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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『僕とわたし』

 僕は本が好きだ。本を呼んでいる間、僕は何者にだって成れるから。

 剣と魔法の世界を歩く冒険者だったり、難事件に挑む探偵だったり、時には恋に胸を踊らせる女の子だったり。

 だから、本を読み終えた時は大きな喪失感に襲われる。


「……TRPGかぁ」


 ある時、ネットの動画でTROGのリプレイ動画を見た。

 前々からTRPGには興味があったからだ。物語を自分達で作っていく。プレイヤーは登場人物の一人として、全く違う自分を演じる。それが凄く魅力的に思えた。

 リプレイ動画はとても面白かった。ダイスの目に翻弄されながらも最高の結末を得ようと足掻き続ける姿に魅せられた。


「ボ、ボイセはちょっとなぁ……。えっと、テキセの募集は……」


 勇気を出してTRPGの募集に応募してみた。

 そして、実際にセッションを体験してみると僕にとって理想の世界が広がっていた。

 僕はその時だけはスーパーマンになれた。謎を解いて事件を解決する探偵になったり、剣と魔法を武器に戦う戦士になったり、ヤクザになったり、アイドルになったり、現実の自分とはかけ離れた存在になれた。


「えっと……、名前は……」


 TRPGをもっと楽しむ為にSNSを初めて見た。

 名前を入力する場面で少し悩む。SNSの世界はTRPGの世界に近い。ハンドルネームを用いて、現実とは異なる自分を演じる事が出来る。

 誰も現実の僕の事なんて知らないし、知ろうともしない。


「サクラ」


 丁度、テレビで桜の話題が出ていたからサクラと入力した。

 そして、最初の投稿文には「わたし」という一人称を使った。


「……わたしはサクラと言います。今日からSNSを始めて見ました! TRPGが大好きです!」


 投稿した後、少しドキドキした。

 男でもサクラという名前の人はいる。一人称がわたしの人もいる。

 だけど、僕は女の子としてサクラの名前を使った。女の子としてわたしという一人称を使った。

 僕はわたしになった。


「てっちゃんもSNSやってたんだ……」


 SNSの利用者は世界中にいる。そして、その中には幼馴染もいた。

 明るくて元気いっぱいな男の子だ。むかしは一緒に遊んでいた。だけど、いつの頃からか疎遠になってしまった。

 てっちゃんは僕のように自分を偽らずにSNSを使っている。

 自分の顔写真を使って、自分の名前を使って、現実と変わらないオレという一人称を使っている。

 過去の投稿を見てみる。少年野球に所属している彼は野球関係の投稿が多かった。


「……てっちゃん」


 僕はてっちゃんと話がしたかった。

 僕には興味を失ってしまったかも知れないけれど、わたしになら興味を持ってもらえるかもしれない。

 邪な考えだという事は分かっている。それでもてっちゃんと接点を持ちたかった。

 てっちゃんのアカウントをフォローしてみる。それからユニフォーム姿の写真と共に『レギュラーを勝ち取ったぜ!』という文章の投稿にコメントを書いてみる。


「はじめまして! わたしはサクラと言います。ユニフォーム姿がすっごくかっこいいですね!」


 書いた後、ドキドキした。どんな反応が返ってくるか気になって仕方がない。

 何度も何度も返信が来ないか確認した。その度に返信が来なくてガッカリした。

 だけど、三時間後に返信の通知が来た。


『ありがとう! レギュラーの選手だけが着れるんだぜ! これからガンガン活躍していくから応援してくれよ!』


 返事が貰えた。嬉しい。僕はその返信文をスクシャして大切に保存した。

 それから返信文に対する返信の言葉を考えた。

 もっと話したい。もっと近づきたい。だから、もっと彼に興味を持ってもらえる言葉を考えなければいけない。


「レギュラーなんて凄い! わたし、哲也くんの事を応援しています! がんばって下さい!」


 それからの僕はアカウントを作った目的も忘れててっちゃんとばかりやり取りをするようになった。

 口下手な僕だけど、SNSならじっくりと考えた文章で返事が出来る。

 少しずつてっちゃんとわたしは仲良くなる事が出来た。こっそりと試合を見に行って、彼の活躍を写真に収めてみた。

 その画像を彼に見せると『よく撮れてるじゃん! 折角なら声を掛けてくれれば良かったのに! また応援に来てくれよな! ありがとう、サクラ』と返してくれた。

 

「今日のピッチングも最高だったよ! 相手のバッターは凄い人だって聞いたけど、てっちゃんは本当に凄いね!」 


 少しずつくだけた口調で話せるようになって来た。

 

