30.元神さまたちと試食会
まかみさんの家から場所を移して。
集落の中でも広い場所へ、私たちは来ていた。
以前にバーベキューをしてもらったところだ。
そこに、集落の面々が集合していた。
……というか、私が集合するようにお願いした。
「ハルカさん、お餅って名前からして、あのもちっとしたお米を使うんですよね? 一体どんなものなんですか?」
「お餅はおいしいです」
あの、モルエ……?
私もその感想には同意なんだけど、それだけだと説明にはなってないからね……?
「お餅は、塩味と相性はいいのですかね?」
集合した元神さまの中から、泣沢女ちゃんが手を上げて言った。
泣沢女ちゃんはずっと泣いてるもんね……。常にその舌で塩味を味わってるんだ……。
「塩の濃度にもよるとは思うけどね、相性はいいと思うよ」
「それを聞いて安心したのですよ」
「焼いても大丈夫かいのぅ?」
続けて、少しみんなから離れたところのヒノ長老から。
「焼き餅っていうお餅が流行るくらいですから。むしろ楽しめると思います!」
「ほうほう、それは今から楽しみじゃ!」
あと「喉をつまらせないように」と付け足そうとしたけど、そういえば長老は喉から下がないので関係ないな。
……ところで、長老が食べたものって、最終的にどこへ行き着くんだろう?
他にも、色んな質問が投げかけられた。
「根っこからは吸えますか?」
「その経験がないんでわからないですけど、できれば口から食べてもらいたいです」
万が一根詰まりしたら大変だ。
「木材と木材の接着に利用できるかい?」
「そういう目的で利用することもないとは言えないですけど、今回のは食べ物なのでちゃんと食べてくださいね?」
ボンドとか糊じゃないんだからさ……。
……など。
ほんと色々だ。
良く言えば、お餅への興味を勝ち取ることに成功。
悪く言えば……収拾がつかねぇ……。
「えっと……。まかみさんの質問の答えにもなるんだけど……、みなさんに集合してもらったのは、ここでお餅を実際に見て、食べてもらいたいからです!」
集落の元神さまたちにとっては、お餅は全く未知の食べ物。
言葉で説明するのもいいんだけど、やっぱり実際に見て、食べてもらうのが手っ取り早いよね。
……てことで、ここはひとつ、私がお餅を焼いて元神さまたちに振る舞うことにしたのだ。
「お餅、出てこいっ」
さっそく、お餅を取り寄せる。今回はどどんと数十個だ。
続いて、無限かばんからトースターを取り出し、お餅を入るだけ網にのせる。
これで準備完了。
あとは勝手にトースターが膨らませてくれる。
「おお、膨らんだ!」「熱するとこんな風になるですねぇ!」
みなさん、お餅の動きに驚いている。
モルエとまかみさんにも手伝ってもらい、焼けた順に集落のみんなへお餅を配っていく。
熱いうちに召し上がってもらいたいから、できるだけ手早く。
でもヤケドしないようにね。
そうして、お餅が行き渡ったところで、
「ではみなさん。召し上がってください! 少しずつ噛みちぎって食べてくださいね」
「「いただきまーす!!」」
合図とともに、元神さまたちがお餅に口をつける。
「おお~! これは、のびますね……!」
口でお餅を引っ張りながら、まかみさんが感嘆の声をあげた。
それに続いて、他の元神さまたちからも声があがる。
「のびるなぁ」「のびるのです」「のびるのぉ~!」「のびますじゃ」「やっぱり、のびますね」「のびるでんがな」
はい、のびます。
……あれ、最後の方、あんな方言の元神さまいたっけ?
ともあれ、お餅がのびることに一番驚いた、というのがみなさん共通の感想のようだ。
「新しくて、そしておいしいですね~。これならきっと、新しく来られる方々も喜んでくれそうですよ~」
「よかった。好評でホッとしましたよ」
まかみさんも手応えを見出してくれたのか、満足そうに頷いてくれた。
試食を終えた元神さまたちも「ごちそうさま~」「おいしかったよ~」「また食べさせてね」と、頬を緩めながらそれぞれの場所に戻っていかれた。
この場所に、私とモルエ、それにまかみさんが残る。
「じゃあ、おもてなし用のお茶菓子はこのお餅で決まりですね!」
「あ、ちょっと待ってまかみさん。大事なことを忘れてますよ」
今、みんなに食べてもらったのは、私が取り寄せたお餅。
そして今回、テーマとして掲げていたのは……『集落感』だ。
このままだと、残念ながら集落感は全くない。
「なのでこれから、カカシさんたちが作ったお米を使って、お餅を自作しましょう! それと、小豆も使ってあんこ餅にします!」
「おお! それが、さきほどおっしゃっていた「あんこ餅ロード」の全貌なんですね!」
「あんこ餅……! すごく幸せそうな響き……!」
あんこ餅ロード……。そこまで大げさなものじゃないとは思うんだけど……んんまあ、そうなのか?
モルエも過剰に反応してるし。こういうところ、ほんと女の子だよね。
でも、こんなに期待を持たせちゃったんだから、私も本格的に気合いを入れないとな。




