2.欲しいものは神さまから取り寄せましょう
『何から話しましょうかね。……えっと、まず、悠さんはそちらの世界では不老不死の身体です。今の悠さんは魂だけの状態で、身体はわたしの力で具現化しているだけですから』
なんと、不死身!
いきなりすごいのがきた!
『ただ、魂自体は消耗しますから。食事や睡眠、適度な運動は今まで通り行ってくださいね』
なんか生活習慣の指導を受けてるみたいだな……。
それはともかく、身体への衝撃などでは今の私は死なない。
けど、内の要因……空腹や睡眠不足だと、魂に直接負担がかかってくる。
最悪は魂が消えることもありうる……ということらしい。
『そして次に、スキルに関してですが』
おっ、きたきた。
スキルなんてワードを聞くと知らずワクワクするな。
なんかこう、少年心がくすぐられるっていうか。私女だけど、こまけーこたぁいいんだよ。
『悠さんのスキルは、ずばり【お取寄せ】です』
――お取寄せ。
ネット通販などを利用していてもたまに見かける言葉だ。
あと、店の商品が売り切れだった場合に、店員さんが「お取寄せになりますが……」などと言ってるのを聞いたことがある。
『そのスキルを使うと、こちらの世界から物品をお取寄せすることができます』
「そのまんまだ!」
……いやでも、意外と便利なスキルなのかもしれないぞ?
使い方によっては、どんな凄いものでも……。
「それって、どんなものでも取り寄せ可能なんですか?」
『ええ。なんでもござれですよ。………………神社の敷地内にあるもの限定で』
「なんか最後にかなり絞られた!」
範囲狭っ!
『あと、いくつか注意点もあるんですよ』
そのうえ、まだリスクまであるのか……。
『まず……ナマモノ類ですねぇ。果物やお野菜など、加工されていないものはお取寄せできないんです。例えば、加工されたパックごはんや鏡餅はオッケーですが、桃やおネギなどは無理……みたいに』
そういえば、ついさっきパックごはんが出てきたな。
これもスキルの効果だったのか。
『そして、お肉も『動物愛護神団体』から厳しく制せられていて、全面的に送れません。ナマモノ関係はいろいろと世界間の問題がありまして……。申し訳ないのですが、それらは現地調達でお願いしますね』
……何その愛護団体っぽいの。
神さまの側もいろんな縛りがあるんだなぁ。
……でも、それだと、取り寄せられる物ってほとんど何もないんじゃ?
神社にあるもの…………狛犬? ……賽銭箱?
要る気配がない。
『いえいえ、悠さん。神社には意外にもいろいろあるんですよ? ほら、社務所にはお台所も、お布団もありますし。調理器具や調味料なども少なからず。それに、神職さんたちも各々で好きなお菓子などを持ち寄ったりしますしね』
そうか、神社敷地内にはそういう、関係者の人たちがしばらく過ごせる場所もあるのか。
肉類や野菜果物がダメなのはかなり痛いけど、何もないよりはマシか。
『あと一つ、これも注意点なんですが……。加工品でもあまり大きいもの……悠さんの身体より大きいものは、できるだけお取寄せを控えてほしいんです。例えば、神社丸ごとだとか、鳥居だとか……』
また少しややこしい話がきたな……。
「それは何故です?」
まぁ、神社や鳥居なんて取り寄せる予定はないけど。
『このスキルですが、わたしがイメージしたものを、悠さんの身体と魂の繋がりを利用して送るんですよ。それを、悠さんが念じることでそちらで具現化される……』
「ほうほう」
『なので、悠さん本来の容量……つまりは身体の大きさや重さですね。それを大幅に超えるものを取り寄せるとなると、悠さん自身に負担がかかってしまうんです。現世に戻ったあとの悠さんにも影響を及ぼす恐れがあるんですよ』
一度や二度だとそんなに影響はないんですけどね、と神さま。
……なんだか、ややこしくなってきたな。
「えっと……、例えば、何度も大きいものを取り寄せたらどうなるんです?」
『ほんの些細なことなのですが……、若いうちに禿げたりとか』
禿げ……。
それは男にとって永遠のテーマ。
……私は女なんだけど、一応。
『あと、やたらこむら返りになったり、逆まつげになったりとか』
「なんか地味に嫌なことばっかりだな!」
うん。【お取寄せスキル】の乱用はなるべく控えればいいんだな!
何でもそうだ。ほどほどが一番!
むざむざリスキーな道を選ぶことはないのだ。
『もちろん、身体と同等、それよりも小さいものなら影響もないので、気にしなくても大丈夫ですよ』
「なるほど、わかりました」
『えっと、あとは……。あ、そうそう。悠さんがそちらで過ごすうえでの便利アイテムのご紹介です』
便利アイテム? というか、どこか通販とかの宣伝くさいセリフだな……。
さっそくどうぞ! と神さまが元気よく言った途端、目の前が淡く光る。
そして目の前に現れたのは、鞄。
A4のノートぐらいならすっぽり収まりそうなサイズのショルダーバッグだった。
「おお……」
すごい。
神さまとの会話からずっとそうなんだが、こういうのを見ると、なんか異世界に来たって気がしてくる。
『それは【無限かばん】といって、なんでも仕舞えちゃう便利アイテムです。腐りそうな物からお水、鳥居なんかもすっぽり収納! ついでに品質保持もバッチリです!』
「まさにチート……!」
何度も言うけど、鳥居は取り寄せないけどな!
「でも、すごいなぁ。どういう仕組みなんです?」
『詳しくは秘密ですけど……まぁ、神隠しの応用みたいなものです』
なるほど、全然わからん。
つまりは某有名アニメの白いポケット的なもの……?
『さて、と。今回はそんなところですね。お取寄せリストや注意点なんかは、悠さんの"すまほ"に送っておきますので、困ったら見直してみてください』
神さまの力とスマホ。なんだかハイブリッドな感じだな。
とりあえず、死なない身体でお取寄せスキルを駆使しながら、今後しばらく暮らしていくことになるのか。
『ではでは。また定期的にご連絡差し上げますね』
「よ、よろしくお願いします」
通話を終えて、神さまの説明を反芻する。
いろいろと目新しいことだらけで軽く混乱気味だ。
でも、同時にワクワクしてたりもする。
こんな不思議な体験は滅多にないんだしね。
いっそのこと、しばらくスローライフならぬスロー自堕落ライフを目指して楽しんでしまおう。
「あ、そうだ。特性、スキルとくれば……」
異世界といえば、やってみたかったことがあるんだよね。
立ち上がり、やや格好をつけて右手を前にかざす。
「ステータス、オープン!」
そう叫ぶと、目の前にふわりと淡い光が溢れ出した。
そうそう。これだよこれ。
自分のステータスを浮かび上がらせる言葉だ。
画面に表示された数値などで、自分の今のレベルや強さがわかる。
さてさて、私のレベルはどれくらいだろうか。
そして、光が収まると同時に、
――ドサッ。
オーブントースターがすぐ前の地面に落ちた。
……いや、オーブンじゃねーから。