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23話

 巨人像とカナリの魔法の押収は拮抗していた。

 相手が力押しに対してカナリは淡々とそれを相殺。まるで相手に合わせて威力を抑えている気さえした。

 しかし、合間合間に相殺以外で攻撃を仕掛けるもそれは全て巨人像の張る見えないシールドによって阻まれる。

 本体には当たらず通る気のしなくなる壁が魔法を阻んで本体の悔し顔が拝めなくなってしまっている現状だ。


 しかし、暫くしてイメガの焦燥感が限界点まで上り詰めようとしていた頃。急にカナリの魔力に揺らぎが生じ始めた。

 なんとか最後の一撃だけはと二発目の雷魔法を飛ばして相殺したが、カナリの様子は良くなかった。

 いつの間にか尋常じゃない汗を掻き、息も荒く膝に手をついている。


「カナリちゃん!」


 俺の背中からメノアの心配する声があったが、カナリは手で「来るな」とジェスチャする。


 あいつ、まだ一人でやるつもりか?

 これ以上は流石に危ない。相手も一筋縄では無いんだ。


 イメガは、こちらが疲れていようがいまいが関係ないようで直ぐに口から光る光線を放ってくる。

 カナリは苦しそうに手をかざしてまた魔法を使おうとしていたが、先程までのような相手の魔法を相殺できるほどの魔法が発動する気がしなく悔しく苦い顔が光に照らされていった。


 カナリは魔力量、魔法力、共に高いがそのせいで魔力が減るにつれて制御がままならなくなる。このままだと、魔法が発動しないなんてことにもなりかねない。


 俺が飛び出そうとするのを一瞬戸惑ってしまう。俺の視界に入ってきたサクラの姿を見たからだ。俺たちと迫る光との間に必死に体を入れようとするサクラを。


 サクラ……!!?


 俺の伸ばす手は誰の所にも届かない。

 伸ばしても、伸ばしても、俺の手はもう少しのところで何も掴めないのだ。


「くっ――!」


 カナリも気付いたのか魔法の発動を止めたようだけれど、それ以上のことはできないようだった。

 遅く進んでいたように感じた数秒はすぐに終わりを告げた。


 一瞬、サクラの身体がエメラルドのように光ったような気がした。


「ッ……アァアアアアアッ!!!」


 戦々恐々(せんせんきょうきょう)としながらも死ぬ気で打ち込んでくる魔力を吸収しようとしていた。

 これは、地下で俺相手にやっていた事の応用のように思えた。自分の意志で巨人像の魔力を間接的に消滅させようとしているのだ。小さくも自分より何倍もの大きさを持つ魔力を。


「わたしの魔力を返せ……ッ!!

 わたしの家族を、わたしの友達を傷付けることは絶対、許さない……!」


「ダメだ、それ以上はッ!!」


 俺は駆け出し、サクラへと手を伸ばす。

 イメガも魔力を吸収されるのは面白くなかったようで巨人像の光線を止めさせた。


「チッ……死に損ないが死力を尽くして仲間の危機を救ったか。

 しかし、予定には全く影響はない。そんな事、今の様に何度も続かないのだから」



 緑色の円形魔力に包まれたサクラが休むように倒れながらゆっくりと下りてくる。

 俺がそれを支えると、魔力が消えて重力が戻ったように倒れるのを抱き寄せた。

 冷や汗のようなものが全身から流れ出ており、辛そうな様子のサクラは俺の顔を見上げて視線を逸らさなかった。


「サクラ!」


「サクラちゃん!」


 心配する俺達に対し、穏やかな笑みを見せつけるサクラは今にも消えそうなくらい儚げに体を光らせている。

 それが何を意味するのかを俺はなんとなく解ってしまっていた。


「バロウさん……ごめんなさい。わたしが巻き込んだばっかりにこんなにも貴方を、貴方の仲間の人達をも傷付けてしまいました……」


「バカ野郎……そんな事を思ってる奴なんか一人もいねぇよ。

 それに、俺は巻き込んでくれて感謝してんだ。俺を頼ってくれて感謝してんだぜ。

 助けてもらったことも感謝してる。

 けど、無茶すんなよ……。任せろって言っただろ」


 サクラは俺の胸倉を握り締め、苦しそうな声で、されどそれを表には見せずに口を動かしている。


「だって、わたしも力になりたかったから。

 わたし達が向ける牙をアイツに見せつけたかったから……!

