逃亡王妃は子育てがしたい
皇女マリアナは敵国の王太子殿下と政略結婚し子供を出産する。しかし子供は夫にとられ、王太后達によって教育されていく。子供を奪われ、結婚生活もすれ違ったまま四人目の子供を妊娠した時にふっと思いだしたのは前世の記憶。
このままではいけないと妊娠を隠し王城からマリアナは逃亡する。
「私は子育てがしたい!」
逃亡先の田舎で子育てスローライフ初めました。
「マリィ、何かあったらちゃんと僕に連絡するんだよ。僕はマリィの大好きな頼れるお兄様だからね」
「お兄様と言っても数十分早く生まれただけではありませんか」
「可愛い可愛い妹のマリィが心配で仕方ないんだよ」
ウラクシア大陸の南側に位置するアルティナ皇国の王城では、14歳になったばかりの少年と少女が向き合っていた。
血の繋がりを感じる同じプラチナブロンドの美しい髪とエメラルドグリーンの瞳、男女の違いはあるが年頃になるまでは鏡をみるようにそっくりな容貌であった。今は少女の長い髪と豊満な胸、コルセットに締めつけられているか細いウエストが可愛いらしい女性であることを主張している。
少年のほうは身長こそはまだ成長途中であるものの、父親に似た面差しに変化し、貴族男性の嗜みとして習う剣技で身に付いた所作や筋肉が男性らしさを醸し出していた。
「お兄様のことは私もお慕いしております。私があちらへ嫁いだらもう他国の者ですから、こうやってお話しすることはもうないのでしょうね」
「こんなことになるくらいなら、あんな国滅ぼしてしまえば良かった。わざわざ魔力制御して軍隊を率いねばならなかったのにその成果が妹の政略結婚だなんて酷すぎるとは思わないか?」
「お兄様、私結婚自体は嫌ではないのですよ。父様や母様のように仲の良い夫婦となって、お兄様や私のような子供達と幸せな家族を築くのが夢なのです」
アルティナ皇国の北側に位置するクセルクミア国とは長年にわたり戦争が続いており、今回クセルクミア国の国王陛下が崩御し王太子が国王になったことで国の体制が変わり和平を結ぶ運びになった。前国王が戦好きだったそうだが、息子である王太子のほうは理性的で落ち着いた人柄だともっぱらの噂である。
和平の条件としての政略結婚であることは誰が見ても明らかだった。
「マリィ、君の魔力適性は僕に劣らず暴力的な数値なんだから、あちらでもしっかり隠し通すんだよ。わざわざ父様たちにまで魔力適性を隠しつづけた意味がないからね。それに政略結婚までは僕も許すけど、他国との戦争で兵器として運用でもされたら僕が暴力的な話し合いで解決するしかなくなるからね」
「えぇ、わかっております。お兄様が私のことを守り続けてくださっていたこと、とても妹として誇らしく感じています。お兄様と双子で生まれて幸せですわ」
「マリィ・・・僕はやっぱり政治上必要だった出征とはいえ、あの時に隣国を焼け野原にしておけばと本当に思ってるよ」
明日にはクセルクミアへ輿入れのために旅立つ妹姫の額に少年は口づけて、優しくハグをする。
「この国の皇太子としてマリィにできることは少ないけれど、そなたの唯一の兄としてなら何でも出来ることはするつもりだよ。だから、強がらないでちゃんと頼るんだよ」
「はい、私も他国の妃としてはお兄様を頼ることはできませんが、ただの妹マリアナとしてライアン兄様に頼ること忘れません」
過保護過ぎる兄との話し合いは短い間ではあったが、マリアナにとってはとてもかけがえのない時間となった。何かあっても頑張っていけるようなお守りがわりの兄との約束。
自分より下にも弟妹がいるけれどいつも一番優先をマリアナにする兄のことを家族として愛していた。
くしゅん!
