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16話

 とうとう巨人像は、その視界に人間を捉えた。

 ブリリアンアイランド港には何百人も載せられる大きな船に逃げ込む人々がおり、今まさにそこへ迫ろうとしていた。


 巨人像の目が赤く光る。

 悪魔のようなその目から溢れ出すような魔力が放出され、一直線に地面へと刺さり、どんどん人間がいる方へと迫りいく。


「きゃぁあああああっ!!」


 大勢の悲鳴が響き、万事休すを世界に知らせようとする。


「海へ逃げろっ!」


 また、冷静な者は海へ身を投げ、光線から免れようと頭を回転させる。

 その中で一人、光線を前に仁王立ちし逃げる事もなく、悲鳴を挙げて騒ぐでもなく、立ち向かおうとする小さい老婆がいた。


「お婆ちゃん!」


 その雄姿を船から見ていた若い少女が「逃げて」という意味合いが込められた呼び掛けを叫ぶ。


「一度切り。この日の為に全てを待った。

 いいか、一度切りじゃ……後は任せましたぞ。

 ――断壁だんへき!!」


 弱弱しく、老いた両手を前に掲げて死力を尽くして魔法を発動させた。


 老婆の前に高く、そして厚く、高い外壁が反り立った。

 直ぐにその壁に巨人像が発した光線が当たる。

 壁は、削れはするもののその厚さによって後ろへと光線を通すことはなく、やがて光線は空へと上がっていった。


 それで安堵したのか老婆はしおれるように地面へと倒れてしまい、近くの島民が何人か助け出そうと駆けてくる。


「トガ婆!」


「二度目は……無い。

 はようお逃げ。

 わたしは、もう長くない……」


 弱弱しい声で言う老婆は、凍えるように震えていた。


「何言ってんだ、死なせるもんか!」


 そう言って島民の男は老婆を抱きかかえて船へ乗せようと逃げ出す。

 老婆の勘は当たり、巨人像は二投目を眼前に準備して魔力を溜めている。


「頼んだぞ……」


 一発目で距離感を掴んだ巨人像の光線が一直線に船へと放たれる。

 標的である船に乗り込む乗客員たちは、諦めたように目を瞑って子供や老人、女性を守ろうと盾になる。



形態変化モード・トランス――《鬼牙オーガ》!!」


 一足、地面について超加速。

 巨人像ほぼ真横より空中をマッハに迫る速度で飛ぶものがあった。

 それは、空中で更に加速し、小さな体で巨人像の光線より速く船の前へと躍り出る。


 一角が額より出で、目が赤く鋭く、口には牙があり、まるで魔人のような形相。

 大きく口を開けて空気を溜め込むように閉じ、体をしなやかに仰け反らせたかと思えば次の瞬間、


「ポロ・ビクトリー!!」


 膨大な魔力が開いた口より光線となって放たれ、巨人像の光線と衝突。

 空間が歪むような波動が島中に響き渡ると同時に、それは相殺された。


 地へと降り立つと、口から煙を吐いて殺気を標的へと向ける。


「サクラ、見っけ!」


 信じられないものを見たように後ろの人間たちは絶句していたが、直ぐに現状を把握し、「おぉおおおおっ! 助かったぞ!」と大盛り上がり。


「よく来てくれた……。

 あとは、せめて、最後だけ……。

 ――喝!!」


 老婆がくわっと強張った表情になると、何か見えない衝撃波のようなものをオーラを交えて放たれる。それは、意識ないサクラへと届くのだった。



◇◇◇

 


 ポロの前に阻まれ、足を止める巨人像の額にある水晶には意識がないように瞼も開かず、身動きが一切無いサクラが閉じ込められていた。

 しかし、今、サクラの目がゆっくりと開いていく。


 サクラは目の前の光景を目の当たりにした瞬間に絶句する。

 尋常ではない威力の魔法が放たれたような地面の抉られた跡。遠くで立ちはだかるように睨み付けてくる変身したポロ。その後ろで自分を恐れているように戸惑い、逃げようとしている島民達。目に映る全てに畏怖し、凍えるように身震いする。


 これ…………。

 わたし、何処にいるの?

 わたしは…………何……?


 サクラが怯えるのを他所に巨人像の顔がどんどん上がっていき、サクラの魔力を吸い取るように魔素が体から出て行くのが粒子となって見えていた。


 何コレ……どうなってるの…………!?


 巨人像の顔が瞬時に降下し、突き出されたかと思えば、サクラの足下よりの下方から膨大な魔力をもった魔力砲が島民がいる船の方へと真直ぐに放出される。


 ポロさん!