 お願い、バロウさん。わたしの魔力を全部渡すから、絶対……この島を、皆を踏みつぶそうとしているアイツを倒して……!!」


 サクラは言葉を伝え終わると、安らかに眠るように目を閉じて自身から離れていく光の泡を俺の体の内へと流し込んでいった。

 狂おしいほどの熱がどんどんなくなっていくのを俺は感じながらサクラの体が消えていくのを下唇を噛んで俯きながら感じていた。


「俺は、お前も助けようとしていたのに……!! なんで……どうしてッ!!」


「わたしは一杯助けられたよ。

 それに、まだ終わりじゃない。もう少しだけ今のわたしはバロウさんの傍に――」


 サクラは、俺の中へと消えていなくなってしまった――。


「サクラちゃん……」


 メノアの寂しそうな声が聞こえる中で、巨人像が足を踏み出す雑音も耳に入ってきてしまう。

 しかし今、俺は悔しい声を挙げることは許されないと感じた。

 サクラが俺の傍にいてくれると言ってくれたから。

 それはきっと、まだ俺と一緒に戦ってくれると思ったから。


「ハッ、消えたか。鍵としては、まぁ使えた方だろう。

 それより喜べ。こうして娘の生きた証がここに在るのだから」


 焦燥感が無理矢理に解き放たれた気がした。

 イメガの言葉に名状しがたい怒りが湧き上がり、それに応えるように立ち上がる。

 そして、俺たちの所に全員が集合した。


「すまん。大分待たせた、バロウ……」


「……かの少女の恨み、俺たちも同じ気持ちなのである」


「最後までオラも付き合うヨ」


「マスター…………」


「バロウ……」


 俺を憐れんで、またサクラを想って掛けてくれる言葉に、まだ実感がなかった現実を思い知らされる。

 しかし、俺の腕の中にあった熱は確かに俺の中の魔力に混じっているのを全身が理解していたのもまた事実。

 だからこそ、俺は見るべきものから目を逸らしてはいけないのだと。彼女の苦しみも想いも解っているうえで成し遂げなくはならない。

 今すべきことは、寂しくて悲しくて泣いたり俯くのではなく、約束を果たす為に前を向くことだ。


「バロウ様、全員恙無(つつがな)く回復してお連れしました」


 アモーラにもいつもの艶めかしさはなく、その声は静かだ。

 だが、これでやっと目の前の敵を倒す準備が整ったという訳だ。


「ありがとうアモーラ」


 俺達の中を駆け巡る風が髪を靡かせるものの深々と静まり返る。


「行くぞお前等――。

 これで最後にする」


 俺に強く「応!!」と答える皆はそれぞれ先に見える巨人像へと駆けていく。ケンタ、ゾアス、ラキウス、ロゼ、アモーラが我先にと特攻していった。

 そんな中、ポロが俺の下へと心配そうな表情で寄ってくる。


「マスター……」


 ポロも悔しいのだろう。悲しいのだろう。

 その目や頬はほんのり赤くなっていた。


「ポロ、暁丸を出してくれ。

 お前の想いも乗せて――いいや、サクラの想いも皆の想いも乗せてアイツをぶっ飛ばしてくるから。だから、ポロも力を貸してくれ」


「――任せてください!!」


 ポロは目元を拭っていつもの調子を見せつけてきた。

 その仕草で涙を堪えていたのを想像できたが、俺は何も言わなかった。

 ポロはせっせとマジックボックスから赤い鞘に収まった暁丸を取り出し、両手で捧げるように渡してきた。


「ありがとう。そして、少しの間頼んだ」


 ポロは強く頷き、先に行った四人を追ってもの凄い速さで飛んでいく。


「お兄ちゃん、どうするつもりなの?」


「皆がいる。少しの間はなんとか時間を稼いでくれるはずだ。

 だから俺は、皆を信じてあの巨人像を斬る為の準備にかかる。メノア、無理を言ってすまないが、カナリの事を頼んだ」


「ムリなんかじゃないよ! 任せて!」


 本当は、俺に魔力を吸われすぎて倒れないように必死なのを俺は解っていた。

 だが、俺の妹は逞しいのだと含み笑いをするだけだった。

 ティラを見ると、目で頷いてくれるので俺の意図も理解しているようで安心する。どうやら、俺のやる事は最初から見抜かれてしまっていたのだろうかと考えてしまうほどに。

 まだこいつらと連携を取った回数は少ないはずなのに。感謝しかない。

 そうだ、今はすべきことの為に全力を注げればそれでいい。後の事は後の事だ。


 前を向くと、もう後ろを振り返る気はなかった。

 俺は、敵だけを凝視し天高く空赤で昇っていった。

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