21.大きい蛇に襲われた そして殴った
今作初のバトル?展開です!
私の身長の三、四倍はありそうな高さから、大きな黒い蛇が見下ろしていた。
三つ首の蛇は、全身が頑丈そうな鱗で覆われていて、顔が禍々しくて、目が真っ赤で……一言でいうとマジで怖い。
「これは……ヒュドラ!?」
モルエが隣でつぶやく。
「名前からしておっかなそうだけど、モルエの世界にも似たのがいたの?」
「え、ええ。このように多数の頭を持つ蛇の魔物です。ドラゴンの下位存在といわれるほど、恐ろしいモンスターです」
「そりゃほんとにおっかない……」
RPGとかでも後半に出てきそうなやつか。
日本でいうと、ヤマタノオロチと同じようなもんかな?
いや、正直蛇が何なのかは些細なことだ。
それよりも今はこの状況をどうするのかが一番重要。
……ま、逃げるしかないんだけどさ。
「よし、みんな! ここはに――」
逃げるよ!
……と、言おうとしたけど、それは無理だった。
――バッチィ――ン!!!
と大きな音。
その瞬間にはこれまた大きな衝撃が来て、私の視界はぐちゃぐちゃになってしまったのだ。
「ハ、ハルカッ!!」
モルエの声がかすかに聞こえた時には、私はお腹から地面に叩きつけられていた。
「ぐふっ……!」
こ、これは…………痛い……。
てか、お腹をしたたかに打ったのでうまく息ができない。
「ハルカーー!!」
遠くでモルエが悲壮な声をあげていたけど、ごめん、返事できないです。
「う……うう……」
ほんと、このまま死んじゃうんじゃないかってくらい痛いし苦しい。
多分見たところ、あの蛇に攻撃されて吹っ飛んだってところか。
あんなぶっとい蛇に叩かれたら、そりゃあタダじゃすまないよね。
……ああ、私はまた死ぬのか。
芽衣、ごめん。
姉ちゃん、そっちに戻れそうにないかも。
――ギャァァァォォッッ!!
「次はこっちに来るですよ!」
「くっ、よくもハルカを……!」
私の次は、蛇はモルエを標的にしたようだ。
三つの頭で容赦なく襲いかかる蛇だけど、見たところモルエも鎌を持って応戦している。
モルエにも謝らなくちゃな……。
先に逝っちゃってごめん。
でも、ちょっとでもお姉ちゃんみたいになれて嬉しかったよ。
「ああ、だんだん視界もぼやけて……」
……はないな。
それどころか、いつのまにか声が出るようになってる。
さらにはどんどん身体の痛みも引いてきて……
「難なく立ち上がれましたよ」
そうだった。
私、不老不死だったんだ。
この世界に来てからこの方危ない目にも遭ってなかったし、すっかり忘れてた。
今じゃ見える範囲、傷一つないや。
服の汚れを払って改めて見ると、元いた場所から50メートルくらいは飛ばされてるか。
いや、それよりも、未だに蛇はモルエに攻撃を続けているようだ。
モルエも善戦しているようだけど、いかんせん少しへっぴり腰気味になっている。
そうだ! あの子、能力こそ高いけれど全然戦いには慣れてないんだ……!
前から左右からモルエに頭をぶつけにいく大蛇。
このままじゃいけない……!
「こらー!! モルエをイジメるなぁ――!」
さっき叩かれたのもあって、私はけっこうムカムカしてきていた……。
その勢いのまま蛇に向かって走る。
そしてあっという間に元いたところに到着。
今なら、あの脚長鳩並みの速さで走れる気さえするぞ。
「モルエッ!」
「ハルカっ? 大丈夫でしたか!」
「うん! 私、訳あって死なないからね! それよりも……」
小さい攻撃を受けてたのか、モルエのローブがところどころ破けていた。
そんなになってもよく耐えたね、モルエ。
ここからは私に任せて!
「おい! 蛇! これからは私が相手だ!」
目一杯叫ぶと、蛇はピクリと身体を震わせてこっちを向いた。
よし、これでモルエが狙われることはなくなった。
鋭い牙を見せながら見下してくる蛇。
こうやって間近で見ると、やっぱりおっかない。
でも、こっちだってやられるばっかりじゃ割に合わない。
それに、自分でも意外なほど頭がクリアになってる。
――ギャァァァォォォッッ!!
案の定、蛇は頭総出でこっちに突っ込んでくる。
遅いねっ!
時間差でくるそれらの隙間を縫うようにかわし、蛇の腹の下に潜り込む。
「さっきの仕返しはきっちりさせてもらうよ!」
拳を痛いくらいに握りしめて、膝に力を溜める。
そして、飛び上がるように蛇の腹めがけて――腕を高く突き上げる!
「人間のアッパーを……くらえぇ!」
蛇の腹にクリーンヒットさせた私の拳は、思いの外めり込んだ。
――グギャァァァォッ……!?
そのまま蛇の巨体が宙に浮き、みるみるその姿が小さく…………って、高く浮きすぎ!?
「モルエ! 泣沢女ちゃん! 離れて! 蛇が落ちてくるよ!」
「は、はい!」
「わわわわ……!」
みんなまとまってその場から離れてしばらく。
数秒後に、ズドォォ……ンと音を響かせて蛇が地面に落ちた。
うん、見事に目を回して気を失ってる。
「ハルカ…………ものすごいパンチでした……」
隣でモルエがあんぐり口を開けていた。
「いやぁ、ちょっとカッとなっちゃって……。私も予想外」
御巫悠21歳。
はざまの世界に来て、大きな蛇をグーパンでやっつけてしまいました。




