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4話

 ブリリアンホテル屋上、『アルティメットプール』と言われるそこはプールの端が実質このホテルの端と並ぶ場所で、プールから水平線の彼方までを一望することができる。また、カフェもあり、単に展望台としても楽しめるスポットとなっているので、ホテルに泊まることなくこの展望台だけに足を運ぶ客もちらほら見受けられる。

 そこへ足を踏み入れる女性が四人いた。


「なんか、高い所って胸がきゅって締まるわね」


 少し震えるロゼは、赤いビキニを着用し、他にもビキニを着る客の中でも快晴の中で光る太陽に照らされてキラキラと輝く長い金髪、そして一番を飾る豊満な胸がビキニによって強調されることも相まって一際目立つ存在となっている。


「けっ! ならもっと小さくなってほしいものなのですね!」


 ロゼの胸に嫉妬の目線を送るポロは、オレンジ色のヒラヒラとしたフリルがあるビキニを着ていた。


「水着が借りられて良かった。水着を持って来てなかったからどうしようかと思っていたけど、これでプールの中にも入れるね♪」


 ご機嫌なメノアは、白と水色の縞々模様のビキニを着用し、髪にはいつもの十字型の髪留めがあり、後ろで一つにまとめられている。


「サクラちゃんも可愛いよ」


「ありがとう」


 恥ずかしいのか少しばかり顔が赤く染まるサクラは、細い体に真っ白なビキニを着ている。

 その四人の存在は周りの男を魅了し視線を独占していた。


「可愛い」

「タイプだ」

「声かけてみようかな」

「俺が行くぜ」

「じゃあ俺も」


 静かに近寄る数人の男がいたが、その間に入るように下半身にズボン型の水着を着ながら上にはパーカーを羽織ったバロウが声を掛ける。


「よぉ、遅かったなお前等」


「あっ、あれは……」

「俺知ってるぞ。勇者の一人で魔王軍幹部を倒したっていうバロウだ」

「勇者バロウか!」

「あれには勝てないな……」


 渋々メノアたちに近づいていた男達は回れ右して退散する。





「女の子の着替えを遅かったなんて言うなんて、減点だよお兄ちゃん!」


「わ、悪かったよ」


 説教するように指を立てるメノアを前にたじたじになってしまう。


「そ、それより…………ど、どう?」


 顔が急激に羞恥に染まるロゼは、自身の髪をくるくる指で弄って上目遣いで俺を見てくる。


「どうって何がだ?」


「もうお兄ちゃん! 女心が解ってないよ!! こういう時は、水着姿を褒めて欲しいものなの!」


 いつもながらこういう時のメノアは手厳しい。


「……す、すまんロゼ。勿論可愛いし、すごく……すごいぞ!」


「何言ってんの……?」


「嬉しい」


 メノアからすれば良くなかったみたいだが、ロゼは微笑んで嬉しそうにしていた。

 結局、まだ俺のボキャブラリーは弱いんだよな。後でまたメノアにどやされそうだ。


「マスターマスター! ポロはどうなのです? ポロはどうですか?」


 ポロがウキウキ度マックスで跳ねながら聞いてくる。それはまさに子供が強請る時の様だった。


「うん、可愛いぞ」


「マスターもかっこいいのです、大好きなのです〰〰〰〰♡」


「ははは……」


 ポロは何を言っても嬉しそうにするからこちらも助かるし嬉しいのだが、メノアが俺の方を見る視線が痛くて見づらい…………。


「め、メノアもその……めちゃくちゃ似合ってる、ぞ」


「そ、それは…………百点、かも」


 それまでの疑うような目から一転して視線を逸らして頬を羞恥の色に染めるメノアの態度から今の言葉は良かったんじゃないかと自身の評価を改める。

 これまで何度かメノアに言われないよう自主的にも褒め言葉は練習してきたが、一番いい反応が見られたかもしれない。


「サクラも似合ってる。すごく可愛いぞ」


「嬉しい、ありがとう」


 サクラも笑顔で答えてくれ、自身の調子の良さにまさに調子に乗ってしまう。

 調子がいいぞ! これは、調子がいいぞ!


「では遊ぶのです!」


「そうだな。お前等、準備運動はしてきただろうな?

 ここは気楽に入れるが、戦場だったら水辺は危険な場所だ。準備はしっかりしていかないとな」


 なぜかそれまでのワクワクが弾けるような空気が一瞬で覚めたような気がした。何人かの目線が厳しいものに変わるのを俺はただ苦笑いで乗り切るしかできなかった。


「やっぱお兄ちゃんだった」


「なんでこんな場所に戦場とか出してくるのか気が知れないわ」


「サクラ、行きますよ。ポロについてくるのです」


「うん」


 先にプールへと向かう四人にまた置いて行かれた俺は、心の中で寂しい気持ちになっているのだった。って置いて行かないでくれるかな!?