 その船を守るように立ちはだかるポロは逃げもせず迎え撃とうと跳び上がる。

 中に溜め込んだ魔力を口を開けると同時に魔力が凝縮されたようなものが見える。


「ポロ・ビクトリー!!」


 その魔力に負けじとポロも口から魔力砲を吐き、巨人像の魔力を相殺する。

 物凄い爆風と波動が起きたにも関わらず、巨人像の体はビクともせずに立ち伏せる。

 ポロが着地して無事を確認したサクラも安堵するが、もう一度見た時のポロの表情が苦しそうであり、胸が締まる思いで苦い顔になる。


 わたしの魔力が今の殲滅の巨人像の魔力源になっているんだ……。

 わたしがポロさん達に向かって魔法を撃ってるのと同じなんだ。

 嫌だよ……。


「やめてよ! ねぇ、やめて!

 わたしなら枯れるまで使い古していいから! 皆には手を出さないで!!

 お願い……お願い…………」


 震えながら涙を滲ませ、苦しむサクラ。

 友人を苦しめている事実、過去に平穏に過ごしていた自分が住む島を破壊している光景、人間を追い詰めて見る恐怖心が全部サクラの胸に棘として刺さっていく。


 しかし、サクラの声や歔欷きょきは自分の中で響くだけであった。


「助けて……。

 助けて、バロウさん!」


 その瞬間、巨人像後方の地面が爆発を起こしたかのように砕け、中から何かが現れた。



 暗闇に閉ざされた地中奥深く、俺の耳に確かに助けを呼ぶ声がした。


「任せろサクラ、俺がいるッ!!

 俺が、お前も、何もかも――全部取り戻してやるッ!!」



 宙に浮いた岩の数々の中から一瞬の赤い光を放つ。


「《赤煌せっこうしん》――MAX(100)パーセントアドバンテージ」


 すると――そこより生まれた光が一線の赤光線を引くよう巨人像へと向かい、前面中腹へと現れ、通過した場所に風が後になって暴風の如く吹き荒れる。

 バロウは、額に怒りを表す皴ができ、腕の袖が引きちぎれるように破れ、全身が魔力を輝かせるように赤く光っており、一末の消費されて行かない魔力が雷のようにほとばしる。


「バロウさん――ッ!」


 サクラの目にもバロウが映り、希望が芽生えたように顔が綻ぶ。


「てめぇの全力振り絞って、サクラだけは守りやがれ。

 一応加減はしてやるが、保証はできねぇからなァ――ッ!!

 《赤辣せきらつしん超世代ハイパーエイジ》――!!」


 目に見えぬ速度の振りかぶり、

 そして振りかぶった先の拳が纏う魔力の膨らみによって巨大な拳なり、

 まるで巨人対巨人のように巨人像の中段にバロウの拳が牙を向く。


 それは一瞬に起きた出来事であり、

 巨人像の目が下を向く過程、バロウを視認する前に後方2キロをまるで人形のように吹き飛ばした。


「サクラを返してもらいに来た。

 さっさと取り出してやるから、サクラだけは死んでも守れ。そいつは、てめぇの命なんだからよ」





 その巨人像の無様な姿は驚愕としてメノア達、遊園地付近で戦闘していた者達にも見える。


「う……そ…………」


「あの巨人像が一瞬にして……スゴイの一言に尽きるのである」


「……あれは絶対バロウだヨ…………。

 あんな事できんのは、バロウかケンタくらいしかいないヨ」


 気絶したガレスビュートを縄で縛り終わり、たった今巨人像へ向かおうとしていた矢先、目標として見上げていた相手が急に数キロを移動し戸惑いを隠せないと同時に、ついニヤケてしまう三人。


「お兄ちゃんが戦ってる。皆、ずっと戦ってる。

 わたし達もあそこに行こう。まだきっとこれからだけど、これまで通り何も怖がることなんてない。

 だって、わたし達はいつだってどんな苦しい状況だって戦ってこれたんだから!!」


「うむ、これに興じぬは男の廃れ、ぜひ同行したい」


「オラは男だヨ、なんだって掛かって来いって感じに決まってるだロ!」


 希望が発芽し、進める足を速める三人は再び現地を目指して駆けていく。





 激震は島民を歓喜させ、騒ぎ立てるように大勢の声が響き渡るブリリアンアイランド港。

 そして、それはポロの目にも映り、安堵からか変身が解けて額の角も引っ込む。更には、力が抜けて膝を付き、手を付き、目に水が現れる。


「マスター…………ポロは、お待ちしていました……ッ!!」


 喉奥から出たような苦しそうな声に対し、彼女の姿勢は主を崇めるような跪きとなっており、口角も上がっていた。

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