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4.死神がいた


 拠点と決めた石室は、どうやら丘のほぼ頂上に位置するようだ。

 入口側には長い下り坂。行き着く先には小川が流れている。


 昨晩限りだと、小川までの道に生き物の気配はなかった。

 なので今日は裏手の方を探索してみることにする。


 そうして簡単な方針を決めて歩くこと数分。

 裏手側には道らしい道はなく、ただ草原が広がり、ところどころに石が転がるばかりだ。


 しばらく丘を下ったところで何かが視界に入った。


 ……いや、何か、というより……人? 女の子だ。

 フードがついた灰色のローブに身をくるみ、横たわっていた。


 肩口くらいまでの銀髪が風を受けてサラサラ揺れている。

 見た目的には中学生……十四、五歳くらいだろうか。

 芽衣より少し大きいくらいかな?


「はざま世界にも、人っているんだ」


 この世界で自分以外の人に会ったのは初めてだったから、正直ホッとした。

 でも、なぜこんなところで倒れているんだろう。


「……とりあえず、起こすか」


 少女の肩を揺すってみる。

 いつまでもこんなところで寝てたら風邪をひくかもしれない。

 そしてぶっちゃけ、話し相手が欲しい。


「おーい、大丈夫ー?」


 もぞもぞとローブがうごめく。

 顔色は悪くないし、どうやらただ寝てるだけのようだ。


「ん~……、もうちょっと……ねる……」


 ああ、わかるよ。

 気持ちよく寝てる時って、無理に起こされると余計に起きたくなくなるんだよね。

 でもそこは頑張って起きないと、その日のスケジュールがおおきく乱れる。


「ん……」


 果たして無理に起こすのはどうなのかと考え始めたところで、少女の目が開いた。

 のそりと上体を起こし、しばらくまどろんで、やがて私と目が合う。


「お、起きた?」


「あ……!」


 慌てたように、少女は飛び跳ねるように立ち上がった。そのままフードを深くかぶると、顔が完全に見えなくなる。


 ……ん?

 私がこっちに移転される前だったか。

 たしか、こんな姿の人を見た気がするぞ?


 いつのまにか自分の背丈よりも大きい鎌を持っている少女。刃の部分が日を反射して銀色に光っている。

 そうそう、そんな鎌も持ってたっけ。

 その姿はまるで…………あ。


 ローブに、大きい鎌といったら……。


「ご、ごほん……。わ、我は死神。そなたの魂を正しき方へ(いざな)うために来ました」


 少女はひとつ咳払いしたあと、気を取り直してそう言った。


 ……て、やっぱり! この子の正体は死神だったか!

 私が死んだ(?)から、魂を刈りに来たんだ!


 そういえば、神さまも死神がなんとか言ってた気がするけど、本当にそんなのがいるんだな。

 ……いや、のんきに考えてる場合じゃないな。

 もしかして、このままじゃ私……刈られる?


「ちょ、ちょっと待った死神さん。私は――」


 弁明を試みる。

 ……が、すでに遅かった。


「良い来世を――」


 少女が呟いたかと思うと、


 ――ザン。


 ……気づいたら、飛んでいた。


 私の右腕。肘から先が。


「ギ、ギャァァ――っ!?」


 そして叫んだ。


 いや、私じゃなくて、死神が叫んでいた。

 当の私は、突然起こった状況をぽかんとしながら眺めるばかりだ。


 そして痛みを感じる間もなく、残された肘の断面からにょきっ! と新しい腕が生えてきた!


「ぎゃーーーー!?」


 今度こそ叫んだのは私だった。


 腕が、生えた……!?


 ゾゥルッって……!

 こう……ゾゥルッって、生えた!


「ギャァァァ――!!」


 それを見てか、死神さんも一緒に叫んでいた。


「ぎゃあああ――!」

「ギャァァァ――!!」



 ◇



「な、なるほど。あなたは正確には死んでいない、と……」


「そういうことらしいです」


 お互いに落ち着いたあと、私は死神さんに事情を説明した。

 死神さんはわざわざフードを脱いで、時おりうんうんと頷きながら真剣に聞いてくれていた。

 話のわかる死神で安心だ。


「普通なら、刈った魂は淡く光って消えるんです。まさか、そのまま腕が飛ぶなんて思ってなかったから……とてもビックリしました」


 思わぬところで不死身を実感した私。

 でも、腕を飛ばされるのはもう勘弁してほしいな……。

 切られるのも痛いし、どこかの星人みたいににょきっと生えてくるのも精神衛生上よろしくない。


 死神さんいわく、現世で死んだ人の魂は、彼女たち死神によって正しい道へ導かれていくらしい。それが死神の役目だそうで。


「でも、事情も聞かずにいきなり斬りかかったのは弁解のしようもありません」


 再び頭を下げる死神。


「い、いやいや、もういいからさ。頭を上げて?」


 あんまり謝られても困る。

 今回は不問だ。

 お互いに不幸な事故だったってことで。


「でも、とんだ無駄足だったね。私なんかを追ってこんなところまで来て」


「う……、それなんですが……実は」


 どうやらこの死神さん。私の魂を刈りに現世に来た際、タイミング悪く今回の転移に巻き込まれたらしい。

 そして、私と一緒にこの世界に飛ばされてきた。


「気づいたら森の中にいて。夜通し歩いてやっと抜けたんです。でも体力も限界で、ここまで来て倒れてしまったみたいで」


「なんていうか……災難だったね」


 この世界には、森なんてのもあるんだ。

 転移する場所が悪かったら、私ももしかすると同じ目に遭ってたのか……。そう思うとちょっとビビる。


「……あ、待てよ」


 死神さんはふと、何かに思い至ったような素振りをした。


「もしかすると、帰れるかもしれない」


「えっ、そうなの?」


「はい。だってボク、あなたたちの世界にも転移術で来たんです。だったら帰りもそれで帰ればよかったんですよ」


 話しながら、昨日のうちに気づいてたらすぐ帰れたのに、と肩を落とした。

 この子……口調こそ丁寧だけど、ちょっと抜けてるところがあるのかもしれない。


 そしてさらには、今回もちょっとフラグっぽい。


「じゃあさっそく……。あ、一緒に帰ります?」


「いや、私は……今回は遠慮しとくよ」


 身体の修復がどうなってるのかまだわからないし。

 中途半端に帰って『復活したけどゾンビでした』なんてのは嫌だしなぁ。


「そうですか。じゃ、また。あなたが本当に死んだ時に会いましょう」


「う、うん……。よろしく」


 やべぇ。

 若くして死神予約しちまったよ……。

 てか、生き返ろうとしてる時に死んだ時の話してるっておかしな話だな。


 死神さんは瞑想するように目を閉じた。

 ……だが、しばらく経っても彼女が消えることはなかった。

 やがて閉じていた目も開いて、


「……無理だった」


「そ、そう。残念だね」


 正直、ちょっとそんな気はしてた。


「え……じゃあ、ボク、帰れない?」


 ……。

 そんなすがりつくような目で見られても困る。


「て、ちょ、泣かなくても……」


「な、泣いてません」


 死神さんは乱暴に目を擦ってそっぽを向いた。


「あの……、これから良い方法が思いつくかもしれないし、さ。元気出して?」


 下手に根拠のない希望を与えるのは残酷だろうか?


 いきなり知らないところに放り出されて、いつ帰れるかもわからない。

 いくら死神といえど心細いのは私と一緒だろう。


「あの……雨風しのげる場所があっちにあるんだけど」


 とりあえず、一度腰を落ち着けるためにも、私は死神を石室に案内することにした。





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