表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/26

5話

 サクラを部屋に送った後、その場はメノアとポロに任せて俺とロゼは着替えて外に出て来た。

 サクラの様子からすぐにでも何かを掴む必要もあり、メノアの後押しも貰い、さっきサクラが指を差した塔へと向かっている。

 ケンタたちを探すことも考えたが、探す時間も惜しい為、二人で行くことにした。

 あの塔へ行くには森に入る必要がある。どちらにせよ行くことになったはずだが、おそらくは一番重要な何かがあそこにあるのは明らかだ。

 プールで遊んだ後に聞こうと思ったが、結局サクラに記憶喪失かどうか聞けずじまいになったしまった。もし記憶喪失だとしたら、記憶喪失になった原因があそこにあるのかもしれない。

 そんな考えの下に塔へ向かっていたのだが、森の中を進むに連れて昨日以上に何か妙な雰囲気を感じるようになった。


「やっぱり、この森には何かあるみたいね」


「ああ。ロゼも気を付けろよ、相手が人間じゃないのなら気配が判らないかもしれないからな」


「分かってるわよ、アンタは心配しすぎ。昨日だって楽勝だったんだから、空気が悪いだけでおどおどしないで」


「おどおどなんてしてない。いつもおどおどしてんのは、ロゼの方だろ」


「わたしがおどおど? そんな時なんて一瞬だってあったこと無いわよ」


 ロゼが挑発まがいに煽ってくるので、俺はそれに乗ってしまう。


「へー? じゃあカマナンの時のは冗談か演技かだったのかなぁ? あの時はお前、体中が小動物みたいに震えて――」


「あーあー! うるさいわね!?

 過去のこと掘り出して勝ったつもりになりたいんだ? へぇー、アンタがそんな心の狭い人間だったなんて知らなかったっ!!」


 ロゼは沸点を超えたように怒りのままに怒鳴りつけてくる。


「はぁ? 心が狭いって誰のこと言ってんだよ!?」


「何、やる気!!」


「なんだよ、何でそうなるんだよ!」


「そもそもアンタがわたしの事を侮辱したのが発端だったのよ、どう責任取ってくれるの!!」


「ロゼの口が悪いのがいけないんだろ!」


「人のせいにするんだ。最初からアンタがそういう人間って判ってたら、こんな所まで付いてこなかったのにね!」


「そ、そこまで言うか!?」


「言うわよ! なに? こんなこと言われたからって傷付く心が弱い人間なのかしら? そんなんだからアンタはダメなのよ!!」


「…………はっ! 無駄無駄、こんなことで言い争いしてても拉致があかねぇよ」


「へぇ、逃げるんだ? どうせアンタは誰かに負けるのが怖いだけなのよ」


「なにっ!?」


「なによ?」


「……………………」


「……………………」



「わたし、一人で行くから! アンタといたって、何の意味もないもの!!」


「あーそうかよ、好きにしろ!」


「「フンッ!!」」


 俺は通路を外れ、不貞腐れながら森の中へと入っていく。ロゼはロゼで通路をそのまま進むようで眉間にしわを寄せて歩いていく。

 しかし、腹が立った俺は気にもせず、自分の行く道が正解だと二手に分かれるのだった。



◇◇◇



「拡張領域――業腹衝隔稟アンガーバラム

 領域内にいる者達を異様に腹立たせ、仲違いをさせる…………。同士討ちがあれば尚よかったが…………二人同時は面倒でも、一人ずつなら容易に――」


 森の中に在る木のてっぺんに立ち、長い黒髪を靡かせる胴長短足の男がそんな事を口ずさんでいた。


「殺せる」


 男は、その言葉を皮切りに狂ったような目をしながら木から飛び降りる。すると――周囲にいたカラス達が飛び立ち、男を追うように黒い影が蠢いていった。



◇◇◇



 俺は道のない森の中を一人でぼやきながら進んでいた。


「ったく、何なんだよクソ! 俺が悪いんですかってんだ!

 ぶん殴らなかった俺を褒めて欲しいくらいだぜ。そもそもロゼはいつもいつも――…………あれ? なんで俺、今まで怒ってたんだけ?」


 不意に何かが晴れたように胸のムカムカが無くなり、何故それまで怒りが沸き上がっていたのか解らなくなって足を止める。

 一瞬思考も止まりそうになるのを嫌な予感が頭の中を染め、反射的に来た道を戻る事を選んで振り返った。

 しかし、その道を阻むように地面から黒い影が噴水のように湧き、瞬時に人の形を形成する。それが次々と現れ、俺の前に五人分の影が道を阻んだ。


「ここで、出るか…………」


 ロゼが心配だ。さっさと突破する。

 俺が影相手に攻撃しようと構え、拳を握る。


「元、勇者……バロウ・テラネイアとお見受けする」


 背後からボソボソと曇った声が聞こえ、咄嗟に振り返る。そこには長くチリチリした、白髪が混じった黒髪に何重にも重なった目元の隈、やせ細った胴長猫背の白い顔をした男が六人分の影と共にいた。これで影が合計11体いるのを確認する。


