶しながら道行く人の興味の的は、いつもおんなじ所が目にとまったなぁ。あの人の2度見面白かったね〜とかから、あやった、こうやったと妄想話で盛り上がったっけ。


「そ〜いや、悟元気にしてるの?」


悟?


「あぁ。さとるね。今頃、何してるんだろうね。」


陽菜と連絡を取り出してから、グループ交際で何度か、悟の友達と陽菜とで4人で出掛けたこともあった。悟は自分が初めて自分から好きになった相手だった。今まで相手から好意を受ける側だったから、初めて両思いだってことが嬉しかった。何してても、悟のことが気になるし、他の子といててもその日の夜にはもう会いたくなっていた。ほんとに恋してた。どこにいっても何をしても悟と過ごす時間が幸せ過ぎて、これが運命の出会いだったんだって思ってたのに。彼が遊び人だって気付いてからも、簡単に諦めきれなくて、でも、だんだん彼がいない時間に涙を流すようになって。私を1番だって言ってくれても、信じられなくなっていった。初めて自分が好きになった人だったから、この人と毎日居たい、結婚したいとまで思ってたから別れを切出し、遊びをやめてくれないか期待したが全然駄目だった。悟は親からの偏愛により、多くの愛情を求める人間だった。彼自身も自分の気持ちをセーブできなくて、悔やむ日も少なくなかった。一緒にいてもお互い地獄をみるだけと何度も何度も頭で理解し、距離を置くことを決めた。別れてから暫く何かを考えるのも辛く、空白の時間を過ごした。信じてキラキラしてた日々が嘘みたいに真っ白になった。私が、自分を客観的に見るようになったのは、この頃の自分を自分として受け止めるのか辛かったんだと思う。第三者として扱うことで、楽になりたかった。今思うといい思い出しか蘇えらないが、もう二度と悟と2人で時間を過ごすことはない。死ぬ前に会いにいこうかと一瞬思ったこともあったが、もう会うことはないだろう。


思い出に浸っていたらやんばるに着いた。目的のお店に入ると豚出汁のいい匂いがしてきた。


「ソーキそば、2つで。」


名前はそばだが、見た目は白くうどんを細くしたような麺。ラーメンみたいにすすれるものでもなく、骨付き肉は長時間煮込まれ、ホロホロと箸で崩れるほど柔らかかった。


「おいしっ」


2人で顔を見合わせて、声を揃えた。器自体は普通のうどんの量だったが、肉の大きさとお出汁のこってりで想像以上にお腹を膨らした。


「ご馳走さま〜。」


「あー、お腹一杯!」


「さぁー!メインのスキューバ行くよ〜」


恩納村まで移動してる間に、お腹も落ち着き念願のマリンクラブに辿り着いた。


「いよいよですな!」


受付を済ませ、案内の方に誘導されながら、ウェットスーツの着替えからボンベの使い方、耳抜きなとざっと説明を受けた。初めて着るウェットスーツは硬く、なんたが窮屈に感じながらも心がうきうきしているのを肌で感じていた。終始何が装備する度に、陽菜と目を合わせニヤつきが止められなかった。ダイビングスポットまでは貸切ボートでの移動となるが、同じ時間の体験者たちとの相乗りであった。子連れの家族と、友人と旅行だろうか、若そうな2人組もいた。ボートが走りだすと、波を立てながら絶景の蒼い海を進んで行く。


「気持ちいーー!」


この日は晴天で、すかっと晴れた空と水平線は涙が出るほど綺麗だった。


『既に幸せだわ。。』


年を重ねて、四季を求めて山をを登る両親の気持ちが今になって理解できる。景色で泣ける。1年1年当たり前に咲く桜も、青々として木々に照りつける日差しもも、イチョウの色付きも、山の頂上か白く色づくのも、四季の素晴らしさを味わえる日本人で良かったと思う。


「ここが、青の洞窟ねー」


「うわ〜」


大体、ガイドの掲載写真以下での景色を目の前にしてがっかりするものだが、何度見ても青い!碧い!蒼い!


