表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/26

13話

「海が静まり返る時、海より来たるは殲滅の巨人像。

 それは破壊を尽くし、世界の生きとし生ける者達を殲滅するだろう。

 阻止したければ時の巫女を祭壇に捧げるべし。やがて闇を司る者が巨人像を送るだろう。

 時が満ち、やがて巨人像はより魔力を得た時を超える巫女によって復活を果たし、過去に果たせなかった殲滅を尋常ならざる時間で成し遂げようとするだろう。

 言い伝え通りに、成った!!」


 ドーラバの意味不明な言葉が俺の頭の中で竜巻のようにぐるんぐるん回った。

 『より魔力を得た時を超える巫女によって復活を果たす』にある時を超える巫女をサクラとすると、

 『魔力を得た』つまりは、魔力を与えたとは――俺のこと?

 咄嗟に後ろを振り返る。

 すると、サクラはぐったりとした様子で宙に浮き、空気の膜のようなものに包まれていた。


「サクラ!!」


 サクラを包む空気の膜に跳び付こうとするが、それはサクラをつれて移動を始め、巨人像の方へと向かって行った。


「サクラ――!!」


 俺がサクラを追おうとすれば、またドーラバが俺の前を阻む。


「行かせはせん。悪いがこのままこの場につっ立っててもらおうか」


「うるせェ…………。

 邪魔だって言ってんだろうが!!」


 右拳を力強く握り、赤い魔力を発現させると拳を覆って激しく踊る。

 紋章の力なら魔力ではないからサクラには影響はないはずだ。全力で行かせてもらうぜ。

 まだ修行の途中だが、俺なりの改良を加えて威力を上げた。



「《赤辣せきらつしん》!!!」



 思い切り振りかぶった拳が左手で狙いを定めた場所へと捻じるようにして捻じ込んでいく。

 狙いはさっきと同じドーラバの腹中央。当たると同時に拳を覆う赤い魔力が爆発するように急激に膨れ、ドーラバの甲冑を粉砕し、穴を空けるようにドーラバの腹を抉る。


「っ――!!?」


 魔力がそのままドーラバを運び、背中がイメガへ当たる。


「ドーラバっ!!?

 ぐっ……!!」


 これでサクラに掛けられている魔法が解けてるはずと思ったが、サクラは巨人像の額にある水晶へと吸い込まれていっていた。


 解けてない?

 一度発動されたら継続して展開し続ける魔法か。

 サクラが吸い込まれていっちまった。助け、られなかった…………。


 悔しがって俯く中で左の手の甲の紋様の光が消える。


 これって、サクラの反応が消えたってことじゃねーよな?


 急に地響きが起こり、足元がおぼつかなくなる。

 それでふと巨人像の顔を見た。

 さっきの笑顔に帯びた狂気が深くなり、目が大きく見開いていた。そして、まるで生きているかのように体が動き、地響きを激しくし、天井を壊してどんどん上へ向かって行こうとしている。


 こいつ、本当に動くのか!!?

 くそっ! サクラを取り除きたいのに行っちまう!!

 仕方ない。一度地上に出て、それからサクラを額の水晶から取り出す。そうすればまたアレはただの銅像に戻るだろ。

 まずはロゼと地上へ…………ロゼはどこだ?