レディとしてはNGすぎるくしゃみをした私に驚いたのは近くに控えた乳母のメリッサであった。
「姫様!お風邪を召されているのですから、ちゃんと寝台に横になってくださいませ!」
「だって・・・外が見たいのです」
馬車はクセルクミア王族のもので、アルティナ王城に迎えにきたものだ。アルティナ皇国のほうが大国ではあるものの、アルティナ皇国の馬車でクセルクミアまで行くよりも、クセルクミアの馬車でクセルクミアまで行くほうが安全だろうとお兄様も言っていた。
最後になるであろう自国の景色を馬車の窓からずっと見ていたら案の定風邪をひいた。
「もう、姫様のお願いですから少しだけですよ」
メリッサはちょっとお叱りモードの顔であったかい毛布を沢山持ってきて私を包み込んだ。馬車内は快適に整えられ、私とメリッサと侍女のマルガリータしかいないので、正直気を使わなくても良い空間なので嬉しい限りだ。
「外交とかで来れるかもしれないけど、お父様やお母様と一緒に眠ったり、城下町に遊びにいったり、もうできなくなるんだもんね」
「皇帝陛下と皇后陛下も姫様のことが大好きですからね。今回の輿入れも最後まで粘っておられましたから・・・」
父と母にとても愛されて育った自覚はあるし、兄には溺愛といっても過言ではない愛され方をしている自覚もある。
今回、相手がクセルクミアの皇太子ということで適齢の未婚女性が私しかいなかったために起こってしまった政略結婚だったのだ。
「私はアルティナの王城しか知らないから、クセルクミアに行って馴染めるか不安はあるけどドキドキもしてるの。両親のような夫婦になって子供達と過ごすのよ」
自分が夢見る少女のような話を語っていることはわかっていたし、政略結婚で両親のように仲の良い夫婦になるのはむずかしいだろうと思っていた。
「姫様のお子様ならきっと可愛いらしいお子が産まれますわ」
メリッサが微笑みながら言ってくれるだけで少し安心した。
去っていく母国の風景を眺めながら、新しい生活への期待と不安をぎゅっと握りしめた。
それから幾日かすぎて国境に近づくと、クセルクミアの軍人達が待ち受けていた。国境につくまではアルティナの軍とクセルクミアの将軍らしき人が護衛してくれていた。しかし、クセルクミアへ入ってしまえばアルティナの軍は撤退し数人ばかりのアルティナからきた護衛騎士がのこり、クセルクミア軍主導の護衛となる。
「我々の護衛はここまでです。姫様、どうかお健やかにお過ごしください」
私に恭しく頭を下げるアルティナの将軍であるヒュリオ将軍は、公爵家に婿入りしており、末娘のローズは私の親友だ。幼なじみであり、唯一気軽に接することのできるかけがえのない友人。輿入れの話が出た時も、私よりも泣いて大変だった。
「将軍、両親と兄様のことどうかよろしくお願いします。もう近くで守ることも、励ますことも出来ませぬから。兄様に至っては一端決めたら私の言葉以外ではあまり曲げない性格ですので、少し心配なのです」
「姫様の願い承りました」
「あちらで余裕ができたら、ローズに文を書きますから待っていてほしいと伝えてください」
私よりも泣いていたローズは、自宅でもないて娘だいすきな将軍を困らせていたらしいと将軍と仲良しな父に聞いた。
アルティナは階級はあるものの、わりと能力主義なところがあるためか重用する家臣と父様が話す姿を何度も目撃している。
「それでは、ごきげんよう。アルティナ軍の方々ありがとう」
アルティナ軍とのやり取りを終え、クセルクミアの軍が護衛にかわる。
クセルクミアの軍とのやり取りは王城に迎えにきた将軍らしき人が色々とやり取りをしていた。クセルクミアは身分制度ががっちりしていて王族はあまり下々の方と話さないらしい、とクセルクミアの将軍のお付きの侍従達と話をしてきたマルガリータが教えてくれた。
そのせいか、護衛をしてくれている将軍らしき人の顔をしっかり見ていない上に話をしてもいない。
「将軍のお名前とか聞いたりするのはいけないのかしら?」
「姫様、まさか説明されたときに聞いていらっしゃらなかったのですか?」
メリッサが何を言ってるのかしら、と言わんばかりの表情で言ってくるが聞いてないものは聞いていない。
「だってライアン兄様の話長いし、護衛の人の名前を足早に全て読み上げるから覚えられないし聞いていないも同然なのです」
過保護な兄は予習と称してクセルクミアの歴史から貴族関係、命を狙われる可能性も含め毒物や魔術具の知識講座を一ヶ月にわたり私に施した。出発直前の護衛軍の名前など顔も一致しないし、一瞬で覚えられるわけがない。兄は頭の出来が違うらしく覚えが早いけれど。
「あのガルシア・マルトス将軍ですよ」
「あの方があのマルトス将軍?」
戦場で何度か会ったと兄様が言っていた、国宝級の魔術の使い手であるマルトス将軍のことだろうか。私自身魔術具が好きすぎて自作したりしているせいか、国宝級の魔術師と言われる人物には興味が湧いた。
