追悼もの【1000文字未満】
「ヨワイネ、お前を追悼だ」
「お前みたいな足手まとい、いらないと思ってたよ! 本当にいなくなるんじゃねぇ……」
金髪の勇者は嗚咽を堪え、戦士が大声で泣き叫ぶ。
なんであいつが。白魔術士の私は、涙を拭うことすらしなかった。確かに彼は弱かった。私達勇者パーティの中では最弱もいいところだ。戦闘で活躍したことなんてないし、コミュ障だった。初見の時、無能が来たと露骨に現したのを憶えている。
しかし、彼は無能じゃなかった。戦闘の時は敵の弱点を探ってくれた。野草で高級料理を作ってくれた。どんな雑用もこなしてくれた。そして話し合ってみれば、とても思慮深く優しい少年だった。
だが彼は、村を襲った魔物に殺された。村長の娘を庇い、死んだ。致命傷だったのに、娘を安全な所に届けて、息絶えた。そのまま耐え忍んでくれれば、私が回復したハズだ。私が間に合えば、助けられた。
葬式を終え、村の酒場へ。黒魔術士の女はなにも頼まず、テーブルを見ている。エールを飲む勇者達に酔いはない。
私は、切り出した。
「良い奴だったよね、あいつ」
「……だね」
黒魔術士が話に追随してくれた。そこから、堰を切ったように、みんなでヨワイネを褒め称えた。彼がいたことで、私達は楽しく冒険できたのだ。かけがえのない人だった……。過去形であることが、私の罪を倍加する。
「行こう」勇者は立つ。「俺達は、あいつの分まで生きて、あいつの存在を残さないといけない」
「そう、だね」
私達は翌日出発した。遺体はあの村に埋めた。魔王と戦い、勝った。だが、いつもヨワイネの影が差した。それはみんなも同じようで、魔王が倒れた世界にあいつがいないことが、何よりもおかしなことだと感じていた。
私達は解散した。それぞれがそれぞれ、名を忘れられていった。勇者にあるまじき没落だ。
私と黒魔術士はあの村に行っている。この世界にあいつがいないのはおかしい。なら、いさせればいいのだ。
死んだからって私から離れるのは許さない。もう遅いとは言わせない。
追悼じゃねぇじゃん