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3話

 しっとりとした湿り気のある暗い洞窟の中、不気味に前のめりに佇む巨像の前にある人工的、それもかなり昔なようで所々欠けていたり、変色した段差の上で不満そうに腰を下ろす男がいた。その顔に黒いマスクを着けた金髪の男が微かに目を開く。


「どうやら、我等の邪魔をする者がいるらしい。先程、キーの捕獲において邪魔立てされたとガレスビュートから報告があった」


「ガハハハハ!! まさかあのいい伝えが本当だとわな!」


 近くの大きな岩の上に胡座座りし、大きな口を開けて声高らかに笑う太い筋肉表れる腕の上に重そうで赤く光る甲冑を身につけた茶髪の男がいた。

 その男をむさ苦しいと言わんばかりの鋭い目で見る長い黒髪の女性が腕を組んで段差の近くで反論を投げかける。


「いい伝えなんて真実味のないまやかし、あるわけないわ。たかが邪魔してくる奴らが現れたからとはいえ、変に解釈しないでちょうだい」


「もしいい伝え通りであれば、面白いではないか」


「呆れた。

 脳筋バカには何言っても理解できないようね」


「そう言ってやらないでよレンゲ。

 ドーラバの意見もあながち間違いとも言い切れないだろう。こうして復活を目前にして現れたわけだし」


 そしてもう一人、甲冑の男とスレンダーな女性の間に肩丸出しの薄着で立つ鋼色の髪を逆立てた男がいた。腰の右と左に剣を二本ずつ刺しているその男は、一人ほくそ笑む。


「なんにせよ邪魔は邪魔だ。その後も奴に追わせてはいるが、キーが無くては我等の野望も始まらん。お前達も動き出す準備をしておけ。そう、殺しの準備をな」


「任せい頭領!

 我等がそのキーとやら、必ずこの手に取り戻し、薄ら笑いを浮かべる帝国の野郎共を滅ぼしてくれようぞ!!」


「フン、まっ、当然だね」


「殺しができるなんて、血沸き肉躍りますわ」


「ここまで着々と準備を進めて来た。

 既に弓を引き、狙いも定まっている。後は掴んでいる手を離すのみ」



◇◇◇



 遊園地に戻る頃には日が傾き、どんどん夜のイルミネーションがメインの時間となっていた。所々に配列されている木々には魔力灯がいくつか付けられており、辺りが暗くなるにつれて点灯していくようになっているのだろう。それは客に通路を明確にさせるが、それは通路だけでなくレストランやアトラクションも同様で昼間とは違う姿を見せている。


「綺麗ね」


「そうだね」


 ロゼもこれを見て素直に堪能しているようで、メノアが共感する。


「――…………」


 また、サクラも初めて見るかのように目を見開き、先程までの真顔が一瞬にして変貌していたのを俺は見逃さなかった。

 最初はポロのような機械かと疑ったが、綺麗なものに感動する様はやはり女の子らしい素直な笑顔をしていてホッとした。


「マスター! また戻ってきたことですし、もう一度お菓子を買いに行ってもいいですか!」


 ポロは花より団子らしく、辺りの光景には目もくれず涎を垂らしている。それに呆れはするもののポロらしさを見て仕方なく了承するのだった。


「ったくお前はなあ…………まぁ、いいぞ。サクラも奢ってやるから一緒に行こう」


「うん」


「お兄ちゃん、わたしアイスがいい!」


「おういいぞ」


「わたしはアイスマシマシでよろしくね、バロウ」


「えっ、そんなのあるのかロゼ!?」


「ポロはですね……さっきの飴と――綿菓子と――もちろんアイスも貰います! それと抹茶善哉と――クッキーと――」


「ポロ、食べ過ぎると腹壊すぞ?」


 あんま大量食いはしないでくれ。もしかして、持ってきてる金の心配してるのは俺だけか!?


「大丈夫なのです! ポロは食べた物が全部魔力になるので!」


 そ、そうでしたか…………。


「サクラ、ポロについてくるのです! 色んなお店を食べ歩きしますよー!」


「うん」


「迷子になるから離れちゃダメだよ」


 四人が俺を置いて先を行くのを眺めながら胃が痛くなるような気がした。


「ま、待てよお前等ー。

 ちょっとは手加減してくれよー」









 夜に包まれ満月がひとつ輝く空の下、疲れて眠ってしまったポロを背負いながらホテルへと戻っていた。

 ポロ同様に皆も相当遊び疲れたのか、遊園地から続く綺麗に咲く花のような形をした周りの街灯をもう見ることはなく、早くホテルって眠りたい一心のような眠そうな顔をしており、かくいう俺自身も早く戻って休みたい気持ちで疲れ顔になっている。


「お前等、もう少し頑張れよ。もうすぐだからな」


「はぁ~い」


「分かってるわよ」


 しかし、サクラだけは違い、真顔なのは変わっていなかった。

 疲れてもそうなのか、本当に疲れていないのかはわからないが平然とした表情で俺のすぐ横を歩く。

 結局、遊園地内では敵らしい姿は見当たらなかった。手は出してこないにせよ、見張りくらいはいてもおかしくはなかった。あの黒い影は目立つから普通の人間が来ることも考慮し、何か変な感じがないかは常に気を配っていた、のだが。


 ホテルに着いた後はサクラとロゼに二人を任せようと思ったのだが、ロゼが人数オーバーだとメノアを俺の部屋によこした。俺も他の女の子なら色々と気を遣ったかもしれないが、メノアだったら慣れているからまだいいだろうと了承するに至った。


「お兄ちゃんは、どう思ってるの?」


 メノアが先に風呂を済ませ、パジャマ姿で濡れた髪をタオルで丁寧に拭きながら唐突にそんな事を聞いてきた。


「何がだ?」


「サクラちゃんのこと。今考えても色々分からない事だらけでしょ?」


「そうだな……。

 とりあえずは元凶を突き止めたいって考えてるかな」


「それだけ? サクラちゃんについて何も気にならない?」


「確かに最初は名前も無いって聞いて不思議には思ったぞ。

 それじゃあまるで――…………記憶喪失?」


「記憶喪失、あるかもしれないよ? 真顔なのが気になって全然そんな考えにならなかったけど、名前が『無い』んじゃなくて『分からない』としたら」


「だが、住んでる場所を『ここ』って言ってたし、まだ分からない。とりあえず聞いてみないことには」


「なら今聞いてこよう」


「そうだ――…………いや、明日にしよう。今日は皆疲れてるだろうし」


「そうだね、わたしも疲れたよ」


「それに少し調査もしようと思ってる。おそらく森の中に何かあると思うんだ。確証はないから時間は掛かりそうだけど、ケンタたちにも協力してもらえれば少しは早く終わるだろ。黒い影についても何か掴めるかもしれないしな」


「うん、分かった。わたしも協力する、けど…………」


「けど?」


「朝は屋上のプールに行きたい!」


「…………ま、まあ、いいけど」


 そういやこのホテルの屋上にはスリット王国同様にプールがあるらしいな。なんでもここのホテルのプールは、最上階からの眺めも素晴らしく、たいへん人気のスポットの一つなんだとか。メノアなら食いつきそうな場所だったな。


「じゃあお兄ちゃん、早く起きて起こしてね~♪」


「はは……」


 サクラについて調査するのも必要だが、この島に来た休息という目的としてメノアたちを楽しめるのも忘れてはいけないしな。まずは屋上のプールで遊んでからサクラのことを考えればいいか。

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