7.食材を求める
ごはんやお餅の調理が楽になった。
が、人間とは欲深いもので。
問題が一つ解決すると、また次の問題を探し出してしまうのが性なのだ。
ごはん問題の次に浮上するのはずばり、おかず問題。
ごはんがあるとお供となるおかずが欲しくなるのは日本人の宿命か。
てか、昨日だってその目的で出かけてたんだけどな。
モルエと遭遇したりして中断しただけで。
というわけで、さっそく石室の裏側……昨日モルエと遭遇したエリアへと足を向けた。
正直、食材が見つかる前に元の世界に戻れるなら、それはそれで全く問題ない。むしろその方がいい。
ただ、以前神さまと話した時、彼女(神さまだけど、一応見た目が幼女だったのでこう呼ぶことにする)は定期的に連絡をくれるようなことを言っていた。
つまり、逆に言うと『定期的に連絡をくれるくらいには、私はこの世界で過ごすことになる』……ということだ。
それは数日か、はたまた数週間か。
正確にはわからないけど、まだ次の連絡がない以上、そんなに短い期間ではない気がする。
そんなもしもの時に備えて、この世界を調査しておくことはけして損じゃないはずだ。
何もしないでずっと石室で待つってのも、ある意味苦行だしね。
せっかく時間を持て余してるんだ。ちょっとくらい冒険気分を味わうのも悪くない。
そんな感じのことを話したら、モルエはさも当たり前のように同行を申し出てくれた。
モルエ、なんていい子……!
「たしか、モルエは森にいたって言ってたよね?」
「はい。もう、大変でしたよ~。真っ暗だし、方向感覚も狂うし……抜けるのにだいぶ苦労しました……」
話しぶりからするに、モルエは森にトラウマを植え付けられたらしい。
ちょっと出かけるような手軽な場所じゃないんだな……。
「それに、夜の空にはあんな不気味なのが浮かんで……うぅ」
自分の肩を抱いて身震いするモルエ。
ほんと、この世界の夜空には何があるってんでしょうかねぇ……。
「そういえば、鳥の鳴き声を聞いた気も」
お、それは有益なことを聞いたぞ。
少なくとも、その森の方へ行けば鳥……=お肉の可能性が広がるわけだ。
俄然やる気とヨダレが出てきた!
そうと決まればガンガン行こうっ。
「それと、獣の唸り声も」
……よし、慎重に行こうかっ。
食料探しに出てこっちが食料になったら元も子もない。
途中に何があるかわからないので、念のため無限かばんを持っていくことにした。
護身になりそうな物なんてあったかな?
リストの中で、一応武具防具になりそうな物を装備してみた。
大きなお鍋のフタとセラミック包丁。
我ながら初期装備はなはだしいな……。
「ハルカはもう料理の準備をしてるのですか? 準備万端ですね」
「いやぁ……、お恥ずかしい」
……色んな意味でな!
素で聞かないでくれませんかね、モルエさん……。
「……あ、ハルカっ。何かいましたよ!」
石室を出発してどれくらいも経たないうちに、なんと初めての動物を発見した。
こんなに近場にいるとは。
「あれは……鳩?」
鳥が数羽、草原を歩いていた。
現代日本でも、駅のホームとか近所の公園でよく見かける姿……まさに鳩だ。
「鳩って、食べられるのか?」
素朴な疑問が湧いて出た。
たしか、日本だと鳥獣保護法とかなんとかで食べられなかったはず。テレビか何かで聞いたことがある。
まあでも、ここは日本じゃないしな。今までいた限りだと法なんてのもなさそうだし。
それに何より…………肉が食べたい!
そうと決まれば、捕獲しない手はない。
さっそく近くの鳩の背後にまわり、気づかれないように忍び足で近づいていく。
もう少し。
もう少しだ。
もう少しで捕まえられる……。
と思ったところで、鳩がこちらに気づいてしまった。
しまった……。少し功を焦りすぎたか……。
一瞬身構えた鳩は、目を見開いたかと思うと両足を目一杯伸ばした。
ビョーン、と。
それは私の背丈を軽く越えていった。
「えええっ!?」
足、長っ!
そのまま鳩?は、ダチョウ顔負けの走りで彼方へと逃げ去ってしまった。
「えええぇ……」
こちらとしては、逃した悔しさよりも突然の光景に開いた口が塞がらない。
「ああ、もう一息でしたね」
モルエはあの鳩に対してあまり驚いてはいないようだった。
「あれ……鳩だったよね? でも足がビョーンって……」
「ボクの世界だと足の長いモンスターは大勢いましたよ。ハルカさんの住む日本ではあまりいないんです?」
モンスターときたか。
やれやれ、これだから異世界は。
……とか言いつつ、実は心底震え上がってます。
「んん、と……、日本だと、鳩はもっと短足だった……。そもそもモンスターてのがいない」
「平和なところなんですね。日本って」
うん、まあ、同意しかできない……。
ファンタジー世界って大抵殺伐としてるもんな。
この世界の生態系も例外じゃないのかな……。
話を聞くと、モルエのいる世界こそ、よくアニメや小説で見かける剣や魔法の世界のようだった。
魔物もいれば魔王もいるらしい。
色んな属性の精霊や女神さまもいて、よく深夜徘徊しているらしい。
たまに間違えて民家や店に入ってきては箒やモップで追っ払われてるという。
……ううん、そのへんはちょっと思ってたのと違うなあ。
「なら、ここはボクのいた世界に近いのかもですね」
そう言うと、モルエは背負っていた鎌を手に取り私の前方に歩み出た。
お? モルエはやる気か?
見た目はいかにも普通の女の子だけど、鎌を持ったら雰囲気がガラリと変わるんだよな。
ほんと、頼もしいったらない。
「じゃあ、狩りはモルエにお任せしてもいい?」
私の声に振り返るモルエ。
その表情は少しばかりうろたえた感じだった。
「……え、でもボク、魂以外は刈ったことがないんですが……」
ズコッ。
「えっ、じゃあなんで自信ありげに前に出たの!」
「ちょっと肩が凝ってきたので、鎌をおろそうかなって……」
紛らわしいなおいっ!
そういえばこの子、私の腕をぶった切った時も私以上にビビってたっけ。
「それにこの鎌、浄化専用で。浄化以外に使ったのは、ハルカの腕が初めてなんです」
「それは名誉なこと……なのか?」
この世界での狩り生活は予想以上に前途多難かもしれないな……。




