29.お茶菓子をつくろう!
「……えっと。日本だと、お客さんをおもてなしする時にお茶やコーヒーと一緒に少しのお菓子を出したりするんだ。和菓子とか、クッキーとか」
「それは素敵ですね。お茶とクッキー……素敵です」
「これぞ、人間さまのおもてなし文化……!」
どうやら二人は「お茶菓子」という名前自体に馴染みがないらしく。
なので今、私が簡単に説明しているところです。
モルエとまかみさん、それぞれポイントは違うけど、二人ともお茶菓子について好印象を抱いたようだ。
てわけで、お茶菓子の提案は即採用された。
「問題は、どんなものを出すかですよね」
「さっき言ったクッキーなんかは、お取寄せスキルですぐに出せるけどね」
出して、振る舞う。
とっても楽な方法だ。
理想的といっていい。
「クッキーは嗜好にして至高ですね」
モルエも静かに猛賛成してくれている。
「クッキーの甘みもたしかに捨てがたいんですけど……、できれば、この集落らしさを出していきたいんですよねぇ」
「たしかに、クッキーだと元神さまの集落らしさは全くないよね……」
クッキーも楽なんだけどなぁ。
なら、煎餅にしてみる? ……と口から出かけたけど、まかみさん的にはそういうことじゃないんだよね、きっと。
「集落らしさがあって、お茶に合うお菓子……」
となれば……やっぱり「和菓子」だろうか。
「この集落ならではの食材といえば、五穀ですよね」
そう言いながらモルエは、窓の外から見えるカカシさんたちを眺める。
今日も田んぼで生産に勤しむカカシさん。
五穀で、お菓子に使われるといえば、「米」とか「豆」あたりかな。
ふと、ポン菓子みたいなのを連想したけど、あいにく作り方がさっぱりわからない。
イメージはあっても、作れないことには仕方ないからね。
……逆に、五穀で私が作れるとすれば、だ。
「そういえば、カカシさんたちが作れるお米って、一種類じゃないんですよね?」
「え? ええ……おそらく、いろんな品種があるかと思います。たまに、少しもっちりしたお米を頂いたこともありますし……」
「それっ!! それだっ!!」
「わあぁっ!?」
私の叫びに、まかみさんが仰け反った。
ちょっと興奮しちゃってごめんなさい。でも、もしそれが確かなら、この計画はいい方向へ進みそうだぞ。
私は一旦家の外に出て、近くの田んぼに向かった。
もちろん、カカシさんに詳しい話をきくためだ。
――そして数分後。
「……あ、おかえりなさい。ハルカ」
「ただいま。急に慌ただしくしてごめんなさい、まかみさん」
「いえ。それはいいんですけど……情報は手に入りましたか?」
「はい、バッチリです」
二人は座りながらこちらを見つめる。
そんな二人に、私は帰ってきてすぐの状態のまま提案した。
「お餅を作ろう! そしてあわよくば、あんこ餅にしよう!」
私の提案を聞いた二人、その頭上に、ハテナマークが浮かんでいるのが見える。
それもしかたないと思う。だって、我ながらいきなり過ぎるしね。
「カカシさんからも聞いたんだけど、ここには「もち米」があるんだって。それと、豆……小豆だね。その二つがあれば、「あんこ餅」っていう和菓子が作れるんだ。……どうかな?」
なので、もう少し踏み込んで伝えてみる。
餅の材料になる「もち米」。
あんこの材料になる「小豆」
それに元神さまたちのお力添えがあれば、きっとできるはず。
取り寄せる必要があるのは、まずは砂糖かな。
あと、それ用の調理道具は、おいおいリストから選んでおこう。
両方ともある程度の練習は必要だけど、幸い、小豆からあんこを作った経験はある。
なのでそんなに苦労はしない、と思うんだけど……。
すぐ反応を返してくれたのはモルエだった。
「お餅……以前一度頂きましたけど、あれもクッキーとは違った魅力がありました。それを自分たちで作れるなら、素敵ですね」
「でしょ? それに集落ならではの素材だし、条件は揃ってると思うんだ」
「そのお餅とやら、一度食べてみたいですねぇ」
そうだねぇ……。
企画を通すなら、まずは具体性を積み上げていくことが大事だ。
……って、いつしか、大学の先生がそんなことを言ってたような言ってなかったような気もする。
「じゃあ、一度、集落のみなさんにお餅なるものを知ってもらいましょうか」