「マルトス将軍が護衛ならば、安心ですわね」
私が言うと、メリッサやマルガリータも合わせて頷いた。
私の夫になる王太子、もとい先王が先立ってしまったためにもう国王である彼は私の5つ歳上の綺麗な顔をした美丈夫だった。流れるような金髪に青の瞳、物語の主人公のようなキラキラ度合いである。
「マリアナ・クロス・アルティナと申します。陛下」
初めて会うのはクセルクミアの王の間であり、国の違いか人は排され王族と一部の上級貴族しかいないようだった。
あまり感情が外に出なそうな綺麗な顔の王は、私を見つめるとわずかに目線を逸らした。
「クロヴィス・アウフ・クセルクミア、私がそなたと結婚するこの国の王だ」
一度逸らされた目線は再度私の目を居抜き、響く低音の声はたしかに私の心を撃ち抜いた。
彼が私を愛することはないかもしれないけれど、私は彼に恋をすることが出来そうで安堵したのを覚えている。
それからも元々無口で寡黙な王は、臣下にはわりとしっかり話すのに私と会話らしい会話をすることがなかった。
彼の周囲には上級貴族の娘達もちらつき、まぁ愛妾というか側妃にあげたいと思うような女性もいたのだろうかと考えたこともある。彼ほどの美丈夫にときめかない女性はいないだろうし、ましてや妃は元々敵国の王女だったわけだから、側妃でも愛妾でもなろうと思えばなれるだろうし、色々考える貴族連中もいるのだろう。
それでも、その頃の私は嫁入りして国に馴染むのに必死だったし地域ごとに違う言葉も全て覚えた。彼との子供をもうければ、やっとこの国の王族として認められるような気がしていた。
彼との初夜はイメージと少し違っていた。
夜、二人きりのときだけは少し、普段より2割増しくらいで口数が多い。しかも物凄く優しく私を抱いてくれた。ただとても手慣れた感があったので、やっぱり普段の彼は私を嫌っているんじゃないかと思ってしまったくらいである。
それからも何度も夜をともにし、妊娠するまで時間はかからなかった。
初めて産んだ我が子は魔力も高く面差しは陛下によくにた男の子だった。抱き上げたときに小さい手が私をぎゅっと掴んだのを今でも覚えている。近くにいた陛下もあまり表情にはでないものの喜んでくださっているのがわかり、幸せな瞬間だった。
アルティナでは母様と乳母が主に子供の面倒をみていたのでクセルクミアでも同様だと思っていた。
けれど翌日からは天国から地獄に突き落とされたようだった。
「陛下、私はアレクシスには会えぬのですか?」
「クセルクミア王族としての教育を施さねばならぬからな。母が責任をもって教育してくれるそうだ。アレクシスは第1王子となるのだからな」
私がアルティナ皇族だから教育から外されてしまったのだと、すぐに悟った。産まれた王子はクセルクミア王族だから、私が邪魔なのだと言われた気さえした。私が妊娠中に魔力適性を感じたため、兄様までとはいかないまでも有能な王子になるだろうと、親バカらしく思っていたことを思い出す。
クセルクミアではアルティナよりも魔力差別が強く、魔力が強ければ優遇され、弱ければ廃嫡もあり得るように魔力が弱いと生きづらい。私と似た子であれば適性を引き継ぎクセルクミアでもうまくとけ込めるだろう。母として教育できなくても、たとえ言葉をかわすのが夕食時だけになろうとも、子供の成長を見ていけるだけでも幸せだと自分に何度も言い聞かせた。
出産後で張って痛む胸を自分で搾乳するのがとても惨めで、泣きながらメリッサやマルガリータに手伝ってもらったのが今でも少しトラウマになっている。
その後で第2子以降なら関われるのではないかと淡い希望を抱きながら過ごし、第2子は女児でフィアナ、第3子は男児でユリウスと出産したが、ことごとく教育権を奪われ惨めで悲しい思いを繰り返した。第3子に至ってはアレクシスより魔力適性が上になるかもしれないと陛下の取り巻きの侍従達が喜んでいた。
陛下との関係は平行線で、言葉は交わすがやはり目を逸らされるし、子育てのことも母には強く言えないようで、私がこれ以上言って困らせてしまうのも忍びなく言わなくなった。時折マルガリータには子供達の様子をこっそり見に行かせているし誕生日には、色々と人を経由してプレゼントを贈ったりしている。
ちょっと諦めながらも、子供の成長を影から見守る日々だった。今にして思えば色々反省しているし、大人げなかったとも思っている。他にやりかたもあったのかもしれない。
アレクシスが8歳になった時、ようやく王城の陛下や私が住む部屋と子供部屋がある王太后の部屋が制限つきだがアレクシスの意志で出入りが可能になった時だった。
初めて手を繋いだ我が子の感触を忘れられない。一気に赤ん坊から子供になってしまったアレクシス。
