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15話

 島上空が暗雲に包まれていく中、森の中を進む巨人像を目指して走るケンタとポロは、ホテル前を通過し、森に入らんとしていた。

 そこへ、道を阻むべく現れた一人の男がおり、二人共急ブレーキで足を止める。


「誰なのです!?」


 全身に赤い甲冑を纏い、頭無しのフルプレートからの上からでも判る巨体な体が道を阻んでいた。


「それはこっちの台詞せりふだな! 森の中に何用だ?」


 鎧や体は、土埃などで汚れてはいるものの、それには見合わない楽し気な笑みを見せるその男は、斧を肩に乗せ、答えをたがえば戦闘状況に入る事を示唆していた。


「あのでけぇのを、俺がぶっ飛ばしに行ってやるんだよ」


 巨体な相手を前に変な汗が滲み出るも、強がる態度をとるケンタは、静かに拳を構えた。

 ポロは、準備運動をするように屈身を始める。


「やるなら、相手になるぜ」


「ポロたちに勝つのは無理だと思いますが、やりますか? やりませんか?」


 「ふぅ」と一息吐き、ポロもケンタ同様に威圧して構える。


「圧倒的一択!!」


 ドーラバは、満足気に顔をほころばせて右脚を引き、斧を改めて構える事によって戦闘態勢となる。


「ポロ、気を抜くなよ。相手はかなりのやり手だぞ!」


「任せてくださいケンタ。マスターの下へ行くまで、ポロは誰にも負けまないのですっ!!」


 二人の殺気を受け、ドーラバの表情はどんどん笑みを強めていく。

 それを見たケンタは一気に力を解放すべく、全身に紋章の力を発現させていく。


「行くぜ」


 全身から黄色い閃光を放ち、

 やがて体に馴染み、黄色い淀みが覆っていた。


「悪くない圧だ……。

 せいぜい楽しませてくれよ、船出前の準備運動として不足ないくらいにはな!」


 ドーラバの威圧感は、静かに二人の拳に力を入れていた。



◇◇◇



 ゾアスとラキウスが見事な連携を見せ、影を相手に遅れをとることはなく、その間で二人の動きに合わせるように隙を突くメノアの剣がガレスビュートにもうすぐで届くという所まで迫っており、余裕の態度は消え失せていた。


「惜しい!」


 メノアの剣がガレスビュートの長髪を掠め、悔しそうにする。対してガレスビュートは息切れを起こしており、メノア以上に悔しそうであった。


「その調子だメノア殿! 我等が影をなんとかする故、メノアは周囲を警戒しつつそいつへ剣を振るってくれい!」


「サポートもできればするヨ!」


「ありがとう!」


 メノアは後ろでサポートしてくれる二人を頼もしく思い、口角が上がる。

 それを前にしているガレスビュートは苦しい顔をし、自身の爪を噛んでいた。


「くそっ!」


 この女はどうという事はない。影を向かわせれば、近づくことはできなかった。

 あいつだ、あの弓使い。あいつが女に向かわせる影を瞬時に射貫いてくる外すことはない技術。目の前を錯綜している影の波の中で正確に射貫いてくるのは常人にはできないありえない空間把握能力。針の穴を通すような繊細な作業をあんなふざけた奴ができるなど、想定外だ。

 更には、時に殲滅力の高い魔法を撃ってくる。あれのおかげでもう影の生成速度が落ちてきて数も減ってしまっている。

 あのデカブツも厄介だ。先程から弓使いを狙おうとしているのに、全てを反射的に叩いてくる。

 生成場所は意外な場所のはずなのに、隙がないにも程があるといえるくらい面倒だ。


「隙あり!」


 メノアが思惟をするガレスビュートに突き。

 それをバク転で回避し目の前の地面に黒い影を広げ、そこから三人分の影を生み出し、舌打ちをした。


 こんな奴相手に三人分の影を出さなくてはならないとは……。


「メノア、伏せロ!」


 ラキウスの声でメノアは咄嗟に伏せ、その奥から風を纏った矢がガレスビュート目掛けて飛んでいく。


「シャドウ・シールド!」


 地面に広がらせた影から海の波のように出てきた盾を生成し、矢を止めた。

 しかし、盾に触れた瞬間に爆風を起こして盾に穴を開け、メノアの前を阻んでいた影達を破壊していた。

 そこへ跳び上がるメノアが剣を振り上げ、ガレスビュートへ迫る。


「気づいてる? これ、ただの耐久戦になってるよ。

 もうすぐわたしの剣は、攻撃は、君に届く。もう届くかな?」


「舐めるな!」


 怒りの形相で見上げるガレスビュートが掌を構えると、指の先から長く鋭い黒の爪が出る。

 メノアの表情に驚きが出るが、既に跳び上がっている為に引く事はできないと覚悟を決める。


「メノア殿!」


 ゾアスが襲ってくる影に囲まれながらそれに気付いて叫ぶが、メノアとは距離があり、近づくことはできない。それでもと、ゾアスは自身を抑え込もうと押し寄せる影達をただの腕力だけで捻じ伏せる。