◇◇◇



 ブリリアンアイランド遊園地周辺。

 茂みがホテルまで続く通り道で数えられない数の人型の影達とメノア、ポロ、ラキウス、ゾアス、ケンタの五人が格闘を広げていた。

 ケンタ、ゾアス、ラキウスの三人は着替え終わっており、武装もしている。戦う準備はできているようだが、それでも一手足りなそうにしていた。

 既に日が傾き、夕焼けが照り付ける中でゾアスの刃が光り、ラキウスの魔法である炎纏う不死鳥が空を舞う。

 ケンタは、メノア、ポロと共に拳と脚でひたすらに影達を消滅させるが、消した端から影は復活し、襲い掛かってくる。


「俺の魔法は、夜になるにつれて力を増す。貴様等の相手は俺一人で十分だ」


 萎びた髪をしているガレスビュートが、全員が一向に近づけない距離で仁王立ちしていた。


「くそっ! なんであいつ一人簡単を倒せない!?」


 怒鳴るように吐き捨てるケンタは紋章は使っていなかったが、影を投げ倒すのは難しくなさそうだった。


「あの人が絶対サクラちゃんを狙う奴等に繋がってる。絶対に捕まえて!」


「ですが、この黒いのが近寄らせてくれないのです!」


「諦めるな、活路はある」


「ゾアス! もっとワイドに広げてくれ、こっちに来ちまうヨ!」


「了解した!」


 ラキウスの声に反応し、ゾアスが斧を振るう。

 影を一気に六つ倒し、ラキウスへ近づけさせないようにする様はまさに武人だった。


「マスターはどこなのですか!? 嫌な予感がするのです!」


「お兄ちゃんは、きっと今も戦ってる。わたしたちだけ遅れを取ってるんだ。

 何が何でも道をお兄ちゃんまで繋いで見せる!!」





 その時、島中で地響きが起きた。

 長く、そして時間が経過するごとに強くなり、全てを嘲笑するような光沢を帯びた巨大な身体が地上に姿を現すのだった。

 島の住人は、目を丸くして徐々に高鳴る心臓の音と共に、かすれそうなくらいの声で呟く。


 ――帰ってきた、と。


 この島では、まだ歴史の浅く、されど恐ろしい伝説がある。

 しかし、いつか必ずそれは現れると今も語る者がおり、それを信じる者はこの島を去って行った。


「海が静まり返る時、海より来たるは殲滅の巨人像。

 それは破壊を尽くし、世界の生きとし生ける者達を殲滅するだろう。

 阻止したければ時の巫女を祭壇に捧げるべし。やがて闇を司る者が巨人像を送るだろう。

 時が満ち、やがて巨人像はより力を得た時を超える巫女によって復活を果たし、過去に果たせなかった殲滅を尋常ならざる時間で成し遂げようとするだろう」


 ブリリアンアイランド港より見上げる年老いた老婆が震えながらに口ずさんでいた。

 そして言う。


「時は満ちた」





 揺れる大地の影響から膝が畳まれるメノア達は、遠くに聳える巨人像をその目に捉えた。

 その体には並々ならぬ、人間なんて及ばない禍々しい邪気のようなものを帯び、見たものを恐怖に陥れる。その存在を本能が嫌悪し、全員が怖気づいた。

 それを他所にガレスビュートは立ち上がり、崇めるように腕を広げてこうべを垂れる。


「おお! やっとこの目に……!

 絶対なる破壊の神にまみえることができた。なんて美しく、なんて神々しい。

 神よ、破壊と殲滅の支配者よ、我等の願いを果たしてください。我等の信仰とともに、この体、この役を、貴女様に捧げ奉りまする」


「あんなの、反則だ……」


 ケンタは、一人睨み付ける。

 最近の修行が搔き立てる闘争本能がケンタの敵を見定めていた。

 あれは必ず倒さなくてはならないが、倒せるものではないと。数々の戦闘経験や、異世界へ来て培った相手を推し量る目。どの感覚でも、敵対するなと叫んでいた。


「あれ、なんなんだヨ……」


 いつもは五月蠅いラキウスも口数が少なくなっており、それが意図したものではなかった。


「聞いたことがある。かつて、七つの大罪の欠片より生まれてしまった個体が存在すると。

 それは、誰かが意図して造られたのではなく、それぞれの欠片が融合してできた存在。七つの大罪の性質は持ち合わせてはいないが、その存在だけで災厄にして最悪なのだと」


 地響きが止み、メノアは立ち上がる。

 悔しさが募っているかと表情から読み取れたが、顔を上げた瞬間にその表情が変わった。それは覚悟を決めた女の素顔だった。


「ケンタ君、ポロちゃんには、あっちを任せる。先に行ってて。きっと、お兄ちゃんたちもいるから。

 ここはわたしと、ゾアスさんとラキウスさんの三人でやる。そして、あの人を拘束する!」


「待て! 五人でも難しいのに、二人も減らすなんて無謀だ!

 それに、奴を拘束できたとしても、何も解決しないんだぞ!」


 ケンタは、立ち上がってメノアの方を振り返り、慌てて反論する。


「相手は一人。三人だって多いくらいだよ。

 それに、あの影を広範囲に広げられたら手遅れになっちゃう。

 ここから先、もっと状況が悪くなると思うから。その時にお兄ちゃんに色々心配事をさせたくないの、わたしたちがサポートするんだよ」


「ケンタ、俺たちに任せるのである」


「もうコツも分かったし、どうせすぐにそっちに行くことになるヨ」


 ゾアス、ラキウスの二人も立ち上がり、澄み切った表情でケンタを説得する。


「ケンタ、皆は強いのです。あんな気持ち悪い男なんて楽勝です」


 また、ケンタの袖を引っ張るポロの顔はまっすぐケンタの目を見ていた。


「……分かったよ。まっ、俺たちの方が早いかもしれないけどな」


「言ってくれる」


「舐めんなヨ!」


 冗談混じりに了承するケンタにゾアスとラキウスはほくそ笑んだ。


「気を付けて」


「メノア達も」


 駆けだすケンタとポロの背中を暫く見た後、三人はガレスビュートの方を振り返る。

 ガレスビュートは、未だ巨人像に祈りを捧げていたのだった。


「さぁ、そろそろ遊びを終わらせるよ!」


「無駄な事を。俺の影の移動範囲が有限だと思っているのか?」


「それは、お前に余裕がある時だけだろう?」


 一気に距離を詰めたゾアスの斧による横殴りがあり、ガレスビュートは咄嗟に地面より出す黒い影のシールドでガードする。


「言ったロ。相手は一人、コツも分かったってヨ」


 ラキウスの嘲笑がガレスビュートの表情を怒りに変えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