アレクシスの言葉が深く刺さってしまったのは、そんな生活に疲れきってしまっていたからなのかもしれない。
「私の母上なのですか?敵国の王女様なのに?」
王太后から言われたのか、侍女や貴族連中からそう言われたのかわからないが、ひどく傷ついた。
そんな時に判明したのが第4子妊娠だった。いつもならお腹に魔力が宿るのを感じて医師に伝えるのが通例だったが、今回は微弱すぎて気づくのが遅くなり月のものがきていないと乳母の知らせで気づくことになった。
そして妊娠が判明した時私はメリッサとマルガリータにはしばらく口止めを頼んだ。私は魔力適性が少ないこの子をどうしても私の手で育てたい、母と呼ばれたかった。
その夜長い長い夢を見た
私の生まれる前の記憶、日本という国で松宮ルカとして生きていた記憶が塞き止められていたダムが決壊するように流れ込んできた。
愛する夫との間に子供ができず不妊で苦しみ、姑にいびられ、夫は愛人と不倫し子供までつくっていて、悲しんでいた私は不幸なことに交通事故で離婚前に死んだ。
ルカの辛い気持ちが流れ込んできたと同時に、お腹に子供がいる以上このままではいけないと思った。
「この子をつれて逃げなきゃ」
そう思うと意外と私は冷静に対処していた。
アルティナへ戻ることはできないため、王都から離れた田舎でこの子と二人で暮らせる場所を探し始めた。
そして陛下の公務に出来るだけ支障がないように、私そっくりの魔道人形を作製し置いていくことにした。自慢じゃないが魔道具づくりはライアン兄様よりも上手だったのだ、多分ぱっと見なら魔道人形だとは誰も思わないだろう。私の記憶も定着させておき、動作が私と似るようにして、動作に必要な魔力は陛下が供給できるようにしておけば問題はないはずだ。
まぁ、兄様ならぱっと見でも見破ってしまいそうだが、兄様と間近で会うことはここ数年なかったのだからこれからもないだろう。逃亡先でお手紙を書いておけば、王城から抜け出したとは思うまい。
クセルクミアの西側にあるフラブィア公国近くの町であれば、アルティナ硬貨や紙幣が使えるだろうから、輿入れする前に貯めていたお金が使えるはず。兄様と魔道具を作って色々売り払っていたことを思い出す。
「あなたを必ず守ってみせるわ」
まだ膨らむことがないお腹を優しく撫でると、私はメリッサとマルガリータを呼んだ。
クセルクミア西側に位置するティエラ伯爵領の最西端、国境に近く行商の町として栄えるアクアスタ。
南はアルティナ、西はフラヴィア、北はルマディーナ共和国と接するためか、多国籍の町になっており色々なものが出入りする特別な町になっていた。周辺には自然もあふれ、小さな村も点在するような土地。
私はこのアクアスタの南側にある小さな村、ラムナ村へと来ていた。メリッサだけ連れて、得意の転移魔法を使えば城から抜け出すのは簡単だった。
陛下へ置き手紙も残してきたし、魔道人形も置いてきたし公務に差し障りはないだろう。陛下の子供をもうけた時点でほとんど私には用はないだろう。
マルガリータは子供たちの様子を知らせてもらうため、私が逃亡したことは知らないふりをして城に残ってもらうことにした。
たったひとり、この逃亡を協力してくれた人がいたからできることだ。
私は時折眠れなくて城の図書館や温室で夜を過ごすことがあった。その時に出会った陛下の妹君リリアーナ様。私と同じ年で、あのマルトス将軍と結婚しているというお姫様。
私の話を聞いてくれて、息子達にプレゼントを渡してくれるのもいつもリリアーナ様だった。マルガリータのことをリリアーナ様にお願いし、しばらく城を離れることを伝えると最初は難しい顔をしていたリリアーナ様だったが、生まれてくる子の魔力適性がほとんどないことを話し子育てしたいことを伝えるとしぶしぶ了解してくれた。
「マリィ姉様は我慢し過ぎなのです。本来、クセルクミアだって母が子育てするものなのに、うちの母はちょっとお馬鹿というか親馬鹿で・・・王族として本当に申し訳なく思っております。それにしても兄様はあんな見た目で奥手だから、こんなふうに色々誤解を生んでしまうのです!少し反省させてさしあげます!だから姉様はゆっくり子育て堪能してください!魔力適性が低くても、私の可愛い甥姪になるのですから、私が後ろ楯になります」
「リリアーナ様、ありがとうございます。この国にきてリリアーナ様くらいしかお友だちもいないから、夜の秘密のお茶会はすごく楽しみだったのですよ」
リリアーナは陛下と似てキラキラとした長い金髪を編み込んでおり可愛いお花かざりがいっそう輝いている。アイスブルーの瞳もキラキラと揺れる。私よりも身長が高く胸や腰つきもふっくらとしていて女性らしく可愛い姿である。
「逃亡先は私に準備させてください。万が一何かあれば、マリィ姉様の兄上も悲しまれるでしょうから」