「。。綺麗」


「じゃっ、海さ入ってくねー。」


ガイドさんの呼びかけで、皆それぞれ先程指導された手順で海に潜っていく。


『いよいよだ』


背中から潜ると思われたが、足からゆっくり海に浸かり、ウェイトのお陰で簡単に潜ることができた。全身が浸かるまで呼吸が出来るか不安だったが、シュノーケルの経験もあったからか、ブクブクと息を吐けていて一安心だ。ガイドさんが皆の状態を確認したところで、洞窟内に誘導してくれた。海の底は影になっており、明るい青ではなく一段と濃い青に見えた。ゆっくりたがフィンの使い方にも慣れてきて、行きたい方向へも泳ぐことが出来た。途中、テレビでみるようなサンゴに沢山の熱帯魚もいる。


「お魚一杯〜」


「あ、ニモニモ! カクレクマノミー」


陽菜もかなりテンション上がってるのが凄く伝わってくる。スノーケル越しだから曇って聞こえる会話も、大体の身振りで伝わってくる。おいでおいでと、指差す先には砂地からのびたチンアナゴ。


「えー。もう水族館やん」


テンションの上がる2人。ガイドさんから、早くおいでと身振りされ周りを見渡すと皆もう洞窟の中に入っていた。家族連れさんにも遅れをとり、申し訳ない気持ちがこみ上げてきた。昔ながらの友人と合うと、我を忘れて楽しんでいることに気付くのが遅い。足早に皆の元へ集まると、皆顔をだして撮影タイムだった。ツアーにはカメラマンも同行しており、綺麗に取れる場所やポーズなどを伝授されていた。洞窟の中さえ薄暗いが、差し込んだ日の光が水中で反射し、神秘的な蒼を映しだしていた。


「うちらも撮ってもらお」


カメラマンは、2人で手を繋ぎハートを描くよう指示してきた。どうやらシルエットでくっきり2人の腕がハートになるようだ。


「もー満足だねっ」


他の撮影者を待つ間、ガイドが見える位置なら自由に見て回っても良いとのこと。先に撮影を終えていた、若い2人組の後に付いて探索を始めた。先程とは違う方向に進み、新しい魚に会えないか夢中になって泳いだ。日の光の入り方、波の立ちかたで海の底の雰囲気が変わっていく。自分の呼吸音、遠くの家族連れの会話は薄れ、静かな海となっていた。


「あぁ、気持ちいいなぁ。。」


現実離れしたこの空間はあまりにも、夢心地だった。水の中にいることも忘れるような、浮遊感に酔いしれ、ただ波に身を委ねるのが心地良かった。


あっという間だったなぁ。どうしても体験したかったダイビングもこうして経験出来てよかった。付いてきてくれた陽菜に感謝だな。


「?。 陽菜?」


海底の白いサンゴたちは?気付けば、日の差し込みは見上げた海面で終わり、辺りは薄暗くなっていた。


『ヤバい。』


あまりに水の中が気持ち良すぎて、自分が沈んでいることに気が付かなかった。


『戻らなきゃ』


フィンをパタパタと動かすも、上へ進まない。泳いでるのにどんどん海の底に吸い込まれている。


『これってダウンカレント?』


テレビで見たことがある。岩礁の側で海底へ流れる海流があり巻き込まれると、海底へ沈んでいくというもの。この場合、上へ泳ぐことは難しいので出来るだけ岩礁から離れた方が流れが弱くなるといっていた。


『残留酸素もまだ余裕がある。落ち着いて横へ逃げよう。』


横へ横へ。


なんで。。。


岩礁から離れられない。


私は落ち着いてる。上は駄目だから横に泳いでるのに、横にも進むことが出来ない。水深カウンタがカタカタ数字が上がっていく。先程まで差し込んでいた日の光もあっという間に、遠ざかり岩礁が今どこにあるかも分からない。水圧で耳も痛いのかな。不安で心臓がバクバクしているのを感じる。深い方へ沈んでいく身体。昔、疲れた時に頭まで深く浸かった湯船で栓を抜くと、ドンドン水かさが減る分、お湯から出た体積分の身体の重みを感じていた。浮力が無くなった身体は重く、水が無くなる頃にはズンと大きい石の塊のように感じていた。この重みで私は生きてる、まだやれるって気がしてた。でも今は身体の重みも、浮力が無くなっていく感じもしない。


『陽菜。。ごめん。折角の旅行だったのに嫌な思い出にさせちゃう。。』


同じ乗り合いにしてしまった、家族連れと若い2人組。若い2人組?!私、あの子達知ってる。2人が運動神経良いことも、仲良しだってことも。あれ。記憶が混乱してきた。自分が置かれている状況からの現実逃避なのかしら。深い深い暗い海の底に、ただ1人取り残されてしまった。怖いはず、パニックを起こしてるはずなのに、2人のことを知ってるだけで安堵の気持ちで一杯になった。酸欠なのかな。意識が遠のいていく。ただ、ただ、深い水の中に自分が一体化していくのを感じる。。

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