第8話
振り返るとそこには………
うわぁ。天使だ!天使ちゃん。
クルクルフワフワの銀髪。透き通るような白さ。クリクリのお目々。ちっちゃくて形のいい鼻。ぷりっと赤いお口。
顔や服は少し砂で汚れているけど、可愛さが全く損なわれていない。4、5歳ぐらいかな?
やばぁ、可愛い。
心の中で、テンションが上がっていたが、次の言葉で、冷えた。
「止めは刺さないのか?」
何を言われたか分からなかった。
しかし、男の子は震えながらも、横たわる男を侮蔑の目で見ながら指し示した。
私はカチンとなる。
「あんた、いくつ?」
冷たい声が出た。
「8つだが。」
えっ?8歳?見えない。
うちの子より小さいじゃん。
ってのは置いといて。
「そう。殺したきゃ、自分でやれば?なんで、私が初めて会ったあんたの為に、人殺ししなきゃいけないわけ?」
「そいつは、人ではない。魔人だ。」
「いや、だから?やりたいんなら、自分でやれば?って言ってるの。魔人だから、何なの?私はそいつを殺す理由ないから。」
さっき殺しかけたのはスルーで。
意味分かんない。いくら、顔が可愛くても!
初対面+助けてくれた人に向かって命令みたいなしゃべり方。
ないな。
私がそのまま立ち去ろうとしたら、男の子が追いすがってきた。
「あっ。ごめ、ごめんなさい。行かないで。た、助けてください。」
さっきとしゃべり方違うやんけ。
まあ、さっきより良いけど。
困った事になった。
またもやチェックの呪いだと思う。
私がどれだけ子供に飢えているか。
それを踏まえた上で、助けを必要としている男の子を用意したのか。
もうさ、何でも。なぁんでも。チェックのせいなんだよ。
大事な事だから2回言った。
初めての異世界人との遭遇でドンピシャ、私的地雷。さすが、ハズしてきませんよね。
レイラは男の子を無視しながら、行動を始めた。ピクリとも動かず下半身を丸出しにしている男のズボンを脱がせる。やったぁ。こんなとこでズボンゲット出来るなんて。きったない男物だけど、水で何回か洗えば履けるよ。
体を探ったが、探していたお金的なものは男は持っていなかった。
近くに男の荷物があったので、それを全てもらった。
そして、すたすた歩き出す。
「ま、待って。さっきの事、謝ります。た、助けて頂いたのに、お礼も言わず、へ、変なことを言って申し訳ありませんでした。」
さっきの偉そうな態度はなりをひそめ、男の子はレイラに必死にまとわりつく。
「あのさぁ、どんな事情があるのか知らないけど、こんな砂漠のど真ん中で、君を助ける義理は全くないよね?私だって、結構必死で砂漠を抜けようとしているわけ。はっきりいって、君を助けることは、私にプラスにはならない。残念だけど。」
「待ってください。私は、いや、僕は僕の名前はロイバールド。助けて頂いたら、僕に出来る範囲でお礼をします。お願いします。助けてください。」
僕に出来る範囲という言葉が気にかかるが、レイラも初めから見捨てるつもりはなかった。確かに足手まといになるだろうし、何かの事情はありそうだが、子供って時点で助けることは決まっていた。
偉そうな態度にはムカついたが。
「誘拐?犯人はそいつだけ?」
「いや、この男はただの見張りです。僕を拐ったのは、ヒョルドという男です。魔人国で5番目に強いとこの男が言っていました。」
げっ。上から5番目って強そじゃね?
めっちゃ、ヤバイじゃん。
えっ。これ、助けたら追ってくるパターン?
えーっと。
レイラが引いたのがわかったのか、ロイバールドは、レイラのマントを握り、絶対に離さないぞっという風に握りしめた。
「お姉さん。お願いします。」
左手でマントを握りしめたまま、ロイバールドは右手を胸に当て、真剣な声でそう言った。
………………お、お姉さん!!!?