そう言ってリリアーナは逃亡先の全てを整えてくれた。私自身もそんなに長く逃亡するとは思っていなかった。つれ戻される可能性が高かったからだが、王城生活をずっと続けるよりは良いと思っていた。
そんな話をしたのが2年前のことになる。
連れ戻される気配はなく、頻繁に転移陣を使用しやってくるリリアーナは陛下に怒っているようだが最近は諦め始めたようだ。
「ラムナ村での生活はどうですか?不都合はないですか姉様?」
「リリアーナ様のおかげで楽しくすごしておりますわ」
村の一角にたてられた小綺麗な建物に私は双子とメリッサと暮らしていた。あのときお腹にいたのは、私と兄様のように双子だった。しかも男女でアルティナ皇族の血ともいえるエメラルドグリーンの瞳が私を映してくれる。初めての母としての幸せだった。
初めての授乳も、初めての夜泣きも大変だったけれど幸せだった。
「あ、そういえばリリアーナ様の好きなクッキー、今焼き終わったばかりなんですよ」
私はベビーベッドに眠る双子を眺めながら、リリアーナに言うと見なくてもわかるくらいに喜んでいる雰囲気が伝わってくる。
松宮ルカとして生きた人生の記憶、悲しみも大きかったが懐しさを覚える日本での思い出が私を癒してくれた。
普通なら戸惑い苦しむのかもしれないが、私はマリアナとして家族に愛され育ってきたせいか、ルカの記憶を受け入れて過ごすことにした。そして思い出したとたんに日本食が恋しくて仕方なくなってしまった。今も昔も姑運はなかったが、やりはじめたら昔のように料理スキルはあったらしいのでメリッサとごはんづくりをはじめた。メリッサは今まで包丁など使ったことがない私が手際よく料理をしているのを不思議がっていたが、神の天啓があったので、というとすぐに納得してくれた。
この世界には本当に神様がいて、私はお会いしたことがないのだけれど神様の天啓で才能が開花する話は巷に溢れている。
まぁ、ルカの時に夫をつなぎとめたくて練習した料理の腕前がメリッサやリリアーナ様の役にたって良かったんだけどね。
「姉様のクッキーは大好物なのです。夫や娘にも好評なので、いつも姉様のところで食べている私はよく羨ましがられます」
「あら、マルトス将軍や娘さんも好きでしたらお土産に持って帰ってくださいね。今日は先に別のデザートも作っていたのでそちらを」
今日食べるように作っていたケーキの話をしようと思って、リリアーナのほうを見るといつの間にか部屋中が光に満ちていた。
よく見ると玄関近くにある魔方陣がきらきらと光っていた。誰かが城の私の部屋の魔方陣を使用してこちらにくるつもりなのだろう。
「誰か来ますわね」
私の部屋に入れるのは限られた人だけであり、魔方陣を使用できるだけの魔力量がないと発動しない仕組みになっているはずだ。
転位魔法独特の光と空間に干渉する感覚に目を閉じた。
城から来るということは、とうとうお迎えがきてしまったのだろうか。
「「かあさま!」」
響いた声は可愛らしい声が2つ。陛下の声ではなかった。
いつの間にか家の中にいたのは、私が自由に会うことのできない息子達であった。
「アレクシス、ユリウス・・・」
離れていても分かる。自分のお腹を痛めて産んだ子供たち、あの日以来二人には会っていなくてもちゃんとわかる。
「どうして・・・」
どうしてここにいるのか、と言い終わる前に二人は私に向かって飛び込んできた。
「母様ごめんなさい!僕が母様にあんなこと言ったからお城からいなくなっちゃったんですか?」
「母様に会いたくて、アレク兄様と協力して魔方陣を作動させたのです!!母様!」
泣きじゃくるアレクシスと、魔方陣を作動させたことで興奮しているユリウス。二人とも違う表情だけれど、私をつかんで離さない。
私も精神的に追い詰められていたとはいえ、泣きじゃくるアレクシスに申し訳ないことをしてしまったと後悔した。
あれから二年たっており、10歳になる王家の男子が声をあげて泣くというのは相当悩んでいた証拠だろう。
母が、弱いせいでこの子を苦しめてしまった。
「アレクシス、あなたのせいではありませんよ。母は弱かったのです、逃げてしまってごめんなさい」
私はしがみついてくるアレクシスとユリウスをぎゅっと抱き締める。私もなんだか泣きそうだ。
「母様、泣いてるのですか?」
ユリウスが私の頬に触れる。赤ちゃんのときは小さい手だったが今はもう8歳であり、幼子の手になっている。二人とも陛下に似た面差しでより一層愛しさを感じた。
「えぇ、二人に会えて・・・・嬉しくて泣いているのです」
いつの間にかリリアーナが側にいて一緒に4人で声をあげて泣いていた。
「伯父様が教えて下さいました」
アレクシスが言った一言に背筋が凍る思いがした。
「え・・・アレクシス、伯父様というのはまさか」
「母様のお兄様だと聞きました。母様の母国であるアルティナ皇国の皇太子殿下であると言われていて、母様ととてもよく似ていたのです。先週から父様に会いにきていたのでお会いすることができました」