「誰だっ!?」


白羽ノ矢(しらはねのや)が一人、ガレスビュート」


「俺に何の用だ」


「ここに元であれ勇者がいるのは好ましくない。早々に死んでもらう」


 ガレスビュートの言葉と同時に黒い影達が一斉に俺へ襲いかかってくる。


「くっ…………!」


 周りが木々に囲まれたこんな所では戦いにくいと木枝へと飛び上がる俺は、そのまま昨日と同じ様に木々を伝って逃げ出した。


「追え 」


 影達はガレスビュートの思うがままに動くようで、言葉が発せられると同時にヌメヌメした動きで木を避けながら俺を追ってくる。

 炎魔法は使えない。とりあえず近接戦で一体ずつ倒すか。


「はっ!」


 木と木の間を行くと見せかけ、向こうの木を蹴り体の向きを変えて影の一つへと跳んでいく。

 膝を折りたたみ、影との衝突の瞬間にその足を突き出した。

 黒い影は、蹴りを入れられると弾ける水のように飛び散り、地の影の中へと戻っていく。

 更に着地と同時に右拳でもう一体、そのまま肘打ちで更にもう一つ、続けざまの裏拳で4体目。

 俺は振り返り、逃げるのを続ける為に木枝へと跳ぶ。他の影も一度動きを止めたが、再び俺を追おうと移動を始めた。


「逃げられると思ってるのか」


 ガレスビュートも追いつき、俺の後ろ追って来ている。更には人差し指を立てる事で散っていった影4体が復活した。

 面倒だな。復活数は魔力に依存しているんだろうが、アイツを倒さないと周りの影が永遠に付いて回ることになりそうだ。

 あまり強そうではないが、不気味だし、ロゼの方も気になる。早々に済ませないとどんどん状況が悪くなるか。

 俺は木との間を行き来するのを止めて地面へと着地して振り返り、余裕綽々とした佇まいで影達とガレスビュートを向かい入れる。それを見たガレスビュート達も足を止めた。


「諦めたか、賢明な判断だ。我等から逃げ遂せる事などできはしないのだからな」


「違うさ。時間が取られるのが面倒だと思っただけだ」


「何?」


 眉をひそめるガレスビュートを前に右拳を振り上げ、その拳に赤く揺らぐ魔力を出現させる。


「《赤流陣せきりゅうじん》!!」


 拳を勢いよく振り下ろすと、赤い魔力が波動のように波打つ衝撃波となって俺を中心に円形状に放たれる。


「ボバッ!!?」


 それはガレスビュートの腹部に直撃して吹き飛ばし、更には全ての影達をも一瞬にして消しとばした。

 ガレスビュートは、目視できるくらいの吹き飛んだ先で木に背中を打ち、気絶したようで起き上がらない。

 俺の前にこいつが現れたってことは、あっちにも何かあったかもしれない。急いで探さないと!



◇◇◇



 ロゼも怒りのまま不機嫌な顔をして通りを進んでいたのだが、待っていたかのように自身の黒の長髪を撫でるスレンダーな女が道を阻んでいるのだった。

 正気に戻ったロゼは、警戒しながら戦闘態勢に入る。


「誰、アンタ」


「おやおや、威勢のいいお嬢ちゃんだこと。白羽ノ矢(しらはねのや)が一人、ヴァンデリッシュ・ベーガンが貴方の命を貰いに来てあげたわよ」


「さっきバロウと口喧嘩したのもアンタのせい?」


「貴方達の喧嘩なんか知らないわよ。それより、こっちの質問に答えてくれないかしら。

 あの子を匿って――どうするつもり?」


「あの子?」


「どうせ分かっているんでしょ。この森にいた、ちっちゃなちっちゃな女の子の事よ」


「さあ? いつも何か考えて行動する奴じゃないから」


「…………そう? それなら、もう興味もなくなったし、死んでもらうほかにする事はない……ってことになるわね」


「死んであげるなんて言ってないんだけど、お・ば・さ・ん」


「…………そんなにアタシを怒らせたいんだったら――乗ってあげるわよ、生娘がっ!!!」


「あら、図星だったみたいね。どうりで老けて見えてたわけ」


「殺す!!」


 ロゼの挑発で顔が怒りに染まり、もの凄い形相でロゼへと向かっていくヴァンデリッシュ。それを嘲笑うかのようにロゼは魔法を行使した。


「フラッシュ!」


「キャッ! ッ――…………目が、前が……!!」


 ロゼの掌から眩い閃光が太陽のように光り、それを直視したヴァンデリッシュは目を抑えて前が見えなくなったようだった。その隙にロゼは進路を180度変え、来た道を走って戻る。


 いま戦闘するのは得策じゃない。相手はわざとわたしとバロウを分散させ、その上で敵をわたしの前に配置した。つまりはバロウの方にも敵が行っている可能性が高い。バロウの事だから戦っているかもしれないけど、敵の狙いがあの子だと判った以上、ホテルに戻って出直す方が賢明だわ。せめて守りにあの三バカも追加するのがベスト。

 あの子に何をしようとしているのか、アイツ等が何者なのかとか謎はまだ多いけど、準備の段階でミスを犯してた。早くバロウを見つけて引き返さないと!


「おおっと、どこへ行く気かしら。まだ殺してないんだけど?」


 走って通りを戻っていたロゼに追いついたヴァンデリッシュが再び道を阻む。


「どうして、魔法で怯んだはずなのに…………」


「甘いんだよ! こっちは魔眼持ちなんだ。片目はまだやられてるが、もう片方の目が開ければどうって事はない!!」


「魔眼……?」


「魔眼は、一部を除いて魔眼に対する魔法の効力を無効化する。そんなへなちょこ魔法なんかで魔眼を閉じることはできないんだよ!」


「くっ……」


 それなら!


 ロゼは通路を出て左の林の中へと入る。


 確かバロウが行ったのはこっちの方角。逃げると見せかけてバロウと合流し、林を利用して追跡から逃れられば、ひとまずは安心できるはず。


「待ちな!」


 そのロゼを当然のように追っていくヴァンデリッシュも林の中へと入っていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