 誰か俺を労わる人がいてくれないかな…………。

 そんな事を考えていると何処からか水が顔に飛んできた。


「うわっぷ!」


「何不貞腐れてんのよ、アンタがいないと楽しく無いでしょバカ!」


「……やったなロゼ!」


 不器用に誘うロゼに連れられ、俺も先にプールに入水している四人の所へと移動し、水を掛けていく。


「もうっ! お兄ちゃん!」


 メノアが起こって仕返しするように水を返してくる。


「わっ!」


「ポロはマスターの仲間なのです♪ 巨乳を抹殺します!」


「このチビ…………わたしは借りを何倍にしてでも絶対返す女よ!!」


 こ……こえー…………。

 ポロがロゼに水を掛け、静かに怒るロゼがやり返す。


「きゃははは!」


 俺の目線から外れたメノアが楽し気に背後から大量の水を放ってくる。


「っ――メノア、やりやがったなー! うわっぷ!? ケホッケホッ…………溺れるところだぞロゼ!」


 更にはロゼの猛追が襲ってきて顔を水の中に沈めていないのに溺れそうになった。


「シスコンバカが何言ってるのかしら?」


「マスターへの愚行、許さないのです! サクラ、参戦してください!」


「うん」


 そうしてアルティメットプールの中央を独占し、水の掛け合いが勃発する。

 それが楽しい俺も周りのことを気にせずに全員が笑い合いながら管理の人が来るまで続けたのだった。









 管理人に注意され、俺たち四人はプールの端――外が一望できる場所へと移動し、景色を堪能していた。


「怒られてしまいましたね」


「でも、楽しかった」


「まあな」


 俺も昔に戻ったみたいにはしゃいじまったし、サクラも楽しそうにしていたからそれも良かった。ほとんど真顔なサクラが笑うのはホッとするし、気持ちがいい。


「それよりも、この景色よ。うっとりするほど気持ちい場所ね」


「なんだロゼ、お前なら怖いとか言い出すかと思ったのに案外大丈夫なんだな」


「殴るわよ!?」


「悪い…………」


「あはは! でも本当綺麗。こんな場所にこれるなんてティラさんに感謝しないとね」


「そうね」


「サクラも見えるか? これがお前が暮らしている島なんだぜ」


「うん、綺麗。貴方のおかげでこんな素敵な景色を見ることができた、ありがとう」


 サクラがこんな長文をつらつらと。やっぱり綺麗なものは人を変えるんだな。


「マスター! あそこに昨日行った遊園地が見えるのです!」


「おお、上から見るとあんなんなんだな」


 今日も賑わいを見せる遊園地は、人が多く、特にジェット飛行の所で飛び交う人達の絶叫がここまで聞こえてくるので特に印象が大きい。


「また行きたいね、お兄ちゃん!」


「ははは……」


 昨日あんだけ遊んだのにまだ行きたいのか。俺も楽しめたけど、かなり遊び疲れたから当分はいいかなと思うが。


「それで、今日はこの後どうすんの? この子の事を知る為にも何かしらの行動はするんでしょ? わたしたちにもその事について教えておきなさい」


「とりあえずは、昨日の森の中に入ろうとは思ってるよ。そこでケンタたちとも協力したかったんだけど、あいつら朝早くからどっか行ったみたいでさ。まずはケンタたちを探してからってことになるかな」


「でも危険じゃない? この子を狙う輩があの森の中にはいるって事は確実でしょ。次に狙われる時には不意を突かれるかもしれない。敵がバカって確証も無いんだし」


「ああ、だからサクラはこのホテルに置いて行くことにするんだ。その為にメノアとポロには残ってサクラを守ってもらう」


「つまり当分はアンタとわたしの二人きり?」


 なぜかロゼの目の色が変わった


「なっ! マスター今二人切りと聞こえました!」


「お兄ちゃん!」


 俺とロゼの会話に割って入って来た二人が強い目つきで睨み付けてくる。


「いや、仕方ないだろ。サクラを守る人は必要だ」


「それならポロがマスターと行くのです!」


「敵が何人か判らない以上、この中で一番強いポロは残って欲しいんだ。敵が何人いても、ポロであれば安心できる。

 メノアは状況に応じて的確な判断をしてくれるし、ポロとロゼを一緒に置くのは気が引けるっていうのもあるから」


「な、なるほど……」


「ま、マスターの命令なら…………了解なのです」


 なんとか分かってくれたらしい。言った事は事実だし、二人に任せれば大丈夫だろう。後はさっさと俺とロゼで原因を見つけられるかどうかってところだな。さて、ケンタたちはどこへ行ったのだろうか。

 俺がおもむろにサクラの方を見ると、両手で頭を押さえ俯いていた。


「うっ……うう…………」


「サクラ!?」


「サクラちゃん!?」


「えっ?」


「どうしましたサクラ? 頭が痛いのですか!?」


 サクラを囲んで心配すると――サクラは苦しそうに顔を上げ、右手でこの場から右に見える塔を指差す。


「あ、あそこ…………」


「あそこがなんだ? あの塔になんかあんのか!?」


「ば、ろう…………」


 サクラが気を絶って倒れるのを俺が抱えて水の中に顔が入らないようにする。


「皆、プールはもう終わりだ。サクラを部屋に戻すのを手伝ってくれ」


「もちろんなのです!」


「サクラちゃん、どうしたんだろう……?」


「分からない、あの塔を見てこうなったんだ。何かあるのは間違いないかもな」


 その後、俺たちはサクラをロゼたちの部屋へと運んでいった。

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