無邪気な笑顔で告げるアレクシス、だが今の私には死刑宣告にも似た心持ちである。忘れてはいけないが兄は極度のシスコンである。何年経とうがシスコンは変わらず、毎日私の話を聞かされるとよくローズが文に書いてくる。ローズは現在兄の妃であり、よく話し相手になるらしい。公爵家であり、年の近いローズは昔から兄の婚約者となっていた。
「あ、アレクシス・・・それで兄様はアルティナ皇国へ無事に帰られたのでしょうか」
アレクシスは不思議そうな顔をしながら首を横に振った。
「父様とお話があるそうでしばらくいてくださるそうです。空き時間には僕達に魔法の授業をしてくれるのですよ」
これは帰ってこいという無言の圧力だと理解した。
そして陛下が兄様に喧嘩を売られている様子が目に浮かぶ。別れる際に言った「あんな国滅ぼしておけば良かった」の言葉に嘘はなく、滅ぼせるだけの力がある兄。核弾頭も真っ青である。
「リリアーナ様は、私の兄様が来ていること知ってらっしゃったのですか?」
後ろにいたリリアーナに聞くと苦い笑みを浮かべていた。
「あ、お伝えしようとは思ったのですよ。でもお伝えしたらきっと姉様は城へ帰ってしまわれるでしょう?兄がマリィ姉様に謝っていないのに、少しは兄も反省して息をするように姉様に優しくするすべを学ぶべきなのです」
「陛下が可哀相な気がしてきましたわ」
私はすぅっと息を吐く。アレクシスとユリウスは私を逃がさないようにしっかと抱きついたままである。
「母様、伯父様に教えてもらって僕と兄様で頑張ってここまで来たのです。褒めてくださいませ」
ユリウスは無邪気な笑みで私を見上げる。アレクシスも期待するように私を見た。
「そうですね、二人ともここまでこれるなんてとても頑張ったのですね。あの魔方陣は魔力が少ないとなかなか起動しないのですよ」
そう魔方陣は下手に作動しないように最低限陛下やリリアーナしか動かせないくらいの魔力量に設定してある。
二人が動かせたということは、兄様があの合体魔法の初動魔法を教えたのだろう。二人の魔力を合わせて魔方陣を作動させるやり方で、兄弟姉妹や親子など血筋が近いものでないと成功しないものである。
「本当はフィアナ姉様も来る予定だったのですが、姉様の魔力と僕達の魔力には差がありすぎて三人では作動しなかったのです」
ユリウスが少し暗い声で言った。顔には3人で一緒に来たかったと書いてある気がした。
「マリィ姉様、座ってお話しませんか?」
勢いで床に座り込んだまま子供たちと話していたのを思い出す。私は二人を離すと子供たちは立ちあがり私を気遣うように笑った。
「これは何ていう御菓子なんですか?」
「母様、美味しいですっ」
無邪気にケーキを頬張るユリウスとは対照的に、一口ずつ味わうアレクシス。
「ミスティアの果実で作ったケーキですよ。お庭に咲いてる花の果実なんだけどとても美味しいの。あとで一緒に摘みにいきましょうか」
ミスティアというのは前世でいうブルーベリーみたいな果実で、甘酸っぱくて美味しいのでお庭で育てている。ほんと田舎のスローライフである。
美味しそうに頬張る子どもたちと、ゆっくりと子どもたちを眺めつつ一緒にケーキを食べるリリアーナ様。
「行きたいですっ!母様と一緒に」
「アレク兄様、僕も一緒ですよ!」
2人ともなんだかんだ仲良しなようで何よりである。フィアナと会えなかったのは残念だが、こうなってしまっては会いに行かざるを得ないだろう。
「まぁま」
「まー」
いつの間にかお昼寝から起きて来てしまったのか、一歳半になる双子たちがベッドから下りてとてとてと歩いてくる。
「ジェレミー、ルーク」
名前を呼ぶと二人とも私の元へと駆け寄ってくる。アレクシスとユリウスを見ると少し驚いた表情で双子を見ていた。
双子を腕に抱くと、いいきかせるように話した。
「あなたたちのお兄様ですよ」
「にぃ!」
「にー」
私と兄に似た容姿の双子に、アレクシスもユリウスも壊れそうなものを触るように双子に触れた。
「母様、僕たちの弟と妹ですか?」
「そうですよアレクシス。陛下と私の子どもですが、あまり魔力がないので皇族にはなれないかもしれませんがあなたたちの弟妹です」
「僕もやっと兄様になれるんですか?!」
ユリウスは末っ子だったからか喜んでいるようだった。小さな双子はやはり魔力が弱かったが、私にはかわりない我が子である。
「母様に似ててずるいです」
ちょっとむくれた様子のアレクシスを抱き締める。本当に可哀想なことをしてしまったと思うから、ぎゅっと抱き締める。
「私は陛下の面差しに似たアレクシスのこと大好きですよ」
「母様、僕もぎゅっとしてください」
ユリウスも一緒にぎゅっとすると、後ろから双子たちも輪の中に入ってくる。
「マリィ姉様、ちょっとだけお城に帰りましょうか?」
黙っていたリリアーナがそう呟いた。
