35.森を抜ける?
集落を出て、森を目指して歩く。
三人並んで歩くのは、なんだか冒険に出かけるパーティのような気分だ。
でも、目的はあくまで食料確保、そして泣沢女ちゃんの里帰りの付き添い。
もし禍とかの危ないのがいたら即逃げる。
以前蛇ちゃんに叩かれた時だって、そりゃあ痛かったもん。いくら死なないからって、もうあんな痛いのは勘弁だ。
ちなみに、いつも泣沢女の頭の上で丸まる白蛇ちゃんは、集落でお留守番。
以前はそれが遠因で禍に取り憑かれちゃったけど、今回はまかみさんや彼女の精霊がいるので安心だ。
「ところで、泣沢女ちゃんの井戸も森を越えた先にあるんだね」
「ですです。もう何十回と通ってるのですよ。森に入ったら、自分近道なども知ってるんで、任せてほしいのです」
「それは助かるよ!」
「ほっ……、もう森の中をさまようことは避けられそうですね」
などと話しているあいだに、森の入り口にたどり着いた。
ほんとあっという間だ。
「……けっこう大きい森なんだね」
想像以上に、緑色が鬱蒼と茂っていた。
入り口から見ても、あまり光が届かなさそうだ。
「なあに、なのです。道は分かりづらいのですが、コツを掴めばすぐあっち側へ出られるのですよ。半日もかからないのです」
こりゃあ、いよいよ泣沢女ちゃんがたくましく見えてきた。
地の利を持つこの小さな元神さまがいれば百人力だ。
「じゃあ、ついてきてくだせ」
いつもよりちょっと得意げな感じで歩く泣沢女ちゃんについて、森に入っていく。
最初こそ、木漏れ日のある涼しげな感じだったけど、みるみるうちに暗闇が濃くなり、深い森っていう形容が似合う雰囲気が出てきた。
でもまだ、空にはあまてらすさんが飛んでいるのが見えるし、光もなんとか届いてるようだ。
何本か細い獣道のようなところを突き進んでいく。
「ジャングルとまではいかないけど……なかなか怖いところだね」
泣沢女ちゃんの案内がないと、あっという間に迷子になりそうだ。
これは、モルエのトラウマも納得がいく。
「もうちょい先に開けた場所があるのです。あ、ここなのです! この先をやや左に……。ここは、何度森に入っても間違いやすいポイントなので要注意なのです」
「さすが、森を何度も踏破してる熟練さんだね」
細かなポイントを教えてもらいつつ、さらに道を進んでいく。
それからどれくらいの時間が経っただろう。
「……。……そろそろ、足が疲れてきたね」
「……ですね」
森にかすかに届いていたあまてらすさんの光も弱くなってきてる。
さらには、視界にちらちらと見える綿毛のようなものは、ロストだ。
「てことは……今は夕方頃か」
持参してきた時計を見てみると、6時間以上経っていた。
……そんなに歩いてたんだ。そりゃあ疲れるわ。
「少し休む? それとも、もうすぐしたら抜けられるのかな……。ねえ、泣沢女ちゃん?」
「……」
返事がない。
静かにこちらを向いた泣沢女ちゃんは、相変わらず涙を流している。
……が、よく見ると、目元じゃないところからも水らしきものが流れてるのがわかった。
しかも大量に、だ。
「……。……こんなことはあまり言いたくないんだけどさ」
嫌なことは言葉にすると本当になる……って、そんなこと言ってる人もいたよね?
今まさにそんな感じだ。
でも、今は一刻も早く真相を確かめたい所存だ。
「もしかして、泣沢女ちゃん……。道、間違えた……とか?」
途端に、泣沢女ちゃんの顔の水分がドバっと増した!
その勢いに反して、絞り出すようなか細い声で。
「……ご明答……なのですよ」
めでたく、嫌な予感が真実となった……。
「……どのへんで間違ったか、心当たりはある?」
「最初の広場での分かれ道……。あそこは左じゃなくて、右なのでした」
わりと序盤のミス……!
ほぼ最初から違う方に進んでたってことは、本来のルートから大きく逸れてる気がする。
「今思えば、これまで森を抜けてきたなかで、十回通って八回くらいはあそこで間違ってたのでした……」
「それけっこうな高確率だよ!?」
「め、面目ない……のです」
ほとんどうめきに近い声で、泣沢女ちゃんが項垂れる。
……いや、まあでも、間違えたのは仕方ない。私たちも泣沢女ちゃんに頼りっぱなしだったんだし。
「かまいません。間違えたのなら戻ればいいだけですよね?」
泣沢女ちゃんを励ますように、モルエはいつもよりも明るめな声を出した。
「うん、モルエの言う通り! 別に時間制限もないんだし、焦らずに歩こうっ」
「は、はいなのです。とりあえず、広場まで。今度は間違えないように気をつけるのです」
……とは言ったものの。
「今日はこの辺にして、休もうか」
「ですね……」
「なのです……」
数分で三人とも足が限界に来たので、途中でキャンプを張ることにしました。
うん。焦ることはないさ……。