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プロローグ

※こちらのストーリーは、「勇者に相応しくないと勇者を解雇されたので、辺境の地へ逃げることにしました」の第一章から第四章までの内容を含みます。まだ読んでいない方には、そちらからお読みすることをおすすめします。

 そこは鍾乳洞のような洞窟なのか周りが岩や土でできており、天井や壁面には特徴的な微地形が見られ、この暗い空間にどこからか少しばかりの日差しが入ってきている。

 ポツンポツンと水滴の落ちる音が断続的に反響して趣が感じられるその空間には、人が通る為の道があり、そこだけ岩などの邪魔な物が意図的に排除されているようだ。その先には、洞窟への入口に繋がりそうな通路があり真っ暗で何も見えなさそうである。

 そんな人も寄り付かなさそうな場所で水滴とはまた別の音が反響する。

 コツンコツンと硬い地面から鳴る靴の音だった。その靴音を鳴らす者が洞窟の通路から姿を現す。

 洞窟の隙間から射す光を反射する金の輪を指に嵌め、黒いマスクで顔半分を隠し、肩まである金髪を揺らして姿勢良く歩く男。

 男の服装は貴族が着るような制服を、黒く塗り手繰ったような奇妙なものだった。

 その男が歩くと次々と何処からか暗い影の中に現れてくる四人の者達がいた。その者達は洞窟中央を歩く男に従うことを強調するように跪き、こうべを垂れる。


「ようやく、準備が整った。

 長らく待たせたな同志達よ。始めるぞ、世界を震撼させる祭り事を!!」


 男が手を広げる先にあったのは、目を閉じながらも狂気溢れる不気味な笑顔をした石で創られたような王冠を被り、額に水晶が埋め込まれている巨大な像の首だった。

 不穏な空気漂うこの場所で佇むその像の瞼の間が光っていた。



◇◇◇



 晴れる日光が木々の葉に反射し神秘的な雰囲気を醸し出す森の中、透き通った水と和む音が流れる河畔に誰かの歌声があった。

 その歌声は、森に棲む動物達をも魅了するほど綺麗でそれぞれの木の枝の上には何匹かのリスが、川の上で飛び交う三匹の鳥が、木の影から出てくる兎が数頭ゆっくりと近づき鑑賞している。

 歌声の主である桜色のショートボブに前髪で左目が隠れている少女は、河畔にある少し大きな岩に腰を下ろし、川を観ながら穏やかな表情でリズムに合わせ首を横に動かし、細くて白い足を上下する。

 その光景はまるで森のお姫様が自然と対話しているかのようだった。


「もしもわたしがわたしを失くしても 君が見つけてくれるって信じてる

 いつか怯えて君が困っても わたしが助けに行ってあげるから

 何も知らないわたしを救ってくれた貴方きみ

 君だって知らなくて 何も言えなくてごめんね

 現在いまはもう 傍に居たい 離れたくない

 誰より強い絆で生きていこう わたしと一緒とも

 信じて 手を取り合って 背中合わせて

 最後の私の友達(マイフレンズ) どんなに離れても君達と共にるよ」



◇◇◇



 俺たちは現在、晴天の下で人が賑わう遊園地という場所に来ている。

 出店や遊び場、レストランが密集し、およそ35ヘクタールの面積を要する楽園ユートピアだ。

 この頃ティラの頼みや修行の詰め込みもあって、ティラが特別に旅行券をくれ、せっかくなので皆で来ることにした。

 まあ、カナリはあのアルティナ大図書館が好きなのか、スリット王国に留守番することになり、タナテルとアモーラもまだやる事があると言って置いてきてしまったのだが。

 ここは、スリット王国より西に百数キロ離れた港から船で更に西へ行った先にある絶海の孤島――ブリリアンアイランド。

 とある金持ちが観光地化したらしいが、そのおかげで小さい島に多くの人が押し寄せているようだ。

 遊園地内となれば、メノアやポロが迷子にならないよう気を付けなくてはいけないほどに人ごみが多い。

 ともあれ、修行の合間の休息としては贅沢なレベルで満喫しているかもしれない。


「マスター! ほわほわなお菓子らしいのです! 甘くて美味しいのですぅ~」


 蒼いショートボブの子供にしか見えないのがポロ。人造人間ホムンクルスで昔俺がゲルシュリウム研究所で起こしてから俺に従順に仕えている。強いし、魔法も使えるから頼りになるが、偶に変な事を口走ったり、甘えん坊なところは外見のとおり子供らしいかな。

 気がつけばポロはお菓子に目が無く、勝手に買ってほっぺが落ちると言わんばかりのとろけた顔をしていた。


「お兄ちゃんお兄ちゃん!」


 この腰まである長い黒髪に十字型の髪留めをしているのが妹のメノア。俺が孤児だったのをメノアの両親が引き取ってくれた為、メノアは義理の兄妹にあたる。しっかりもので魔法だけでなく、生活面でも賢く、兄である俺の方が見劣りするくらい何でもできる超絶美人だ。兄の俺が言うのもなんだけどな。

 メノアの声で振り返ると、両手にうさぎか何かのキャラクターの人形を持っており、目をキラキラさせて買え買えオーラ全開で言い寄って来る。


「これ可愛くない? 絶対可愛い! お兄ちゃんも買お! ねっ! 買おう!」


 その圧でたじろぐも、今度は後ろからクイクイと俺の服を引っ張る者がおり、どうしたのかとチラリと顔だけ後ろを向く。


「ねぇ、一緒にアレ行こう?」


 流れる金髪をした人形のように顔のパーツが整って可愛らしいこの女性がロゼ。元奴隷で、奴隷時代に俺を殺しに来たのだが、カクカクシカジカあって今では俺たち冒険者パーティの仲間だ。言葉がきつく、上からものを言うことが多いが、偶に見せる笑顔なんかは年相応の女の子だ。