「えぇ、こんなに子どもたちに寂しい思いをさせてたなんて知らなかったから。陛下は私が戻っても面倒と思われるかもしれませんが」
もしかしたらもう側妃も愛妾もいるかもしれない。でも子どもたちのためにもお城に戻ったほうがいいのだろうと思うから。
双子が廃嫡されたとしても、そうなったらちゃんと良い環境で育てて一人立ちさせてあげよう。
「アレクシス、ユリウス···みんなでミスティアを摘んだらお城に帰りましょうか」
子どもたちの嬉しそうな顔に、周囲の環境が良くなくても、たとえいびられても子どもたちといられるだけでいいかと思った。
メリッサに双子のお世話を任せて、アレクシスとユリウスと3人でミスティアを摘みにお庭に出ていた。
リリアーナ様は一度城に帰ると言い残して先に帰ってしまった。それでもクッキーのお土産はちゃんと持って帰っていたので、マルトス将軍や娘さんとゆっくり食べてくれるんだろう。
ユリウスは摘んだそばからパクリと一口ミスティアを啄む。
「母様···酸っぱいです」
「まだそちらは熟してませんから、こちらのミスティアがいいですよ」
アレクシスはちゃんと熟したミスティアを食べられたようで、こちらをキラキラとした目で見つめてくる。採れたてのミスティアは甘くて美味しいのだ。
「美味しいですか?」
「はい!これは母様が育てているんですか?」
「えぇ、アレクシスが気に入ったなら王宮の庭にもミスティアを植えてしまいましょうか?」
微笑むと本当に楽しみな顔で喜ぶアレクシスの頭を優しく撫でた。
その瞬間突風が吹いて、目をつぶる。
時折吹く強い風は山から吹き上げる風で、自然の匂いがする。
「マリアナ」
瞼を開ける前に囁かれた名前。
私のことをそう呼ぶのは伴侶である彼だけであるが、声の響きがあまりにも近くて瞼を開けるのが怖い。
「「父上?!」」
子どもたちの驚いた声に、ゆっくりと目蓋を開ける。
「陛下···」
いつの間にか私の前にいた彼は、変わらない綺麗な顔で私を見つめる。感情の読めない瞳に映る私の姿は彼にどう見えているのだろうか。
「どうして、こちらに?」
彼が何も言わないから、私のほうが先に口をついてでてしまった。
きっと魔方陣でここまできたのだろうが、この2年なんの音沙汰もなかったのに子どもたちがきてしまったからだろうか。それとも王太后に言われてしかたなく子どもたちを連れ戻しにきたついでできたのだろうか。
どちらにしてもあまりいい返事でないのはわかりきっていた。
彼もその問いに口をつぐんだ。
「「父上!!」」
子どもたちがちょっと乱暴に呼ぶ。どうしたのだろうか、と子どもたちを振り返る間もなく私はいつの間にか陛下に抱かれていた。
「君を迎えにくることができなくて、すまなかった」
そう呟いた彼はより一層私を抱き締める腕に力をこめた。逃げることが出来なそうなその腕に、どうしてという疑問ばかりが頭をよぎる。
「父上、それじゃあ母様には伝わりませんわ!」
急にきこえた少女の声。
「フィアナ···」
彼の後ろに控えるように立っていたのは、私の娘。アレクシスたちと一緒に来れなかったといっていたが、陛下が連れてきてくださったのかしら。
「父上は言葉が足りなすぎます!ちゃんと好きだの愛しているだの言わないと女は不安になるんです!特に父上は表情も変わらないし、鈍いし尚更です!だから伯父様や叔母様にも小言を言われるんですよ!」
フィアナは私を見るとにこりと笑った。
「私は母様が大好きですから、早く父上そこをどいてください。愛を囁くこともできない父上は国の仕事だけしてればいいのです。母様は私が幸せにします」
「フィアナ、僕だって母様が大好きだから負けないよ!」
「え、僕も2人には負けないよ!母様のこと一番好きだもん」
令嬢らしくなくフィアナは陛下と私の間に割り込みをかけた。
「父上が一番母様を幸せに出来なそうですわ」
そう言ったフィアナはちょっとだけいたずらっ子のような顔をしていた。
「私が一番マリアナを愛しているんだ。子どもたちに負けるわけにはいかない」
「陛下?···え?」
急にスイッチが入ったかのように、陛下がこっちを向いて話し出した
「君が好きだから、何を話したらいいかわからないんだ。出会った時から君に一目惚れなのに、どう伝えたらいいのかわからない」
「え?」
私が呆けているといつの間にか、陛下の腕にお姫様だっこよろしく抱かれていた。そしてスタスタと魔方陣のほうへと歩きだす。
子どもたちを見やるとちょっと困り顔で、いつの間にか周りは護衛騎士たちが囲んでいた。
「陛下?」
いつの間にか魔方陣が発動して戻ってきたのは、王宮の陛下の寝室だった。
ぽすりと体が浮いてベッドに置かれた私の体はふかふかの布団の上に沈む。
「陛下は、私のことがお嫌いではないのですか?」
好かれていないと思っていた。
