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短編集・散文集

渇き

作者: Berthe

 のどが渇いてわたしは肘掛椅子から立ちあがる。両のてのひらで肘掛けをおしながら一息つきながら。部屋着のポケットに両手をつっこんでそのなかで軽くにぎりながらむかう。冷蔵庫へ。当たり前だよね。ほかにどこへゆくというのか。


 たとえば外へでて今思いつく一番近い自販機へ歩いていってボタンをおす。周りに外灯はあるものの街灯ではないから結構暗いなかでわかってはいたけれどガタンと異質に大きい音がひびいてちょっとビビってしまう。


 郊外の住宅地で深夜をまわっているから誰も歩いていない。でもだから怖いし何を恐れているのかはまったく説明できないけれど怖いものは世の中にいっぱいあるし大人になったからってなくなるもんじゃない。ていうか大人になるにつれて恐ろしいものは増えつづけるとしたり顔で言ってみたいけれど多分それを語れるほど自分は怖いもののことを知らないしそれほど大人でもない。


 テレビでもネットでも恐怖体験のはなしはいっぱいある。それは犯罪とかお化けだけじゃなくて人間関係とか会社でのはなしだとか騙されたとか通り魔だとか諸々。そういうのを見るたびに思うわけじゃないけれどふと気づかされるのは怖いものをあまり知らないということ。周りの人よりはちょっと傷つきやすかったから怖いものを経てきたとも言えるかもしれないけれどそれはちょっと違う気もする。


 やっぱりわたしは薄っぺらいんじゃないだろうか。大人になったというのに。いまだに自信をもって大人になりましたと宣言できないような気持ち。


 飲み物にふれるとつめたい。ただでさえ寒いのに。取りだすと甘いもので、大好きな桃が入っていて、これはいけない、いけない。お水でなくては。お茶でもよくない。カフェインはダメ。好きだけれど飲んだら目がさめるからダメ。だからノリで外にでてみるのはよくない。


 いつもの通り冷蔵庫へ歩いて行って、その途中でカーペットのやわらかさをあじわって、フローリングの硬さをあじわって、明かりのなかから急にやって来た台所の暗さをあじわって、スイッチは押さないままに暗がりのなか冷蔵庫をあけるとパッとひかりが点いてチョコだとか食べかけの菓子パンだとか急に張り切ってつくってしまったさつまいもケーキの残りだとか、これは長くもつからいいけれど餡子とバニラがはいったモナカアイス。これは冷凍庫。残りは半分。つまりは三つ。だけどなんで餡子はこんなにも美味しいの?


 小さいころは、ちがう、高校生くらいまでは断然チョコレート派だったのに、今は餡子のほうが段違いに沁みる。まあチョコレートのほうがよく口に放り込んでいるのはまちがいないけれど、あれは色とりどりの銀紙のものとか透明なものとか両側をくるくるってまいて小さなリボンのまんなかにチョコがつつまれていてついつい手がのびてしまうのだ。仕方ないと思う。頭も冴えるしね。


 煙草もやらないし(それはそう)、酒もやらないし(飲めはするけれど)、甘味だけが癒やし、というこころだけれど今はダメのダメなのでわたしはそやつらを無視して(嘘!)、目をそらして(その通り)ミネラルウォーターをとりだし未練たらたらに冷蔵庫をしめた途端にすっと暗がりになるのでスイッチを探しすぐさまみつけてそれを押し、キャップをあけてコップに半分くらいついでからごくごく飲む。


 もう一杯飲むとすっきりしたので来た道をもどり肘掛椅子にすわってパソコンをみるといつのまにかスリープになっているのでさっそく点けたものの明日は早いからやっぱりそろそろ寝ようかな。

読んでいただきありがとうございました。

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