 そんなロゼは、ここへ来て不機嫌なのか不貞腐れたような表情をしながら指を差しているので、そちらに視線を向ける。そこには何人もの恋人のような男女の組みが並んでいる恐怖系のアトラクションへの扉があり、入り口の上の看板には、『ナイトホラー』という題名の隣に『二人ずつ』という文字が書かれてあった。


 ロゼは確かああいう系のものが苦手だと思ったのだが、実は克服したいとか思ってんのかな? でも、なんかあそこ二人ずつみたいだし、メノアとポロを置いて行くわけにはいかないからすぐには無理だな。


「悪いがロゼ、あそこはまた後でいいか? 二人の面倒もみないといけないし」


「……フン!」


 不機嫌なのを悪化させてしまったのかロゼはそっぽを向いて答える。

 ヤバい……怒らせっちまったかな……?


「子供の面倒見るのは大変そうだな、バロウ」


 また後ろから声を掛けられ振り返るといつものお馴染み三人組のケンタ、ラキウス、ゾアスがいた。

 天然パーマで普通の顔したケンタは異世界人らしく、最初は神の言われるがままに俺を倒しに来たのだが、これまた紆余曲折あって、今では協力関係のような感じで共に窮地を乗り越えた経験もした。

 オレンジの鶏冠頭をした変な奴はラキウス。こいつは、言わば自由人。ノリが良く、周りを奮起させるのが得意で、また奮起させられるのも得意だ。ゾアスと仲が良く、この二人の信頼関係は俺も見習いたいくらいだ。

 口周り全部から髭を生やした茶髪の男がゾアス。この三人の理性みないな奴だ。ケンタを稽古させているところも見たこともあって、信頼されている感じがある。ラキウスとは息の合った兄弟のように特に仲がいい。

 こいつら三人もティラに旅行券を貰っており、一緒に船に乗って来たというわけだ。

 遊園地に入ってからは別行動にしたが、ケンタ達も満喫しているようで花柄のシャツをお揃いで着用し、靴はサンダルを履いてサングラスまで掛け、キラリとカッコつけて登場する。どっかの酒屋で酔いつぶれていそうなおやじを連想させるそれにどう反応していいのか困る俺は鈍い返答をする。


「は、はぁ……?」


「なぁあああ! な、なんなのですかそれは!!」


 しかしその服はポロには物珍しかったようで過敏に反応するのだった。


「おうおうおう、チビッ子にも分かるか? この渋いカッコよさってヤツがヨ」


「イカしてるのです! マスターも着てください! 絶対カッコいいのです!!」


「お、俺はいいかな……はは…………」


「意味わかんない、ただのキモい格好ってだけじゃない」


 言わずもがなロゼの反応は冷めたもので、まるで死んだ虫を見るかのような冷徹な目を三人に向けていた。

 俺も実際のところは同意見だが、この場ではそれもアリかもと思わせる気分の高鳴りがあり、よく見れば涼し気で楽しそうでもある。しかし、三人みたいにロゼのこの視線を受けるのは勘弁したい。


「楽しんでいるであるか、バロウ殿」


「あ、ああ……」


 正直言えば、ゾアスはこういう格好はしないと思っていたが、一番似合っているのはそのゾアスのようだ。結構歳がいっていると勝手に想像していたが、それでもこの場所は歳に関係なくはしゃげる場所なのかもしれないな。実は将来性がかなりある素晴らしい観光地なのかも。


「お兄ちゃんお兄ちゃん! あっちでウサギンが握手してくれるって! 行こう! 絶対行こう!」


 また何か見つけたメノアは、三人には目もくれずに少し離れたところにいるこの遊園地のキャラクターと握手がしたいと俺の腕を引っ張る。


「あ、ああ。分かったから、あんま引っ張んなって」


 俺はその引きの強さにメノアに連れられて移動していく。そして俺は三人にもう一度別れ科白せりふを残す。


「じゃあまたなお前等。

 楽しめよ!」


「あっ! 待って欲しいのですマスター、メノア!」


「ちょっと早いわよアンタたち!」


 俺とメノアが移動するのに気付いて追いかけてくるポロとロゼの後ろでポカンと嵐が去った後の静けさを感じる三人組だった。


「お、おう……」


「いつも仲がいい四人組なのだ」


「いいなぁ、バロウ…………」


「よし、それならオラたちもナンパに繰り出すヨ!」


「……うん、そうだな。おー!」


「イエーイ!」



 ここブリリアンアイランドは、海に囲まれた島で観光地と言ってもそこまで広いわけではない。だが、観光客向けの島である為に俺たち客人としては最高の場所となっている。

 遊園地はこの島の象徴であり、他にも温泉、釣り場、ホテル、闘技場――休息に必要な要素が詰め込まれているのだ。

 ホテルにはスリット王国にもあるプールもあるらしく、細かい所まで作りこまれている印象だ。

 しかし、まだ開発途中の段階な訳で島の中でも入ってはいけない危険な場所もあるらしい。ここは活火山がある為にそういう場所があってもおかしくはないし、嵐が来れば海も荒れる。遊びに来るにしても注意しなくてはいけない点はあるようだ。それに比べ現在は晴れ晴れとした空で気持ちのいい風が流れている。だから嵐に関しては問題ないみたいで良かったとホッとしている。

 こんな島で嵐にあったら面倒だし、心細い。

 ともあれこの休暇で良い一時を送れればいいと三人の笑顔を見ながら思うのだった。

運命辿る少女と殲滅の巨人像コロッサス編を始めました。

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励みになりますし、力が出ます。

これからもよろしくお願いします。

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