あんな風に露骨に目を逸らされ、話す言葉もほとんどないのは私のことが好きではないから仕方ないと言い聞かせてきた。
側妃や愛妾をもたれても平然としていられるように。
「私は君といたいから、母にも多少無理を言った自覚はある」
「王太后、様に」
「本来アレクシスのみの教育だったが、子どもたち全員を教育するように言ったのは私だ」
その言葉に驚きで言葉をなくした。
「君が子どもたちを可愛がっていたのはしっていた。だが、私はまず君と」
彼の口から紡がれる言葉。
「君とちゃんと夫婦になりたい」
恥ずかしげに耳まで真っ赤にする陛下の顔、初めてちゃんと目を見て話してくれた。
彼は私を見つめながらも、何度も目を逸らそうとする。そんなふうに見つめられては、今まで逸らされていた瞳の意味を知るしかなかった。
「君はもう私を嫌いかもしれないが、私は···」
しゅんと項垂れた陛下は大きな幼子のようで、泣きじゃくって飛び付いてきたアレクシスとだぶる。
「私も···陛下のこと一目惚れでしたのよ」
そう呟いて、私は初めて自分から彼の唇にキスをした。触れるだけの子どもみたいな口づけを交わす。ゆっくり彼から離れると、彼は驚いたようだったがそれでもキラリと目を輝かせて私を再度抱き締める。
「私にもう一度チャンスをくれないか、マリアナ」
囁かれた声。
初めてあった時から好きな声に耳を寄せた。
「えぇ、陛下···何度でも」
私は王宮から逃げたけれど、陛下のことを嫌ったわけでもなければ、好きだからこそ辛かったのだ。彼に愛されたいと願った私に、これ以上何を望めるのか。でもこれだけは譲れない願いが一つだけある。
「それでも私は子育てもしたいですし、もっと子どもも欲しいですわ」
もっと彼との子どもが欲しい。
前世では生んであげられなかった可愛い子どもたち。たくさん兄弟がいたほうが、賑やかだと思うのは昔は一人っ子で寂しい思いをしたからかもしれない。
マリアナに生まれて、ライアン兄様や多くの弟妹にかこまれて育ったから賑やかなほうが生来好きなのだろう。
私はもう一度、彼に口づける。
両腕を彼の背中に回すと、そのまま2人でベッドに沈みこんだ。
「だから、言ったろう?マリィは世界一美しい女性なんだから男の子にとってはある意味凶器の美しさで目を合わせるのも慣れないと大変なんだって」
「ライアン兄様、その割に陛下のこといじめてましたよね」
一通り落ち着いて、子どもたちも王宮に帰ってきた後、私は思う存分陛下と話し合った。
陛下は二人きりじゃないと愛を囁くのが難しいと言ったのでちゃんと毎日二人の時間をつくり、子どもたちと触れあう時間もつくると約束してくださった。
私がいない間何をしていたかというと、私の置いていった魔道人形相手に話す練習をしていて、それを子どもたちが生温かい目で見ていたと侍女のマルガリータが教えてくれた。
子どもたちには私をどれだけ愛しているか語るのに、当の本人に語れないのをちょっとおませなフィアナはむず痒く思っていたらしい。
それをいいことにアレクシスとユリウスは陛下を出し抜いて私に会いに来ようと、ライアン兄様に教えを乞うたと後から聞いた。
「だって、ねぇ可愛い可愛い私の妹姫をこんなふうに扱うなんて···本当に国を滅ぼさなかった私に感謝してほしいくらいだけどね」
ライアン兄様は近々帰るとのことで、陛下を追い出し私と二人きりでティータイム中だ。
「それにしてもあの双子は私たちに似てとっても今後が楽しみだよ」
「え?」
ニコリと笑った兄様の意味深な笑みに、それは双子の子どもたちの容姿が私たちににているからではないと察してしまった。
「マリィ、君は気づいていなかったのかい?あぁ、そうか君が無意識に施してしまったからあんな凝った作りになっていたんだね」
そう告げたライアン兄様はクスクスと笑う。
「魔力が高いと奪われると本能的に感じたんだね。双子にかけられたマリィの魔術はある意味呪いにちかい魔力封じの魔法だけれど、双子が成長すれば自ずと破られるものだから丁度いいかもしれないね」
「無意識に、私はきっと···」
どうしても子どもたちを自分で育てたかった私の反抗だったのだろう。
双子が廃嫡されることはなさそうだと、今は少し安堵していた。
「でも、二度目はないからね。マリィ、君がまたこんな辛い思いをするようなら私は強硬な手段をとるからね」
兄様とのお茶会は楽しいのだが、少々シスコンがすぎて恐くなるときがある。それでもそれが愛しいと感じるのは私も相当なブラコンなのだろう。
「きっと二度目はありませんわ。私も学びましたから」
肝心なことこそ言葉にしないと何も伝わらないのだと。
後は子どもたちと過ごす日々が穏やかで、優しいことを祈るだけだ。
「「母様ー!」」
部屋の外から手を振る子供たちは、太陽の下で笑っていた。
その後の話やR指定の入りそうな話は後日談でかければとおもいます。需要あるかな?笑