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8話

 全部、思い出した…………。



 およそ百年前、この島は別の名前で呼ばれていた。

 その名は、運命島うんめいじま

 人の運命を歌詞にして伝えられる風習があった島だった。その島の誰しもが生まれてから五年経つと、長老の老婆に運命を歌詞にして頂戴する。

 わたしの歌詞もあった。そう、あの歌だ。どこか未来のわたしの心情を詠ったようなそんな歌詞。

 みんながみんな、その歌詞を信じていたかは分からない。でも、あの時だけは…………あの時だけは、その歌詞が真実だったと疑いようのない出来事が起きた。


 実は、親や友達の歌詞を聞いた事がある。わたし以外の運命の歌詞。しかし、とても奇妙な部分があった。それは、わたしには無く、わたし以外の歌詞には全部ある詩だった。


『海より出でるはうぬを葬る異形のモノ それは無情に振り下ろされる 恐怖は一寸 足掻く術無し』


 人によってニュアンスが違うけれど、それは確実にアレを差して言っていた。

 全身青銅のようなもので創られたような感じで、表情豊かに嘲笑うかのような笑みを浮かべる王冠を被ったどこかの王を模したような巨大な像。

 それが島を襲った。

 運命の歌詞の通りわたし以外のみんなを殺して。

 親も、友達も、みんなアレに殺された。

 そうだ、確かアレを誰かがこう言っていた気がする。【殲滅せんめつ)の巨人像コロッサス】と。



◇◇◇



 運命の島は、みんな自分の仕事を全うし、飲み食いがぎりぎりできるくらいの質素な島だった。

 けど、それでもみんな幸せそうに暮らしていた。それをアレが…………。


 どっかの宗教様を模したような服装の巨人像が島の西側より現れ、上陸した。

 みんなそれを恐れた。直感的にそれを自分の運命の歌にある『異形のモノ』と重なったからだと思う。

 でも、それが運命の歌に無いわたしでも怖かった。上陸したのと同時に島には巨人像の足跡が残り、近づけば踏みつけにされて殺されると悟ったから。

 悲鳴を挙げて島の反対側へ逃げようとする人々の光景がわたしの足を止める。

 息をするのを忘れて巨人像の顔を見ていた。逃げ惑うわたしたちを嘲笑うようなニヤけた笑みを。

 わたしを起こしたのは、母だった。


「何してるの! 逃げるのよトガメ!!」


 トガメ。それがわたしの本当の名前。約百年前に実在した、本当のわたしの名前。

 母はわたしの手を引いて走った。「後ろは見るな」、「死ぬ気で走って」、と何度も叫びながらわたしを引っ張って走った。

 混乱の中で足が縺れようとも引き上げ、足を止めずに必死に。


 しかし、母がわたしを連れて行ったのは島の反対側ではなく、島の中央にある鍾乳洞だった。

 森の中にある近道を行き、巨人像を見てからそれほど時間の立たぬうちに到達できた。

 そこでは運命の巫女と呼ばれる老婆、ジュタイナさんもいた。わたしに運命の歌を授けてくれたのも、このジュタイナさんだ。

 ジュタイナさんは、寒いのかいつも布を羽織り、首にはキラキラした宝石があしらわれた首飾りをしている。全身皴皴で、優しいおばあちゃんのような人。みんなから慕われていて、頼りになる。


「さっ、早く」


 母は何も教えてくれぬまま、わたしをジュタイナさんの下へと引いて目の前に座らせる。


「どうしてここに逃げて来たの? 皆はどこ? ここにはジュリちゃんもポノイ君も、葉っぱのおばちゃんだっていないよ?」


 まだ10歳あまりのわたしは何も理解できず、ただただされるがままで心配そうに母を見ながらそう言った。

 だけど母はうっすらと微笑んでわたしを安心させる言葉を言うだけだった。


「大丈夫よ、あなたは大丈夫」


「トガメよ」


 ジュタイナさんは齢90を超えていると聞いていて、それ相応に喋るのが遅く、弱弱しい。

 わたしは呼ばれて視線を母からジュタイナさんへ変えると不思議そうに首を傾げる。


「お前は、未来でバロウという男と出逢うだろう」


「……ばろう? 誰それ?」


「その者が必ずあの巨人像を倒してくれるはずじゃ」


「やっぱりアレって悪いものなんだ!」


「お前の運命の歌には、巨人像の事は何一つ触れられていなかった。もしかしたらと思っておったが、やはりそうであるはずじゃ」


 いつもは目が閉じっぱなしのジュタイナさんは、この時だけは目を見開いてわたしに話しかけていた。わたしだけに話しかけていた。これは、運命の歌を授かった時以来だった。


「ここは、運命を正す『時飛ばしの祭壇』とも呼ばれておる。今からお主を救世主がいる時代へと送る。お前は、バロウと共にあの巨人像を倒して欲しい!」


「……何言ってるの? そ、そんなこと無理だよ。だってわたし、魔法だってろくに使えないし…………」


 冗談を言っているような目には見えず、抗うことすらこの人を愚弄するだけのような気がした。

 しかし、この時のわたしには戸惑う以外にすることはなく、ドキドキと心拍数が上がっていくのを感じていた。


「あの巨人像は、同じ空間の定めが一致しているという。未来で奴を倒せば、ここにいる巨人像も消えていなくなるはず! 運命の歌を変えて欲しい!!」


「…………運命の歌を変える…………」


 なんのことだか理解はできなかった。そんな事ができるのだとも考えもしなかった。

 でも、何故かわたしがやらなくてはいけない事だとは頭の隅で気が付いた感じがした。


「始めます」


 母は偶にジュタイナさんの御手伝いもしていた。だから、わたしを時飛ばしする為の準備も知っている。

 ジュタイナさんの隣にある箱に指を付けると、何かの赤い液体で指が染まっていた。それで母はその場の床にある魔法陣のようなものをなぞっていく。それと同時に巨人像の足音も近づいてきていた。



「できました」


 その言葉の終わりにこの場全体が激しく揺れる。


「わっ」


「っ――」


 パラパラと天上から砂埃が降ってきて上を見る。そして、さっきまであった恐怖心が一掃増した。

 先程見た巨人像の不気味な笑みの一欠けらである左目がわたしたちを覗き込んでいたんだ。


「トガメ! 魔法陣の中央に立ちなさい!! 早く!!」


「っ――」


 母の声で現実に引き戻される。震える足でなんとか魔法陣の中央に行くが、立ち続ける事はできなく、膝を付く。

 下を見ると――その赤い魔法陣は光を放っており、中は空間が歪んだようなな陽炎の中にいる時のような目の錯覚を思わせる奇妙な感じになっていた。それがなんなのか疑問に思うのはもう遅く、準備していたジュタイナさんが魔法陣の端にある円に拳を突き、わたしを見ていた。


「ジュタイナ様、お願いします!!!」


「トガメよ、我等の希望よ。我等の時間、運命を、取り戻しておくれ」


「まっ――」


 それがわたしの時間の最後の記憶。

 気が付いた時、わたしの体は少し成長した姿でこの森の中に横たわっていた。

 わたしは、倒さなければならない。取り戻さなければならない。あの、バロウと共に。



「ごめんね、トガメ。あなたに隠している事が一つあったの…………。苦しい想いをするだろうけど、役目を果たして」

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