自殺はダメ
2話 自殺はダメ
「オーナー、バク知ってますよね」
「岡江久美子の旦那の」
「大和田獏ではなく……」
「短い鼻の小さい象みたいな、白と黒の」
「もしかしてマレーバク……かな?」
「悪い夢を食べるっていう」
「ああ、そっちのバクね、それは想像上の生き物だろ」
「そうなんですが、今日のお客さんで、悪夢を見るのでバクを探しているという子が」
「ほお。それで、どう答えたのソフィちゃんは?」
「とりあえず、店にある幻獣事典の絵をコピーして、それを枕の下にと。渡してあげました」
「そういう暗示で見なくなるコトもあるんじゃないかな。イイんじゃない」
ハードボイルドな探偵にあこがれて探偵社に就職したけど、人捜しや、浮気、身辺調査ばかりだ。
まあ殺人事件に出くわす探偵なんてありえないコトくらいわ知っていたんだけど。
このビルの屋上なら、隣のラブホの写真撮れるだろ。
って、ある雑居ビルの屋上あがったら。
女の子がフェンスに上って。
「おい! やめろ」
ボクはフェンスに上がる子を押さえつけて。
「話してよ、また見たのよ。あんな悪夢見るなら死んだ方がましよ」
「目の前で死なれたら、こっちが悪夢だ」
ガチャ、ガタン。
ヤバッ二人の重みのせいか、古くてイカれたせいなのか、フェンスが。
「うわぁー」
ウィッチ・パラダイス三階事務所。
「ソフィちゃん。バクの子、また来たの?」
「ええ、あのコピー絵じゃ効かなかったって」
「そうかぁ。で、どうしたの?」
「今度は悪夢を見ない呪文を、でもダメだろうと思う。アレ子供だましだから」
「ソレもしかして。店で扱ってる本のじゃ……」
「すみません。ちょっと気になるです。あの子がひいたカードなんですが、コレです」
オーナーに「眠れる美姫」と「人でないもの」のカードを見せた。
「ティアラをした美女が裸で寝てますねぇ……美しい絵だ」
「あ、そっちよりコレが気になります」
「なんだか不気味な絵だね」
「『人でないもの』です。あの子には、何か邪悪な物が、はじめに何か護符とか渡しておくべきだったかなぁ。悪夢の内容も聞けば良かった」
「呪文がダメならまた来るんじゃないの」
「そうだといいんですけど」
ティラララ
「ハイ。あ、そうです。ウチの。えっ!」
「オーナーどうしたんです?」
「ウチの探偵社の安田くんが心中したって」
「まあ!」
警察署にオーナーが、来てボクは帰れた。
ソフィさんまで。なんかちょっと嬉しかった。
「そーだったんだ。心中とか言うから驚いたわ。でも良かった。無事で」
「はい、アーケードの古いビニールトタンを壊し、下のトラックの幌の上に落ちて良かったです」
「ジャッキーチェンの映画みたいだな。安田くんの理想の探偵に近づいたんじゃないかな」
「ちょっと違いますけど。一緒に落ちた彼女がまだ気がつかず、病院に」
「心配ね。その人は何処の誰なの? 家族とかに連絡したの?」
「ソレが今どきケータイもなく、何も身元がわかるものを……持ってなく。ですが、なんでも上着のポケットにバクの絵のコピーが入っていたと」
「え、バクのコピー絵!」
つづく