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男子Aの日常と復讐譚  作者: 魚妻恭志郎
3/28

学校探索へ

入学式が終わると学校は半ドン未満で終了した。

本当に出席して顔合わせするだけで終わった一日だったな。

などと教室で帰り支度をしながら武とライン交換をしていると、ヌッと。

いや本当にヌッと、謎の男がぼくと武の机の前に顔だけ出して現れた。


「おい、お前たち」

「うわビックリした!」


坊主頭のいかにも野球部してそうな輩が、突然現れてぼくらに話しかけてきたのだ。

でかい鞄には野球のグローブがちらりと見えるし間違いない。

身長は165あるかないかだが、スポーツマンらしくけっこうガッシリとした体格だ。


「お前たち、今日ヒマか?」

「え、と」

「まぁヒマといえばヒマだけど」


と、武が何の気も無しに返事すると、坊主は喜んでババッと立ち上がり、武の手を取ってブンブンと振る。


「やったぜ!今日は『入学祝い交流を深めようぜ合コン』をしようとおもったんだけど、面子が足りなくてさァ!やっぱ女子もイケメンがいないと参加したがらなくて、どうしようかなって思ってたところなんだよ!助かる~!」


確かにその話だと武はイケメンの部類に入るから丁度いいかもしれんけど、まだ行くとは言ってないぞぼくらは。


「おれ、北村(きたむら) 円治(えんじ)!よろしくな!早速だけど名前を教えてくれよ!」

「大塚 武・・・」

「愛葉 幹」

「オオツカにアイバな!やっほぅ!これで女の子呼べるぜぇ!」


などと、キタムラとやらが一人で盛り上がっている中、別に盛り上がる要素が無くてむしろ醒めているぼく。

武も同様の事を思ったのか、頬をかくと申し訳なさげにお断りを入れようとした。


「悪い、円治。俺、女に興味ないんだ」

「はあああああ!?」


こんな輩にもきっちり下の名前で呼ぶ武のコミュ力はびっくりだが、それ以上に健康な高校生になって女に興味ないと言う武に向けてとめどなくびっくりするのはキタムラだ。

武も、言わんとしているところが分からんでもないけど言い方が悪すぎる。


「なんだよ男が好きなのかバーロー!」

「いや違・・・」

「へん、いい子ちゃんぶりやがって!お前だけ彼女出来なくても後悔すんなよ!行こうぜ愛葉!おれたちのめくるめくパラダイスへ!」


ほら男好きの烙印を押された・・・って、ぼく?

いやいや行かないって。行きたくないし。

お金がもったいない。


「悪いが生理的最低限レベルで女子に興味があるけど行かないぞ。男の顔で相手を選ぶ女なんてまっぴらごめんだ」

「そう、それ!それが言いたかったんだよ幹!」

「な・・・ば、バカな・・・!」


ていうかぼくが好きなのは美奈子だけだ、とは言わないけど。

まるで裏切られたかのようにがくりと膝から崩れ落ちたキタムラは、だん、と床を両拳で叩くと悲しみにすすり泣き始めた。

そんなにか。

そんなにしたかったか、合コン。


「お、おれ・・・高校で彼女作るのが夢で・・・っ!可愛い彼女といちゃいちゃしながら甲子園に連れていく約束をしてさぁ・・・!そんで、甲子園球場近くのホテルでちゅっちゅするのが・・・悲願なんだよぉ・・・っ!!」


いやそんな気持ち悪い夢を語られてもね。

あとちゅっちゅ言うなちゅっちゅ。

だが・・・どこに刺さったのか知らないが隣の武はもらい泣きしていた。

いや泣く要素どこだよ。


「お前・・・そんなにまだ見ぬ彼女の事を・・・!」


いや勘違いすんな?まだ見ぬってことは居ないんだよそんな存在。

いわばイマジナリ彼女に首ったけなんだよ。

現実見えてないんだよ。


「分かってくれるか・・・武!」

「ああ円治!とりあえず今日は行けないけどラインだけ交換しようぜ!ほら、幹も!」

「え、あ、う?」


なにもかもが唐突に、今度はキタムラと連絡先交換するぼくと武。

なんだこれ、なんだこの流れ。

ピロリン、と音を立ててスマホが友人リストにキタムラを登録すると、武はぼくとキタムラの肩を抱いてがっちりとスクラムを組んだ。

やめて暑苦しい。


「これから俺たちは何があっても友達だ!これから高校三年間、仲良くやっていこうぜ!」

「おう!おれ達の友情は・・・最高だ!」

「あ、うん、そう?」


そんなこんなで、

涙と共に友情のスクラムを交わしたぼくたち三人。

ややあって、キタムラ・・・もとい、円治はぼくと武に手を振って教室を後にしましたとさ。


完。


・・・。

ていうかさ?


