24.神さまから定期連絡がきた(禍について編)
『禍っていうのは、いわゆる負の感情の集合体なんですよ』
神さまはこう切り出した。
さすがというか、やっぱり現役神さま。禍について色々と知っているようだ。
『人や動物の魂と同じで、現世で生まれた負の感情がはざま世界へ流れ込んでくるんですよ』
「負の感情ですか」
怒りや憎しみ、あと悲しさ、寂しさ、とか?
『ええ。その集合体が禍っていわれるんです。それが時折、ロストや動物たちが抱える負の部分とシンクロしてしまって、融合してしまうことがたまにあるんですよ』
厄介だな。
心に悪魔が棲みつく的なイメージが近いのかな。
「あの蛇ちゃんにも負の部分があったってことですか?」
『泣沢女さんが遭遇したケースだと、おそらくその蛇ちゃんは不安や寂しさを抱えていたとなると自然ですね』
ああ、なるほど。
さっきも泣沢女ちゃん、つい涙貯めに熱中してしまったって言ってたっけ。
その間、蛇ちゃんが孤独な気持ちになって、その隙に禍が入ってきたのだとすると納得がいく。
「……うう、反省なのです」
後ろで聞いていた泣沢女ちゃんがうなだれていた。
「友だちから預かった大切なペット、しっかり面倒見てあげないとね」
「はい。身に沁みましたのですよ。ごめんなのですよ、白蛇ちゃん」
泣沢女ちゃんはまだ眠っている蛇の頭を撫でる。
この様子だと、今後は蛇ちゃんが寂しくなることは減るかな?
「で、問題の禍なんですけど、今後出会ったらどうしたらいいでしょうかね?」
『そうですねぇ。対処としては、逃げるか浄化するかになりますね』
「さっきのとおり、今回はモルエのおかげで何とかできたんですけど……」
今後もし、再び似たようなのが現れたら……考えたくないけど、さらにおっかない魔物みたいなのが出てきたら……さすがにモルエだけに頼るのはいけないと思う。
モルエは人一倍怖がりなのに、生まれ持っての真面目さから絶対に立ち向かっちゃうから、余計にだ。
『悠さんも浄化はできますよ』
「え?」
なんだって……?
『今の悠さんはわたしの力で具現化した状態ですので、基本的に何でもできるんです』
神さまが言い直してくれた。
チートかよ……。って、チートなのか。
『無から有を生み出すのは、さすがに神規約があって駄目なんですけどね……。そのためのお取寄せスキルです』
「至れり尽くせりでありがたいです」
あのスキルも、神さまなりの苦肉の策だったんだ。
そういう事情を聞くと、神さまも色々考えてくれてるんだなって思う。
「ところで、私はどうすれば浄化できるんです?」
『そのままで念じてもオッケーですけど……そうですね。それなりの道具を持っていた方が効果的かもしれませんね。見栄えもいいですし』
「いや、見栄えなんて何でもいいんだけどね……」
私のツッコみお構いなしに、神さまは『ええっと、たしかですねぇ』と何やら向こうでゴソゴソしだした。
『あ、これこれ。浄化といえば、お祓い。お祓いといえば、やっぱりこれですよね』
途端、私の空いていた左手あたりがキラリと光ったと思うと、その手には棒らしきものが握られていた。
「これは……まさか」
『大麻ですね。神職の定番商売道具です』
商売道具て……。身も蓋もないな。
『とは言っても、使う方の心次第では強力な浄化能力を発揮するんですよ。今の悠さんならそりゃもう完璧です!』
神さまが話すのを耳にしながら大麻をわっさわっさと振ってみる。
白い和紙が擦れていい音を奏でるけど、それ以外にとくに変わったことはなかった。
「もし浄化しないといけない場面にあったら、毎回これを振るんですね」
ちょっと絵面的に気になるところもあるけど、そんなこと言ってる場合じゃないのか。
そこは目をつぶるしかないな。
『悠さん自身に禍を寄せ付けない力が多少あるので、禍に出会うケースは少ないですけどね。今回のこともありますし、用心として』
「わかりました。色々とありがとうございます」
禍っていう厄介な存在を知ったけど、こうして対策を教えてもらうのとそうじゃないのではとても差がある。
現実でも、いきなりネット回線でトラブったりどこかで財布を落としたりする時はパニックになりそうになるけど、その時の対応対策を知ってると次の行動が変わってくる。
それと似たような感じだ。
実際に遭遇する場面でなくても、普通に生活するうえでも心持ちが全然違ってくるよね。
そうとなれば、私もちょっと大麻を振る練習でもしてみるかな。
モルエの鎌に比べたらちょっと格好がつかないかもだけど、身振りでカバーできるかもしれない。
プロの神職さんだって、お祓いの時は格好よく見えるしね。
『あ、あと袴と烏帽子もお取寄せできますので、よければどうぞ。効力はないですけど、それを着て大麻を振ると一層神職気分ですよ!』
「いやぁ、そのへんはおいおい……」
さすがに完全コスプレは勘弁です……。




