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9話

 ロゼは、洞窟の中で巨人像の前から動かない二人のせいで帰るに帰れなかった。


 なんであいつ等全く動こうとしないのよ! こんな所にいてつまらなくないの!? 暇なの!? 暇人? 暇バカ!!? こっちはアンタ等にどっか行ってくれないと出られないのよー!!


 ロゼは見つからないように岩の影に隠れ、そんな愚痴を心の中で叫んでいた。そんな我慢の均衡を破るが如く、黒マスクの男から言葉が出る。


「来たな」


「例のか!」


 黒マスクの男は、ほくそ笑むと視線を上げ、掌を表にする。

 すると――シュッとその掌の上に新しそうな茶色い本が開いて現れ、男の手へとゆっくり下りて収まった。

 本には表紙にも裏表紙にも題名のようなものは書かれていなく、端を金色の枠が囲んでいるだけだった。


「やはり、剣聖だ……」


「遅いくらいだな。今まで何をしていたのか」


 剣聖? ……剣聖って、あの剣聖? なんで剣聖なんかすごそうな人の名前が? 来たって言ってたし、この島に? 何で? こいつ等がこれから何をするかを知っているから? あの本は魔道具かしら。剣聖が来たことが分かったってことは、ただの魔道具ではなさそうだけれど。

 それにしても、こいつ等も本当はかなりヤバめなんじゃ…………。剣聖に目を付けられるほどの奴等ってことだもんね。


「どれ、少しちょっかいを出しておこう。まだ剣聖の相手をするのは早いのでね」


「頭領ばかり楽しんでいてズルいが、今の我でもかの剣聖を相手どるのは実力不足だからな。仕方ない」





「あ? 行き止まりだぞ」


 アレンとヨゾラは洞窟へと入っており、暗い中をロゼ同様フラッシングの明かりで進んでいたのだった。そして今、崩落したようで洞窟の先の通路が塞がっている場所へと行きついていた。


「おかしいわね。ガンマに言われた通りの道のはずよ」


「ガンマが言ってたのは、いったい何年前のものなんだ?」


「さ、さぁ……? そこは聞かなかったわね」


「どっちにしろ、これでは先に進めない」


「はぁ~……仕方ないわね、一度戻るわよ。別の通路があるはず、それを探しましょう」


「それしかないか……ぶっ壊すにしても先の洞窟まで崩壊させかねないしな」


 面倒そうに二人が通路を戻ろう振り返ると、どこからか男らしき声が響いてくるのだった。



「やぁ剣聖アレン。こんな薄暗い場所に何の用かな」



 アレンが振り返ると――そこには青白い姿の黒マスクの男が宙を浮いて立っていた。


「お前が、像を目覚めさせようとしている頭のおかしな野郎か」


「頭がおかしいとは失敬ですね。

 だが、その通り。我等はコロッサスの目覚めを確信して動いています。その為に【黒の番人】からも血を頂いてきた」


 青白い男は、口を動かしまるでそこにいるかのように話している。


「黒の番人?」


「おっと失礼、我等の間ではそれで通っていましてね。君たちの知るところで言えば、【さすらいの英雄】……でしたっけ」


「はっ、まさか本当だったとはな。あいつがお前みたいなのに一発かまされるとは正直思ってなかったよ」


「運が良かった、ただそれだけの事ですよ」


「だけど残念。悪いけど、お前等の計画はそう上手くいかないみたいだな」


「あなたがいるからですか? それもどうでしょうね。あなたが私の下まで来れるかどうか……」


「お前、俺ばかりを警戒していると痛い目を見る事になるぞ」


「…………どっちにしろ、あなた方にはここで脱落して頂きますよ」


 その瞬間、アレンとヨゾラの近くで爆発音が鳴り響き、地響きが起こりアレンは舌打ちする。


「ちっ」


「ヤバ……!」


「生き埋めになって、お亡くなり下さい」


 落石と共に青白い黒マスクの男が消えていく。それを見送ると、天井が崩壊する中でアレンは後ろのヨゾラへと手を伸ばす。


「くっ――」



◇◇◇



 森の中で迷った俺は、せめて温泉郷へ出れないかと思いながら自分がどこへ向かっているかもわからず走り続けている。

 さっきから景色が変わらない事にむしゃくしゃしていると、さっき見た黒い影が俺が行く道の先から向かってくるのを見つけ、走る足を速める。


 影だ! 道を知っているかもしれない。この際、敵の本拠地だろうと行ってやる! こんな森の中一人ぼっち彷徨うのはもう飽きた。敵がいて、あっちから俺たちに刃を向けるというのなら、俺が全部終局まで持って行ってやる!! そして終わったら、皆で温泉に入るんだ!!


 俺の足が早々と影へと迫る。影もこちらへ向かってきているので、互いにぶつかり合うのも速いのだと思われた。しかし、もうすぐ捕まえられるという所まで来て影は突然動く方向を変えた。


「ん!?」


 てっきり自分へ向かってきてるのだと思ったのだが、そうではなかったようだ。しかし、その影の後を追う者達がいて足を止める。


「ケンタ! ゾアスにラキウスも!」


「バロウ!」


「バロウ殿」


「なんでバロウがこんな所にいるんだヨ? それも一人で、迷子かヨ」


 影を追っていたのは昨日と同じ変な格好をしたケンタ、ゾアス、ラキウスの三人だった。


 痛い所をついてくるな。そうだよ、迷子だよ。迷子にさせられたよ。

 ロゼから離れても直ぐには正気に戻れなくて、どうやって森を進んでいたか判らなかったから迷子になっちまったよ。

 でもこいつら、まだそんな格好していたのか…………よく飽きないな。


「そんな事より、今のはなんなんだ? バロウは知っているのか!?」


「ああ。あれは敵の一人、ガレスビュートの魔法だ。

 そして――あそこが敵の本拠地に続く穴、みたいだな」


 影が行った方向を見ると、木々が開かれて日を浴び、その中央に高くそびえる塔の入口が口を大きくあけるように開き、佇んでいる。


「……がれす……? 誰だ、それ? 今の黒いのが、魔法によるものだってのか」


「バロウ殿は既にやっかい事に巻き込まれているようだの」


「まあな。でも、本番はこれからだ」


「なんだかよく解らないけど、本番って言葉には乗っからないオラじゃないヨ!」


「俺たちも、暇をしていたところであるからな」


「まっ、力を貸すのに抵抗はないけどさ。俺たちこんなんだぜ? せめて靴くらいどうにかしたいよな」


「あっ…………」


 三人の靴は昨日見た時と同じサンダル。砂浜を歩いたのだろうサンダルや足にところどころ砂が付いている。俺はそれを見て思わず呆れた。


「…………じゃあお前等は一端ホテルに戻って装備を整えてこい。ここまで来た道は分かるか? 森の中は複雑だから知ってる道を行った方がいい」


「一本道だったから」


「それと、ゾアスかラキウス。どっちかはホテルにいるメノアたちを守ってくれないか? 今ホテルにはメノアとポロがいるんだけど、もう一人サクラっていう奴がいて、そいつが敵に狙われているんだ。そいつを含めて守って欲しい」


「それならば俺が付こう。ラキウスが敵さんとご対面したそうだからな」


「サンキュー、ゾアス。オラは前がかりにいくヨ!」


「じゃあ、先に行ってるからな」


 三人は頷くと、来た道を戻るように駆けて行く。


 よし。今は昼くらいか? 夜には終わらせて温泉に浸かっていたいぜ。


 俺は一人、影が行ったであろう塔の中を目指して足を進めるのだった。

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