嘘も方便
5話 嘘も方便
「みんな無事で、良かった。クルマの修理代、安田くんの給料から引いとくから」
「それは、ないですよ。ボクは……」
「オーナー。安田くん可哀想です」
「ありがとうございますすソフィアさん」
「冗談だ」
「それより綾樫エリスって女、危ないわねぇ」
「そーだね。カナちゃんが心配だね」
松平 武のクルマはレッカー車のお世話に。
アオイ探偵社、事務所内。
「やっぱりですか、アレ」
「まぁウソも方便だよ。あの子を安心させるためだよ」
「じゃやっぱり、夢魔喰う、ぶばくう、バクってのは」
「そうだね、アレはわれながら良く出来たと……」
「オーナー。そんなのん気なコトを言ってる間にカナちゃんが変なことに」
「まぁそうなんだけど。ウチはおまわりさんでもないから。探偵社。会社なのわかるぅ。依頼があったわけでもないし、ただ働きになっちゃうよ。クルマの修理代は。今月の家賃まだだよね」
「オーナー、目の前で首を絞められている人がいても、依頼されてないと助けないんですか?」
「絞められてるのが極悪人だとか、嫌いなヤツなら考える」
「はぁあ意味わかりません」
「安田くん僕らは正義の味方でもバットマンでもないの」
トゥルルルン
「ハイ。そうあったの。じゃ行きますか」
「安田くん、ゲゲゲの鬼太郎ほどではないが、目玉おやじあたりにはなれそうだ」
クルマはソフィアさんのミニクーパーで、また三人で、あのマンションに向かった。
「不思議なんですけど。ここの管理人が4階なんてないと」
「あ、ホント。このビル3階建て」
ソフィアさんが上を見て。
「それに綾樫エリスや渋谷カナという人物はこのマンションには居ないと」
「遅かったかな。もう逃げちゃたよ」
「だから、あれほど」
「なんの準備もしないで行くと、この前の安田くんみたいに、こわれちゃうでしょまあ助かったけど」
「アレは……あの女の」
あの時、階段で呼び止められてからの記憶がない。
まさかクルマのハンドルをあらぬ方向に。
やられたなアレはオーナーから聞いたことのある「邪眼」だ。
気をつけないと。
「ヤツは、一度は我々を殺そうとしたんだ。無事だと知ればまた」
「向こうから来るの待つんですか? そんな」
「見て!」
「ホラ来たでしょ」
前を見るとクルマのボンネットの上に奇妙な生き物が。
毛を全部そられたサルとでも言うか。そんな小人のようなのが現れた。
「ゴブリンかしら?」
「多分夢魔の使い魔だよソフィちゃん」
クルマから降りると手招きをして走り出した。
ついてこいというのか。
「ソフィちゃん、追って」
つづく