「邪魔をするなぁあ!」


 

「シャイニング・スピア!」


 左手を前に出し、魔力によって作られた光の槍をガレスビュートに飛ばす。


「らぁあッ! ハハハハ――――ッ!!」


 しかし、光の槍はガレスビュートの黒い爪によって刻まれ霧散されてしまった。それに悦に浸ったガレスビュートは、高らかに笑う。

 メノアはいつでも撃てるよう魔法を用意していたが、それも今使ってしまい、ただ剣を前に構えて衝突を待つだけとなる。

 ガレスビュートは、今か今かとメノアが降りてくる事を待ち構える、まるで獲物を標的として捕えた野獣のように逝った顔をしていた。


 この女を殺せば、この状況は一気に瓦解する。

 この女を殺せば、後は俺を狙う者がいなくなり、影の本流と魔法を行使することで残り二人も容易に殺せるようになる。

 この女を殺せば、作戦遂行待ったなし!


 死を覚悟して時間をゆっくりに感じ、剣を突き出すメノア、

 影を投げ払いながら三人の大勢を崩してでも、少しでもメノア達に近づこうとしているゾアス、

 しかし、この切迫した状況下の中で一人冷めている者がいた。

 決して緊張していない訳ではない。それは、先程メノアを呼ぶのに敬称を付けていなかったので判る。

 ただ一人だけ余裕があった。


 メノアちゃん、気付いているかい? さっき放った矢が一本ではないことにヨ。

 風魔法を纏った矢は迫力があり、囮として役に立つ。爆風も起こせば、花があってかなり視線が集まる攻撃の一つとなるだロ。

 もう一つの矢は上へ向けて放ち、今、君の攻撃を完成させようと宙を行っている。

 それは攻撃の為の矢ではなく、状況を変える為の一手だヨ。


「あれは……!」


 ゾアスの視線に空からメノアより遥かに速く落ちてくる矢が入り、ラキウスの方を振り返る。

 ラキウスは指で鉄砲を作り、バンッと撃つ素振りを見せた。


「決めろヨ」


 先端にキラキラと淡い光を纏う矢がメノアとガレスビュートの間の地面に落ちた。その瞬間、光魔法のフレッシュの如き閃光が激しく輝き、全員の視界を閉ざす。


「なんだ、これはっ!?」


 視界を腕で隠し、どんどん後づ去りしていくガレスビュートの目の前にメノアが着地した。メノアは視界に矢が入った瞬間に目を瞑った為にあまり閃光の影響を受けておらず、そのまま目を瞑ったままだった。


「剣を振るえ! メノア殿ッ!!」


 力強いゾアスの叫びが耳に入り、メノアは再度剣を両手で握り締める。


「やぁあっ!!」


 自身に喝を入れるような叫びと共に一歩前に出て剣で横殴りした。


「ぶっ!」


 剣の横腹が当たり、強ビンタをされた衝撃があっただろう。

 そこには確かな当たる感覚があり、メノアは嬉しくなって思わず、


「やった! やった?」


 と疑問を呈した言葉を漏らした。


 やがて閃光が止み、メノアは目を開く。

 暫し目の前が明るくまばたきを何度かしていたが、視界が戻ると、

 メノアの目の前に意識を失ったガレスビュートが倒れていた。

 その頬は赤くなっており、そこに当たったのだと一目瞭然である。

 後ろを振り返れば、ゾアスたちを囲んでいたはずの影達の姿がなく、ガレスビュートが気絶していることを悟る。


「流石ラキウス、弓の腕だけは一流であるな」


「弓の腕だけなわけないだロ! こんなに一流の顔立ちじゃんヨ!」


 落ち着いた所でラキウスを褒めるゾアスだったが、その言葉にラキウスは不貞腐れたように言い返す。


「ありがとう二人共、おかげで生きていられたよ」


 メノアにも表情に安堵があり、胸を撫で下ろしていた。


「まだ何も解決してないヨ。さっさとあいつを縛って、皆に追いつくヨ!」


「そうであるな」


 一時の安心も束の間、三人は再び遠くで進撃する巨人像を目視し、緊迫感を露わにするのだった。

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