「し、仕方ないなぁ。話は後で聞くとして、とりあえず行くよ。その魔人が戻ってきたら大変だからね。」
レイラはマントのフードを深く被っており、ロイバールドにはレイラの顔がわからなかった。声で女性と判断しただけだ。年齢も分からないから、とりあえずお姉さんと呼んだだけなのだが、フードの下でレイラはニヤける口元を抑えられなかった。
かなり、チェックの“おばさん”発言がトラウマになっている。
さっさとママチャリのとこに行き、ロイバールドを後ろに乗せ、ベルトを締める。
「馬?いや、目眩ましがかかっている?」
後ろから、そんな言葉が聞こえたが、それは無視して、レイラは前方を見て自転車をこぎだした。今は何よりここを離れるのが先だ。
「黙って。口は閉じときなさい。スピード出すから、しっかり掴まっときなさいよ。」
「100」
レイラが呟くと、前方にキラキラ光る道が伸びた。そこに自転車のタイヤを乗せ、レイラは自転車をこぎだした。ママチャリが軽快に走り出した。徐々にスピードが上がる。スピードに乗れば自転車をこぐ必要はなくなる。
砂漠の上に氷の道。自転車が通り過ぎる摩擦で自転車が通ると氷の道が溶け出す。早いスピードに慣れてきたロイバールドが後ろを見ると、氷の欠片が砂漠を舞い、幻想的な景色になっていた。
「ねえ、もう少しスピード上げていい?」
しばらく走った後に、レイラの大きな声が前から聞こえた。スピードは出ているが、聖域のおかげで風の音は全くしない。だけど、集中するあまり、レイラの声はつい大きくなってしまった。
魔力が尽きる前に、砂漠を抜けてしまいたかった。さっきのオアシスに来るまでもレイラは氷道を出して危険ゾーンを越えてきた。その時は朝だったので、まだ夜の冷気が漂っていて水魔法に冷気を取り込むことが容易で氷道を作り出すのに魔力はあまり使わなかった。現在の時間は9時。あっという間に気温が上がり、魔力だけで作り出す氷道は夜中に作る氷道より感覚的に10倍は魔力を使っている気がする。このままのスピードだったら、砂漠を抜ける前に気絶寸前まで行きそうだ。
「はい。大丈夫です。あ、あの、お姉さんのお名前って何ですか?」
そういえば、まだ名前も言ってなかったかも。
「レイラだよ。」
「レイラさん。」
幼い子供にさんづけされるのはムズムズするけど、まいっか。
「君の名前は~ロイ………何だっけ?」
はい、そこぉ。これだからおば…んはとか言わない。横文字の名前を一発で覚えられないだけだから!
「ロイバールドです。でも、ロイ……いいですね!ロイって呼んで下さい。」
後ろからロイの弾んだ声が聞こえた。
最終的に、スピードは180キロまで上がり、レイラはもう見飽きた砂漠をやっとのことで抜けた。
砂漠を抜けると、背の高い岩場が広がっていた。レイラはふらふらになりながら、自転車から降りて、岩場の深い影に入り込む。
ロイバールドを見ると………
「寝てる。」
車でも出すことはないスピードの中、ロイバールドはぐっすり寝ていた。周りの安全をマップで確認し、聖域の範囲を狭めて360度結界を張る。聖域の中は快適な温度だ。少し涼しいぐらい。
レイラのレベルが上がるにつれ、レイラと連動しているらしいママチャリもレベルアップして色々な機能が使えるようになってきた。今では温度調整も出来る。レイラが温水と冷水の魔法を覚えてからは、更に聖域内の快適さが増した。それに聖域は、自分の魔力を使うわけではないのがとても助かる。
ママチャリの側にペットボトルにズボンの切れ端を巻いた自作枕を起き、横になれる準備をする。後ろ座席のベルトを外して抱き上げるが、ロイは起きる気配がない。どれだけ疲れていたのか。マントを最大限広げてペットボトル枕にマントの端を巻き付けてそこにロイバールドを寝かせる。
その横にレイラも自分の腕を枕にして、ゴロンっと横になった。
聖域の結界をいじって、回りの景色と溶け込ませて結界内が見えないようにし、更に光も遮断して薄暗くする。もうトカゲの皮カバーは必要ないのだ。
いやぁ。疲れた。枯渇寸前ってかんじ。
あのオアシスから2時間ちょっと。
こんなあっつい中、よく氷魔法使い続けれたわ。
マントをロイバールドにかけると、レイラはストンっと闇に落ちた。