「じゃ、帰るか幹」

「おまえ・・・面倒だから丸め込んだだけか?」

「さて、どうだろうな」


台風のようだった脳みそピンクパワーキャラの円治をうまく追い出して帰り道を確保した武は、ニヒルに笑って教室の外を指さした。

やれやれ、一筋縄じゃあいかない奴だ。

とりあえず頼りになるような油断ならないような奴と知り合ったと、美奈子と和弥に会ったら話せるくらいのネタにはなったかな。



※※※※※※



さて、出来れば昼飯を一緒しようと言っていた美奈子と和弥だが、ぼくとしては今あの二人に合うのは気が引ける。

かといって妹にも昼飯は要らないと言った以上、どこか別の場所で昼食を摂らなければならないわけで。

なら丁度いい、学校の学食を利用しがてら校内を散策するとしよう。

で、いい時間になったら帰る、と。

そのプランで行こう、どうせヒマだしな。


美奈子たちや円治の誘いを蹴っておいて何様だと思わなくもないがそれは棚に上げる。

ぼくにだって自分の時間が必要だ。

それに邪魔も出来ないだろう。

美奈子は和弥と、付き合っているのだから。


「じゃあな、武。ぼくは少し残ってから帰るよ」

「ん?何か用事があるのか?」

「いや。学校をうろうろしてみたくてさ」

「なんだ、目的は同じか。俺もそうしようと思ってたところだ」

「・・・一緒に行く?」

「ちょっと嫌そうな顔したな今・・・無理にとは言わないが、飯くらいは一緒に食おうぜ」

「・・・まぁいいか」


奇しくも同じ目的だった武。

いいか、たまには男とダラダラしてから帰るのも。

別に武と一緒にいるのが嫌というより一人になりたかっただけだったのだが、今日はそういう日なんだろう。


「とりあえず学食行こうか。したら強く当たって後は流れで」

「何の八百長なんだ」


と、軽くやりとりしながら歩き出すぼくと武。

目指す場所は学食だ。

ポケットに手を入れて歩きつつ、学校内の見取り図を見ながらひた歩き、しばらく行ったところで学食と掲げられた部屋が見えてきた。

どうやら1年A組と非常に近い位置にあったようだが、場所が分からないゆえに遠回りしてしまった。

それもまぁいいか、腹を減らすにはちょうどいい。

なんて思っていたのが間違いだった。

何故なら・・・混んでいる!


「こ、これは・・・!」

「何でこんなに混んでるんだ!?」


1年は半ドンだったゆえに理解出来ないぼくたちだったが、後になって知る。

2、3年は通常授業のため皆学食にやってくると。

そして、混んでいると思っている現在の学食の現状は、1年も交えることで更に『激混み』状態になってしまうことを!


「まいったな・・・どうする、幹?」

「くっ、だがぼくの今日の腹はカツカレーと決めてしまっている!」

「じゃあ仕方ないな。突撃だ!」


20人くらい並んでいる食券機で食べたい商品を選んで、これまた並んでいる受け取り口へ向かう。

このクソッタレなシステムゆえにめちゃくちゃ待たされたが、待ち望んだカツカレーの味は可もなく不可もなく。

まぁ普通に美味しいけど満足いく味ではない、みたいな。


「普通だったな」

「ああ普通だった」


労力をかけたわりに550円のカツカレーは普通だった。

武が頼んだ350円のたぬきうどんも同様だったらしい。

だがね、ぼくは理解した。

あの味と労力を天秤にかけると、武の選択が最もバランスが良いと。

逆にカツカレーは550円の満足感は得られない。

今後はぼくもうどんか同値段のラーメンにしよう、カツカレーは別の店で食べるべし。

そう学べただけでも今日は良しとしよう。


「さて、飯も食ったし、次はどこへ行く?」


混雑しまくってる学食を後にして、うん、と伸びをしながら聞いてくる武。

ふむ、と考えたぼくは、とりあえずメモ帳代わりにノートの切れ端を準備し、そこへシャーペンでつらつらと行くべき場所を書き連ねてみる。


・グラウンド。

・体育館。

・保健室。

・屋上。

・科学室。

・図書室。

・音楽室。


「まぁ無難だな。とりあえず回ってみるか」

「そうしよう」


こうしてぼくらは本格的に朝ヶ丘高等学校の散策へと乗り出したのであった。


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