23.再生?の元神 泣沢女ちゃん
場所を変えて、石室前まで戻ってきた。
涙で床を濡らすといけないと、泣沢女ちゃんは草の生えた場所へ陣取っている。
「ええと、どっから話しましょうかね」
「まずは、あなたのことから教えてくれない?」
名前とか元神さまだとかはわかったんだけど、主になぜずっと泣いてるのかを知りたい。
だって、どんな状況でも一貫して泣き続けるって明らかに不思議だもの。
「ですね。では改めて……自分は泣沢女。水と再生を司る元神なのです。……そう言うと聞こえはいいのですが、誰も何も再生させたことはねーですし、水も操れねーのです」
「そ、そうなんだ」
ちょっと残念系の元神さまなようだ。
「さっきもちょいと言ったですが、普段は山の麓の井戸で日々涙を貯めながら暮らしてました」
「涙を……」
なんて悲しい日課だよ……。
「少しずつ涙が貯まって水かさが増えるのは、なかなか乙なもんですよ。見てて全く飽きないのです」
まあ本人が楽しくやってるならいいのか。
この子はコツコツ作業をするのが得意なタイプらしい。
そのまま話を聞いていると、泣沢女ちゃんのことが少しわかってきた。
白い装束をまとい、頭巾で目元を隠し、常に泣いている元神さま。
泣いているのは生まれてからずっとそうなのだそうで。別に悲しいやら寂しいというわけではないみたいだ。
「人間さんはたまに泣きたい気持ちになるといいますが、自分は常に泣いてるのでその気分はわからずじまいなのですよねぇ」
それははたして、いいことなのかどうなのか。
次に、今彼女の頭上で眠っている白蛇ちゃんについて。
さきほども聞いたように、この子は泣沢女ちゃんの友だちが旅行に出かける時、まだ幼いこの子を泣沢女ちゃんにお世話を頼んでおいていったそうだ。
でも、泣沢女ちゃんはつい涙貯めに熱中してしまい目を離してしまった。
ちょうどその隙にどこからか禍が現れ、そのまま白蛇ちゃんに憑依したのだという。
「いろいろとタイミングが重なっちゃったんだね……」
「自分が預かったことですし、責任は自分自身にあるのです。だから仕方ねーところなのですよ」
見た目以上に大人な子のようだ。
……ていうか、元神さまなんだから当たり前か。下手すると私よりもはるかに年上かもしれないしね。
それにしても、禍って恐ろしいんだな。
こんな無垢そうな白蛇ちゃんを魔物に変えちゃうんだ。
「なら、当面の問題は住むところだね。あなたさえよければここで一緒にいてもらっても全然歓迎なんだけど……」
――ブブブブブ……。
と、いつものように突然スマホが震えた。
「……ごめん、ちょっと席を外すね。多分、いや、絶対神さまからだ」
「こちらはお気になさらずですよー」
そのまま私は石室の奥へ引っ込んでスマホをとる。
『あ、悠さんですか? お久しぶりです……て、少し間が悪かったですか?』
異世界通話を通してこちらの状況を読んだのか、神さまは少し申し訳なさそうな声を出した。
「いえ、むしろ聞きたいことが増えて、ちょうど良かったくらいです」
『そうですか。それはずばり、禍のことですね?』
話が早くて助かる。
『ふむふむ。じゃあ、逆に間がよかったってことですね。禍だけに』
「さっき禍に憑かれた動物に襲われたんですよ。その場はなんとかなりましたけど」
『スルーはさすがに神でも傷つきますね……』
これぞ神スルーですか、とか言ってたけど、ただでさえややこしい状況なのでここはさらりと流しておこう。
「でも、今こうして通話ができるということは、解決なされたんですね?」
「ええ。モルエ……一緒にいる死神さんが浄化してくれました」
「そうでしたか。死神さんがそちらに行ったのも運命的なものがあるのかもしれませんね」
「ほんと、そう思います」
今回の件もそうだし、モルエがいなかったらこの世界での生活ももっと寂しいものだっただろうな。
そういう面でもモルエには感謝しかない。
「……それで、あの禍っていうの、何なんですかね。元神さまに聞いてもどうにも正体不明で」
「そうですね。今回通話させてもらったのも、そのこともありましたので。あ、主な目的は、悠さん元気にやってますかー? ってことでした。お元気そうで何よりです!」
「おかげさまで、元気にやってます」
あなたのおかげで元気すぎる気がしないでもないけどね。
主にステータス的な意味で。