「てっちゃんは本当に素敵! 今日もかっこよかったよ!」

『ありがとう。サクラが応援してくれるおかげだ。この前のポカリもありがとな』


 こっそりポカリを買って、置き場所をSNSで使えておいた。

 無事に受け取ってもらえたみたいで良かった。


『なあ、次の試合なんだけど……』

「どうしたの?」

『……サクラに見に来て欲しい』

「う、うん! わたし、絶対応援に行くよ!」

『ありがとう。オレ、頑張るからさ。オレを見ててくれよな』

「うん!」


 僕は約束通りに試合を見に来た。てっちゃんに気付かれないようにこっそりと。

 その試合はシーズン最後の試合だった。相手はライバルチーム。てっちゃんは燃えている。


「がんばって、てっちゃん」


 パーカーのフードで顔を隠しながら小声で応援した。

 そして、てっちゃんは見事にチームを勝利へ導いた。

 

「すごい……。すごいよ、てっちゃん」


 僕は小さくたくさん拍手をした。

 そして、こっそり帰ろうとした。


「かっこよかったなぁ……」


 今日もSNSでてっちゃんと話そう。

 すごく楽しみだ。


「ハル!!」


 心臓が飛び出すかと思った。振り返るとてっちゃんがいた。


「……ぁ」


 咄嗟に声が出て来なかった。SNSのわたしは饒舌だけど、現実の僕は凄く口下手なんだ。


「ありがとう」

「え?」


 てっちゃんは笑った。その笑顔につい見惚れてしまった。

 いつの頃からか、サクラはてっちゃんの事を好きになっていた。女の子としてロールプレイしていたから、かっこいい男の子に対してそういうロールプレイになってしまったんだと思った。


「いつも応援に来てくれてたろ?」

「あっ、えっと、その……」


 すぐしどろもどろになって人を苛つかせてしまう。

 悪い癖だと分かっているのに治せない。

 これではてっちゃんに嫌われてしまう。折角笑顔を向けてもらえたのに、そんなの辛い。


「ハル、いつもすぐ帰っちゃうよな」

「ご、ごめんなさい……」

「SNSばっかりじゃなくて、現実でもっと話したかったんだぜ?」

「それはその……、え?」


 僕は目を丸くした。


「ハルがいつも応援してくれたから、オレは頑張れたよ」

「あえ? あの、ちょっと待って……」

「ん? どうした?」


 冷汗がダラダラ流れている。


「……知ってたの?」

「途中からな。だって、毎回試合を見に来てくれるのハルだけだぜ? 隅っこに座ってるけど、フィールドからだとよく見えるんだ。勝った時はいつも小さく拍手してくれたろ? それ、すっげぇ嬉しかった!」


 てっちゃんは笑顔で言った。

 僕はドキドキしている。だけど、どうしてドキドキしているのかわからなくなって来た。

 僕がサラクだとバレてしまったから? サクラがてっちゃんに恋をしているから? それとも……、


「僕、サクラなんだ」


 もしかしたら誤魔化せたのかも知れない。ただの偶然だと言い張れば証拠なんて無いのだから。

 だけど、僕は告白した。


「ああ、知ってる」

「……てっちゃん」


 ドキドキが強くなっていく。

 心臓が飛び出していってしまうのではないかと思うくらいだ。


「サクラはてっちゃんが好きなの」

「ああ、知ってる」


 てっちゃんは変わらない笑顔で言った。

 

「……サクラは僕なの」


 そうだ。サクラは僕なんだ。

 だから、サクラの心は僕の心なんだ。


「僕、てっちゃんが好きなの」

「……ハル」


 言ってから後悔した。僕は男で、てっちゃんも男だ。

 冷静に考えたら分かる事だけど、男から告白されてもてっちゃんは嬉しくない筈だ。

 気持ち悪がられる。嫌われる。もう一緒に話してもらえなくなる。

 言わなければ良かった。もう遅いと分かっていても考えずにいられなかった。


「オレ、サクラがハルだって知ってからずっと考えてた」


 てっちゃんは言った。


「最初はオレの勘違いだと思った。でも、ハルはずっと応援してくれた」

「……てっちゃん」

「それが嬉しかった。それに、サクラがオレに好意を寄せてくれてるって分かった時は舞い上がった」


 やめてほしい。あり得ない希望を抱かせないで欲しい。

 だけど、浅ましい僕はどうしても期待してしまった。


「たっぷり時間があったから、たっぷり悩んだ。だから……」


 いきなりてっちゃんに腕を掴まれた。

 そして、抱き寄せられた。


「嬉しいよ、ハル。オレ、すごく嬉しい。ハルがオレを好きになってくれた事が嬉しい」

 

 ドキドキが止まらない。涙が溢れてくる。

 

「……てっちゃん」


 僕は告白した。


「僕、てっちゃんが好き!」

「ああ、オレもだ!」

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