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19.禍に出会ったらひとまず逃げましょう


「よかったら、禍について教えてくれませんか?」


「ええ、もちろん」


 そう言ったまま、まかみさんはしばらくじっと黙り込む。

 どこから話せばいいのか考えているのかな。禍とはどんな存在なのか、彼女の態度からも余計に気になってくる。


「……ううん……」


 ……あれ?

 どんどんまかみさんの顔が険しくなってきたぞ。

 やがて、その険しい顔が上がる。


「すみません。実はわたくし、禍のこと全然知りませんでした」


「そ、そうすか……」


 顔が険しかったのは、禍について必死でひねり出してたからなんだな。


「あ、ヒノ長老なら何か知っておられるかもしれません! 元神の最古参ですからね!」



 ……てことで、私たち三人で元神さまの集落へ向かった。

 今回は長老は起きていたらしく、家も熱くなっていなかった。


 家の中へ招かれ、私とモルエ、向かいにまかみさんと長老が座っている。

 といっても、長老は首が置かれているってのが正しいのか?


「ふむ。禍について……実は、ワシにもよくわかっておらんのじゃ。すまんの」


「そうなんですか」


 長老さんでもわからないとは、禍ってほんと謎な存在なんだな。


「そうさなぁ……。ワシが知っておることといえば……やつらは元神だろうが魂だろうが、見境なく襲いかかってくるということ。あとは、ワシら元神ではどうにも対処できないということ、じゃろうか」


 おいおい……。元神さまでもどうにもって。

 そんな裏ボス的なやつがこの世界にはいるのか。しかも「やつら」ってことは複数……。


 これが、幼女神さまが万が一なんとかって言ってた原因か。


「あの、もし、この世界で遭遇してしまった時はどうすればいいのでしょう……?」


 モルエが、「禍について」の質問から「禍の対処」へと質問を変えた。

 そうだね。実際、禍そのものより出会ってしまった時のやりようの方が大事なことだ。


「それはもう、逃げるに限る!」


 そしてもう真っ当な答えを頂きました。

 ま、そりゃそうだよね。戦うなんてありえないし、何かわからないものを捕まえて食べるわけにもいかない。

 訳のわからないものからは逃げるに限る! いい言葉だ。


「ワシも、神として生まれて数秒で死んでしもうたからの。神としての知識も全くない。お役に立てずにすまんの」


「いえ、危ない存在だってことはよくわかりました。今後気をつけて過ごします」


「ふむ。もし危ないと思ったら、迷わずこの集落に逃げ込んでくだされ。道祖神に守られたこの地へは、禍もやすやすと入ってはこれん」


「お二人とも、お気をつけて」


 長老とまかみさんにお礼を言って、私たちは再び石室へと戻った。

 モルエがお茶を淹れ直してくれたので、二人で少し休憩する。


「でもさ。もうけっこうこの世界にいるけど、そういうのは見たことないよね?」


「そうですね。ここは安全ってことなんでしょうか。でも、このすぐ近くの集落は結界で守られてますよね?」


「たしかにね。てことは……ここも結界的な力があったりして?」


 いやでも、水くみや釣りをしてる時も出会ってないしな。


「ま、考えてもわからなさそうだね。とりあえず、もうお昼頃だし、今日分の魚を釣りに行こうか」


 私の予想なんて越えそうな話だしな。

 それよりも今は魚釣りが先だ。まかみさんに渡した分でたしか最後だったはず。


「ええ、そうですね。帰ってきたら、次は試しに作ってみた五穀茶を淹れますね」


 モルエのお茶への探究心も私の予想以上のようだ。





今回もちょっと短めですんません!><

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