マザーテレサよりも優しい人
あいつはバカだ、映画の中のチャップリンよりアホだ!
*
俺の友達に世界一優しい奴がいる。親友じゃない、友達だ!
まぁ、幼なじみという奴なんだけれども…。
えっ?なぜ世界一かって?
そりゃ見りゃわかる。
今日は、あいつこと太陽の事を紹介していこう!
太陽はその名の通り、明るくて人の良さそうな顔をしている。
だから、よく人に道を聞かれたりする。
そして期待を裏切らず笑顔でこう返すのである。
「はいっ! じゃあ一緒に行きましょうか!」
そして、俺にこう来る
「ダン、俺道分からないから道教えて!」
「…」
俺が道分からなかったらどうすんだ!
と思って聞いた事があるが、
「携帯のGPSで行けるかな?」
だそうだ。
今俺らは大学生だから、こういう人達に付き合ってもなんとかなったが、
高校生の時は遅刻の嵐で、風邪なんか引いた事無いのに出席日数ギリギリだった。
ちなみに俺じゃ無いぞ太陽がだぞ?
俺は適当に地図作って、先に学校行くだけだったから。
前にこんな事があった、ちなみに一度ではない。
学校へ行く途中
「すみません…」
と声が掛けられる。
またいつものか、と思って振り返ると、前歯が欠けていてちょっと気味が悪いお婆さんだった。
しかしそんなこと、ものともせず、隣のバカは笑顔で答える。
「どうしたんですか?お婆さん?」
「ペ☆×ゴ〇で地震があって、そこの人達を助ける為に募金してくれませんか?」
残念ながら地名は聞き取れなかったが、そんな感じの事を言い、空ティッシュ箱を差し出してきた。
っていうか、あからさま怪しいが、隣のアホは…。
「それは大変ですね!これで少しでも足しにして下さい。」
と言い、諭吉さんを取り出す。
お婆さんはしわくちゃの目を見開いて
「ありがとうございます。」
と聞き取りにくい声で言い、俺らが離れた後もずっと両手を合わせて太陽の事を拝んでいた。
あのお婆さんは寄付なんかしないで、あのお金を自分の為に使うだろう。
そんなこと分かってる、それでも俺が何も言わなかったのはワケがある。
言っても聞かないというのもあるが、コイツは知っているのだ。
あのお婆さんがウソをついたのを。
そして、そういう人達はそういう嘘をつかなければならない理由がある。
と、いう事だそうだ。
まぁ俺には全然理解出来ないが、人の信念を強制するつもりは無いから黙っとくだけ。
「なぁ、お前昼代あげちゃって、今月飯どうすんの?」
「ま、まぁ、人間昼なんか食わなくても何とかなるでしょ!」
とか笑いながら言う。
まぁ
「アホ」
としか、言いようがない。
*
太陽は小中高の卒業文集で、ほとんど同じ事を書いている。
まぁ、文章は年々上手くなってきているが、テーマは同じだ。
「世界平和っ!」
…アホだと思うだろうがマジである。
しかも、どんどん理屈っぽくなってきていて、高校の作文なんかを見ると「コイツは本当に世界を平和に出来るんじゃないか?」と思えてくる。
太陽は優しい。
映画で誰かが死ぬとすぐに泣く、
そして、誰かが傷つけられるとメチャクチャ怒る。
何か行動するときは、おせっかいじゃなく、ちゃんとその人の事を考えて優しくする。
コイツの思考回路の中を見てみたら、90%以上「他人」が占めているだろう。
ということは、太陽は自分の事を考えていないのが分かるだろ?
アイツは人に頼らなくて、全て自分でやろうとする。
頼るのは俺のみ、しかも、人を助ける時限定。
わがままなんて聞いた事無い…。
…
いや、あったわ
*
うちの高校の時のクラスにはスゴく気持ち悪い奴がいた。
いつも同じ服を着てて、変な臭いをさせていて、喋っている所を見たことがない。
はっきり言って気持ち悪い、そいつの周りにはいつも1メートル位の空間が出来る。
昼休みに、みんなでトランプを始めようとしていた時、突然太陽が…。
「溝口君も入れない?」
と言い始めた。
一瞬誰だか分からなかったけど、太陽が指を差している方向を見て納得した。
そして、全員がいやな顔をした。
それを見て太陽は、悲しそうな顔をして
「じゃあ、今日は俺も入らない」
と言い放ち、どこかへ行ってしまった。
そこに居たみんなは罪悪感の塊になる。
太陽の優しさは分かるのだが、あの臭さの中ではトランプの楽しみも半減するだろう。
その日は、用事があるからと太陽は言い、一緒に帰らなかった。
…次の日
まだ、怒ってるかな?
とか、思いながら教室まで着くと、知らない人が居た、しかも溝口の席に…。
色白でサラサラの髪をしていて、男にこんな事言うのも変かもしれないけど、素直に綺麗だと思った。
近くを通ると少しいい匂いがした。
もう来ていた友達に確認する。
「あの子、誰だか分かる?」
「さぁ、わかんねぇけど可愛くね?」
「男じゃねーか…。」
「まぁまぁ、可愛い事はたしかだろ?」
「ま、まぁ」
「でも、あの子座ってんの、アレの席だろ? 俺行って来るわ!」
と言い、そいつが行こうとしている時、丁度太陽が入ってきて、その子に向かって、こう言った
「おはよう!溝口君!」
ビックリした…けど、俺しか気づいていない。
「なんだよ、太陽知り合いかよー! 俺にも紹介してよ溝口君!」
「えっ?毎日ここに座ってんじゃん」
「はぁ?なに言ってんの?ここにいつも座ってんのは、あのボサボサ頭の臭いやつだろ?」
「それ以上、溝口君の悪口言うと殴るよ?」
「…………………………………マジ?」
「マジ」
「…」
太陽はニコニコしてる
「そ、そうか、あの溝口だったか!そうかそうか、あの溝口がダイヤの原石だったとは気付かなかった!ハハハ…」
「…」
溝口は喋らない
「…ごめんっ!気付かなかったんだって、だってこんなに、き、キレイになってると思わなくて!」
「…」
「ほ、ほら笑おうぜ、な、な」
「…」
無理やり笑顔を作ろうとしてる
「ちっげぇよ!なんて言うのかな…うーん」
「…」
溝口は困っている
「よ、よし分かった、今から笑わしてやるからな!」
そうこうしてる間に太陽は俺の隣まで来ていた。
「なぁお前だろ?」
「何が?」
「…まぁいいや」
今、溝口は俺の友達によって腹を抱えて笑わされている
*
太陽のわがままというのはいつもこんな感じ、
アイツのわがままというのは、わがままなのに人のため、
それも、社会的立場が弱い人の為だけに使う。
これはもう、わがままでは無いのかもしれない。
こんな人の為ばっかり考えて、自分の利益になることを全くしない。
あいつにこんな事を言ったら
「人の幸せは俺の幸せっ!」
と言って笑うだろう。
俺はこんな優しい奴が、まぁ嫌いじゃない。
〜end〜






