表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

美雪


「レフトーーー」


透き通った晴天。眩しくて空なんて見てらんない。


舞い上がったボールはどこにいったのか。先輩達の目線から軌道を予想し、ここらへんかなとよんだ先は大当たり。グラブにしっかりとしたボールの感触。


「スリーアウト! ゲームセット!」


フライをとり、東岡田高との連絡試合は5-2の勝利で幕を閉じた。


「やったね美雪!ナイスキャッチ!」


声をかけてくれたのは、ソフト仲間の優美。彼女は1年で知り合ってから、部活メンバーでもとくに気が合う。優美は運動神経が良くてどのポジションも上手くやる。先輩からも1番期待されており、来年はキャプテン候補の努力家だ。人一倍努力し、それでいて鼻に掛けた態度もまるでない。クラスの友達なんか、ちょっとしたことでもマウントとってくる底辺な子が多い。その点、優美は家に頼らずバイトしながらでも隙間時間はソフトボールに打ち込む。尊敬しかない。そんな彼女がなぜ、私に心を許してくれたのかは謎だが、大親友っていってくれたこと嬉しかった。


私はといえば、顔で言えば中の上。小さい頃から割かし明るめのグループに属してきた。派手過ぎるグループとは違い、程よくオシャレや流行りに興味がある程度。勉強だって苦手が多く、授業についていくのが必死である。ただ唯一、運動は好きだった。中学ではバスケ部に所属してたが、あまりのレベルの高さにレギュラー入りは敵わなかった。日本ではあまりバスケは2軍なイメージがあったが、ワールドカップが賑わったあたりからバスケ熱を感じていた。少し遠くの公園へいけばバスケットゴールが設置されているのも珍しくはない。しかし運動神経がいいからといって、中学デビューは厳しすぎた。ミニバス経験者との圧倒的な実力の差を見せつけられ、練習も必死についていくのが精一杯だった。あっという間に3年の夏がきて、重要な試合には1クォーターやっと出させて貰う程度で終わった。引退になる瞬間もスタメンは悔しい思いで涙が止まらなかったのに、私はどこか他人事な感じはあった。練習はとてもハードだった。でも部活動の中心メンバーでないことから、負けても自分のせいではないと安堵していたのも知れない。部活メンバーは嫌いでもなかったし、そこそこ楽しい時間も多かった。でも中学は嫌というほど、友達関係で苦労をした。


盛んな年頃ということもあり、家庭事情で噂されたり下に見られたり、自分とは違う所で評価されたりして下らなかった。結局、親在りきで守られてることにも気づかない温々で育った人達とも到底気が合うことも無かった。私だって1人で生きていけるほど頼もしくも無いが、自分1人で何も出来ない人とは違う自信がある。家事だってする。弟の面倒もみる。裕福な家でないことも知ってるから、成人後は親に面倒かけないようにある程度の生活力も身につけてきた。それでも優美は自分より過酷な状況にも関わらず、他人を蔑むことなく透明感がある女性だ。本当に尊敬する。そんな彼女が私を大親友だって言ってくれた。今までぼんやりと生きてきたのに、凄い人が認めてくれたこと。本当嬉しかった。


優美はシングルの家庭で、年の離れた弟もいる。母親は仕事に終われ、弟の世話は優美在りきで回っていた。勿論、生活必需品以外は買うことも許されないし、欲しいとも言えない状況である。中学は部活動には属さず、家のことだけしてきた。弟が小学校に上がる頃には少しずつ、荷が降りて高校に入って遅場せの青春を送っている。自分と他人を比べず、与えられた環境を全うに受け入れる彼女の精神力には到底叶わない。ただ、男性へ縋ってこなかったことは価値観を共有できる仲間であることは間違いない。


「ねぇ、美雪〜。お互いちゃんとした仕事してたらさ、どっか海でも旅行行こう?」


「いいね!私も行きたいっ」


今はお互い金銭面で余裕ないことも知ってるから、未来の約束をした。でも叶わない夢とは思わない。それぐらい赤い糸ならぬ、友情の太い糸を感じる。兎に角私も、1人立ち出来ることが第一歩であることは認識している。高校ではバスケを選択せず、ソフトを選んだことも理由の一つである。築島高校は部活はあまり活気付いてなく、剣道以外は幽霊部員が多数いる弱小部が多々ある。とくにソフトボール部は練習試合も少なく、顧問の先生も未経験であることから楽しめる部活です、と先輩からの紹介で選んだ。私にはちょうどいい運動部であった。そこで生涯の共に出会えたことは、加入した価値があった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